軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第214話 トーマスの予測

「全然だめだ! 遅すぎる! 勝てる戦も勝てなくなっちまうぞ!」

兵舎にトーマスの怒声が鳴り響いた。

カナレ城のすぐ近くには、大勢の兵士が、戦に備え訓練を積みながら生活をしている大規模な兵舎が建てられている。

トーマスはカナレに来て、兵の訓練を任されてから、カナレの兵舎で兵の訓練を行いながら生活をしていた。

彼の指導は非常に厳しい。

リーツも決して優しくはなかったが、それ以上に厳しかった。

見た目もかなりごつく背丈も非常に高いので、兵士たちは恐れを抱いていた。

もっとも、訓練を行う立場として、兵士たちになめられるのが一番まずい事なので、意図的に恐れられるような態度をトーマスはとってはいた。

(……やはりカナレの兵の練度はかなりたけぇな)

言葉で罵声を飛ばし続けるのとは裏腹に、心の中ではトーマスはカナレの兵たちを高く評価していた。

(あのリーツというマルカ人が今まで訓練をしていたらしいが……ここまで鍛え上げたのか)

トーマスは、兵を鍛え上げたリーツの能力の高さに感心していた。

引き続き兵たちの訓練をしていると、突如、ドォン!! という爆発音が鳴り響いた。

兵舎の隣には、魔法訓練所という魔法兵が訓練を行う施設があった。魔法兵は通常の兵とは、仕事が大きく異なるので、普段は別々に練習を行っていた。月に数回合同で訓練を行う事もあった。

「しかし、すげぇなシャーロット様の魔法は……」

「いや、もしかしたら新人のムーシャって子の魔法かもしれないぞ……あの子、この前の防衛戦以来急成長しているらしいからな……」

「そこ! くだらねぇこと喋ってんじゃねぇ!」

「「は、はい!!」」

魔法兵の様子を見て私語をかわしていた兵士たちに、トーマスは檄を飛ばした。兵士たちは慌てて訓練を再開する。

(先のベルツドでの戦では、クラン軍の魔法兵の力量を見誤っていたことが敗因の一つとなった。特にあのシャーロットの魔法は脅威というほかなかった……)

トーマスは、ベルツドでクラン軍に敗戦したときのことを思い出す。

(リーツにシャーロット……どちらもミーシアン州……いや、サマフォース全土でも中々いない有能な人材。ほかにもロセルはまだガキで未熟なところもあるが、驚異的な頭脳をもってやがる。ほかにも辺境の小規模な郡とは思えないほど、カナレには人材が揃っていやがる)

人材を揃えるという事が、どれほど難しいか知っているトーマスにとって、それは異様な光景であった。

トーマスは、アルカンテスの牢でミレーユに囁かれた言葉を思い出した。

「アタシが今仕えている子は、面白い子でね。いずれミーシアン、いや、サマフォースを統べる男になるかもしれない。アンタが気に入らないクランにもそのうち勝っちまうと思うよ。一度会ってみないかい?」

その言葉を言われたときはほとんど信じていなかったし、実際アルスと面会したときも、それほどの器の持ち主とは、初見では思えなかった。

(この人材たちをアルスが集めたのだとしたら、確かにあいつの言葉もあながち嘘ではなかったつうことか……)

アルスの評価をトーマスは改め始めていた。

(もしかしたら先の戦の敗戦も、アルスの存在が大きかったということか……? となると、バサマーク様の仇の一人という事になるな……)

そう考えたが、すぐにそれは違うと思い直す。

(確かにアルスの力は大きかったかもしれねーが、あくまでクランの命で動いていただけだろう。やはりバサマーク様の仇は、処刑命令を下したクランただ一人だ。

それに……俺がクランに仕えねぇーのは、バサマーク様がクランには州総督になる器がないと、否定をなさったからだ。総督の器にない者に仕えるつもりなど毛頭ねぇ)

トーマスは前主、バサマークの言葉を心の底から信じていた。

(もしアルスがそこまでの器なら……いずれクランと衝突するかもしれねぇな。アルスが野心を見せて反乱を起こすのではなく……クランがアルスを扱いきれなくなっちまうだろう。仮にそうなれば、俺はアルスの味方をする)

トーマスは、自分とアルスの今後を予想した。

(まあ、あくまで仮の話だ。今はどうなるかは分からねぇ。しばらくは、このまま兵たちに訓練を付けておくか)