軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第170話 サイツ軍

サイツ州が動き出したという報告を聞いてから、数日経過した。

バサマークが動き、クランが援軍を送れなくなるというのは、あくまでミレーユの予想に過ぎない。知略に優れた彼女でも、間違う可能性はゼロではない。

予想が外れていて欲しいと思っていながら、首を長くして返答を待つ。

伝令兵が急いで部屋に駆け込んできた。

「アルス様! クラン様より返答の書状が届きました! 急ぎ知らせよと!」

「来たか!」

私は早速書状を受け取り、中身を読んだ。

クランからの報告は、ミレーユの予想通りであった。

サイツが侵攻の準備を始めたのと、同じタイミングで、バサマークが軍を動かしたようだ。

かなり大規模に兵を動かしたようで、城の守りを薄くしてまでも、ベルツド奪還に動いたようだ。

アルカンテス城の防御力を信じた、賭けのような行動だとクランは最初思ったようだが、サイツが進行準備を始めていると知り、賭けではなくサイツと裏で何か取引をして、行動をしたのだと分かったようだ。

ベルツドは苦労して奪い取った、非常に重要な土地である。ここで奪い取られるわけにはいかないため、全力で防衛しないといけない。

アルカンテスから出陣した兵は、かなり大勢いるため、クランもそちらに大勢の兵を送らねばならず、カナレに大規模な援軍は送れなくなったようだ。

だが、カナレを見捨てるわけではなく、少数にはなってしまうが、援軍は送ってくれるようだ。

数は二万。

カナレの兵は8000ほどであり、総勢2万8000人とこれでも大幅に負けてはいるのだが、速攻で落城させられるほどの兵数の差ではなくなった。

数は少ないのだが、資源と兵糧は潤沢に送るようである。

また、援軍にはメイトロー傭兵団も送ると書いてある。

メイトロー傭兵団は以前一緒に戦ったことがある。

かなり有能なリーダーが率いており、非常に質の高い傭兵団だ。前の戦いで手を抜くことは、あまりしないという事も知っているので、信頼も出来る。

クランは、カナレが落とされる前に、必ずバサマークを追い払って援軍に行くから、まずはこの数で時間を稼いでくれ、という考えのようだ。

書状には絶対に援軍に行くから、劣勢になっても諦めずに戦ってくれ、絶対に降伏はしないでくれと、念を押すように書かれている。

こちらが本当にやばくなったら、降伏するかもしれないという事は分かっているようだ。

まあ、兵数に差はあるが、守りに徹すれば、もしかしたら守り切れるかもしれない。クランは戦には強いし、バサマークも追い払う事はそう難しい事ではないだろう。クランを信じて戦おうじゃないか。

