軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第249話 暗殺者

サイツ州、プルレード砦。

ボロッツ・ヘイガントは、探していた暗殺者と面談していた。

彼の横には護衛用の騎士が二名。どちらも腕利きだ。

後ろには執事服を着た家臣が二人。

さらにその後ろに、大きめの箱が二つ置いてあった。

「お主がゼツ……だな」

ボロッツは目の前にいる人物に、そう声をかけた。

ローブを身に着けている。深くフードを被っており、顔には仮面をつけている。性別は分からない。背丈は小さく女性のようにも見えるが、男性でもおかしくはない。

「はい、そうです。早速仕事の話をしましょう」

ゼツと呼ばれたその人物は、丁寧な口調でそう言った。

声を聞いても性別は分からない。男性とも女性とも取れるくらいの声色だった。

「カナレ郡長アルス・ローベントだ」

「カナレ郡長? 意外ですね。あなたくらいの大物なら、ミーシアン総督のクランか、もしくは逆にサイツ総督を狙うと思っていましたが」

「クランはまだしも総督様を私が狙うだと? 馬鹿なことを言うな」

ボロッツはゼツの言葉を聞き、不快な表情を浮かべてそう返答した。

「申し訳ありません。しかしなぜあなたは、一郡長に過ぎないアルス・ローベントを狙うのですか?」

「暗殺者は依頼人が依頼する理由を知る必要があるのか?」

「いえ、ただの興味本位です。しかし、暗殺を成功させるにあたって、アルス・ローベントの情報を出来るだけ多く教えてもらう必要があるので、結局理由に関しては話すことになると思いますよ」

「ふん、腕利きの暗殺者だというから、血も涙もない奴だと思っていたが、他者に対する興味も持っているんだな」

「嫌なイメージを持たれていますね。私は人間ですので、もちろん人並みに感情はありますよ」

「そうなのか? それでは仕事に支障が出るのでは? ターゲットに好感を抱いた場合はどうするのだ?」

「どうもしませんよ。予定通り仕事を遂行するのみです。業務に私情は一切挟みませんよ」

淡々とそう告げるゼツ。

何を当たり前のことを聞いているのだという態度だ。

そっちの方が逆に恐ろしい、とボロッツは思った。

「分かった。アルス・ローベントについて私が掴んでいる情報を教えよう」

ボロッツはアルスに関する情報をゼツに教えた。

暗殺を計画するにあたって、ある程度の情報は得ていた。

もちろん、アルスが他者を鑑定する能力の持ち主で、家臣には手強い者たちが大勢いるということも伝えた。

「鑑定眼の持ち主ですか。興味深いです」

「鑑定眼……? 奴の能力について何か知っているのか?」

「古い伝承です。このサマフォース大陸には三つの眼力を持つものがいるらしいです」

ゼツは突然語り始めた。

「戦術眼、予知眼……そして、鑑定眼、かつて、この三つの目を持つ者が、このサマフォースで成り上がったそうです。サマフォース帝国が誕生する、前の時代の話ですね」

「……そのような話、聞いたことないぞ?」

ボロッツは様々な書物を読んでおり、知識は豊富だ。

その彼にしてもその話は全く聞いたことがなかった。

「それはそうでしょうね。ローファイル州の一部地域に伝わっている古い伝承ですから。書物も数少なくミーシアンには存在しないでしょうね」

「なぜそれを知っている」

「私がローファイル州出身だからですよ」

真実を言っている確証は存在しないが、嘘とも断定はできない。

ボロッツは見定めるようにゼツを観察するが、仮面をつけているので表情の判別は不可能。仕草からも動揺などは見られない。

「アルス・ローベントは鑑定眼の持ち主で、優秀な人材なら生まれの貴賤は問わず家臣として登用しようとする。それならば思ったより簡単にやれそうですね」

ゼツの言葉にボロッツはうろんな目を向ける。

「本当か? アルス・ローベントの周りには有能な人材が多い。いくらお前が凄腕の暗殺者だとしても、簡単には成功はしないはずだ」

「ですからやり方がありますので。大丈夫ですよ」

「その方法を教えるつもりは?」

「教えて欲しいなら教えますけど、結果で示せば問題ないでしょう?」

「ふむ……まあそれもそうだな」

腕利きの暗殺者と言う話なので、ボロッツはゼツの腕を信じることにした。

どのみち、聞いたところでやり方を変えろなどと指示は出来ない。聞く意味はなかった。

「それより報酬の話をしましょう」

「……希望はいくらだ? 金貨なら大量に用意している」

ボロッツは後ろに置いてあった箱を部下に開けさせた。

ぎっしりと金貨が詰まっていた。

千枚以上は優に超えているだろう。

ボロッツはアルスの首を取るために、大金を払う準備をだいぶ前からしていた。

「金貨はある程度必要ですが、そこまでは必要ありませんよ。欲しい物はほかにあります」

「……なんだ?」

金以外が欲しいと聞き、ボロッツは意外に思う。

基本的に雇われの兵士、密偵、暗殺者などは、金以外の物は要求してこない。

家臣にして欲しいという例が稀にはあるは、ゼツはそういうタイプにも見えなかった。

「書物です」

「なに……?」

予想外の要求にボロッツは動揺する。

「……なぜ書物を欲する?」

「そんなに複雑な理由ではないですよ。私は書物を読み、知識を得るのがとても好きでしてね。あなたほどのお方なら、普通の者では読むことの出来ない書物を、いくつか所有しているはずでは?」

ボロッツは、サイツ州の中でも有力な貴族だ。治めている領地も大きい。

書物も多く保有している。

この世に二つとない書物も何冊かあった。

先ほど、ゼツはサマフォース帝国設立以前の歴史を語っていたが、普通はそんな昔の話、知るものは少ない。

こうやって報酬として書物を要求していたので、知識量も豊富なのだろうと、ボロッツは納得した。

「……分かった。暗殺に成功したら、好きな書物をくれてやる」

「書物を貰うつもりはないです。読ませて貰えばそれで十分です。書物が保管している場所に通していただき、一週間ほど滞在させていただければ十分です。重要なのは書物に書いてある知識ですから」

「……分かったそれでいいだろう」

ボロッツは条件を受け入れた。

一週間程度で本の中身を記憶するつもりなのかとか、知識なら何でもいいのかとか、色々疑問はあったが聞く必要はないと判断した。

「ありがとうございます。前金として金貨はいただきます。よろしいですか?」

「ああ、問題ない」

それから前金の額を交渉し、無事に成立した。

「それでは行って参ります」

「良い報告を期待している」

ゼツは颯爽と部屋から去っていった。