とにかく早急に軍議を始めないといけない。

現状、私はカナレ城にいて、リーツは陣所を作るため、州境にある要所へと行っているので、今はいない。今回は、リーツ抜きで軍議をするしかなさそうだ。

冷静な意見を言ってくれるリーツは、軍議では頼りになるがいないものは仕方ない。

家臣たちを集めて、軍議を始めた。

「2万ねぇ。まあ、微妙な数だけど、無理ってわけじゃないねぇ」

ミレーユはクランからの報告を聞いてそう言った。

「ば、倍以上か……相当厳しいかも……でもメイトロー傭兵団がくるのはいい話だけど……でもでも、戦いは結局数だし……」

ロセルはネガティブモードに入っているのか、少し青い顔をして呟いている。

「敵のもっと詳細な戦略資源数とか、兵糧の数とかが分かればいいんだけど、まだそっちの情報はないの?」

敵の情報はシャドーに調べてもらっており、ちょうどクランから連絡が来る少し前ほどに、情報が入ってきた。

まだサイツの軍はカナレに向かって侵攻を始めてはいないが、狙いはカナレで間違いないようだ。

兵の数は当初の予想通り約八万。

兵糧は豊富にある。

最低一年は戦い続けることが出来るようだ。

魔法資源は若干少ない。

サイツでは炎の魔法石があまり産出されず、一番取れるのは土の魔法石である。

土魔法は、土塁や堀をすぐに作成したりするのには役立つ。防御をする場合には役立てるが、攻め込むには不向きのようだ。

高位の魔法兵なら、硬い鉄を作成してそれを飛ばして攻撃できるようだが、一般的な魔法兵は穴掘りや壁を作ったりしか出来ない。

サイツとは関係が長らく悪かったこともあり、ミーシアンで多く算出される炎の魔法石はあまり輸出していない。

炎魔法は非常に攻めに向いている魔法であり、それがないのは攻め手を欠くことになるだろう。

ただ、問題があり、爆発の魔法水を少数だが所持している可能性があるということだ。

爆発魔法を使うのに必要な爆発の魔法水。

魔法水の原料である爆発の魔法石は、ミーシアンでしか産出されないもので、当然サイツに輸出したりはしていないようだが、なぜか持っているようだ。

恐らく、バサマークが何らかの方法で渡したと思われる。

爆発魔法は、侵攻するのに非常に有利になる魔法だ。シャーロットが使っていたので、その威力は知っている。

敵にはシャーロットほどではないが、割と名の知れた魔法兵もいるという情報もシャドーが持ってきてくれた。

シャーロットが出したほど凄まじい威力とは言わないまでも、相当な威力の爆発魔法を使ってくる可能性はあるとみていいかもしれない。

また今回侵攻を指揮するのは、サイツの新総督になった男ではなく、新総督一番の忠臣で、下剋上を成功させる立役者となった、ボロッツ・ヘイガンドという男が兵の指揮を取っているらしい。

何やら相当有能な指揮官のようで、三万の兵で十万の敵軍を撃破したようだ。その時の敗戦で大きな痛手を被り、旧サイツ総督の側の敗北が決定的になったという話だ。

よく考えれば、敵は下剋上を成功させた勢力であり、優秀な人材もいるだろう。

家臣が優秀なのは、自分だけと思わない方がいいということだな。

「兵糧は豊富、炎の魔法水は少ない、爆発の魔法水は少数ながらある。そして、敵将は優秀な人……か……士気はどうだった? 戦には重要な要素だよ」

「大きな戦があった後にすぐ戦という流れになったからか、そんなに盛り上がってはいなかったようだ」

「そっか。士気はそれほど高くないと。でも、相手が優秀な将なら、兵の士気を上げる方法くらい持っているかもしれないし、だから弱いってことにはならないかな」

ロセルはそう予想した。

「厳しい状況には変わりはないねぇ」

情報を聞いたミレーユがそう呟いた。厳しいと言っている割には、顔はにやついている。

「勝てると思うか?」

「今回の勝利目標は、敵軍に大損害を与えることではなくて、敵を追い払う事だ。それなら勝利も不可能じゃない」

ミレーユの言葉にロセルは頷く。

「そうだね。サイツ軍がカナレに攻めてくるのは、何らかのメリットがあるから。多分バサマークと何か取引をしたんだろうね。サイツ軍がカナレを攻めて得る何かより、失う物の方が多いと思わせれば、引き返していくと思うよ。サイツがカナレを攻めて何を得るか知らないけど、多くの戦死者を出してまで、得たいものではないはず」

「……つまり、攻めるにはデメリットの方が大きいと、サイツ軍に思わせればいいわけだな」

ロセルが頷いた。

「そのためにはとにかく戦の出鼻だ。出鼻をくじく必要がある。一番最初にガツンとかまして、敵の士気を一気に落とせば、相手がいかに名将と言えど、それを立て直すのには、手間がかかる。無理に攻めてこない可能性が高いね」

カナレを攻めるデメリットが大きいと思わせる方法をミレーユが語った。

出鼻をくじくか。

数で負けている状態で、敵を追い払うのは、それが確かに一番いい方法かもしれない。

こちらには凄まじく強い魔法兵のシャーロットと、兵を指揮するのがかなり得意なリーツがいる。

さらにメイトロー傭兵団も援軍に来るというのなら、兵の質は敵軍に負けていない。いや、高確率で勝っていると思っていい。

「またシャーロットの力をだいぶ借りる必要がありそうだな」

「頼んだよ、シャーロット姉さん」

軍議の場に一応出席していたシャーロットにロセルが、そう言ったのだが、

「ぐーぐー」

と話がいまいちわからず暇だったのか、いびきをかいて寝ていた。口元から涎が垂れており、馬鹿っぽい顔だ。

彼女にカナレの命運を託さないといけないと思うと、少し不安に思ったが、まあ、戦場で魔法を使っているところは、怪物みたいに凄いから、信用しよう……

「シャドーに敵の動きを報告してもらって、どういう感じで攻めてくるか調べた上で、少しでも有利になりそうな場所に布陣をしよう。多少こちらが良い位置にいても、向こうは数が多いから、勝てると踏んで攻めてくるはず。そこを返り討ちにする。そんな感じかな」

ロセルがそう言った。とにかく今は敵の動きを待つ必要があるようだ。

シャドーたちは優秀であるが、流石に敵軍がどんな戦術で攻めてくるのかまでは、調べ上げることは出来ない。時間があれば調べ尽くしてくれるかもしれないが、そこまでの時間は敵はくれないだろう。

敵の戦術はロセルとミレーユに予想してもらうほかなさそうだ。

軍議は一旦ここで終了する。

シャドーがサイツ軍の情報をくれる前に、援軍がやってきた。

敵は魔法水の輸送が若干遅れているようで、まだ出陣していない。シャドーが最初に報告してきた魔法水の量より、実際は多いようである。敵軍の脅威度が少し上がった。

こちらも援軍がいっぱい炎の魔法水を持ってきたので、援軍に来てくれたのは二万人だが、戦力的はかなりの増強になった。

そして、メイトロー傭兵団も来ており、私は団長のクラマントと再会した。

「また会ったな」

意外とクラマントと早い再会を果たした。

相変わらず冷たい目の男である。見られると凍り付くような感覚に陥る。

「お前のような子供が郡長とは、分からないものだな。貴様の持つ妙な目のおかげか?」

クラマントがそんなことを言ってきた。彼に私が鑑定スキルがあると誰か話したのだろうか?

クラマントは私の目が気に入らないと言っていたし、もしかしたら自分で気付いたのかもしれない。

常人離れした観察眼である。

彼は優秀だし、出来れば私の家臣になってほしいと思っているのだが、何となく今勧誘しても絶対に成功などしない気がした。

あまり他人に仕えたりしないような、そんな空気感を感じる男である。

よほど気に入られないと、家臣にはなってくれないだろうな。

「まあ、貴様の事情はどうでもいい。今回はかなり危機だという話を聞いている。大金を貰っているから、それ相応の働きはしよう」

「心強い」

心の底から思った言葉を私は言った。

傭兵として貰った金額並みの働きはする男だ。クランなら物凄い額を払っていても不思議ではないので、戦場の働きは期待してもいいだろう。

私たちは援軍の兵を引き連れて、州境にある一番重要なクメール砦へと向かった。

このクメール砦を敵に押さえられると、かなり厳しくなるので、ここには多くの兵を置く。

本陣もここにして、兵への指示などはここから送ることにする。

リーツはこの砦の近くの街道に、陣所を急ピッチで作成し、防衛線を敷いた。

この防衛線の一番前線での戦いで、敵に大きな損害を与え、我々を攻めるのはメリットがないと、サイツ軍が思い撤退するのが、一番理想的な戦いだろう。

兵を動かして、戦の準備をしている最中、サイツ軍が動き出したという報告が届いた。

遂にサイツ軍との戦が始まった。

「遂に敵が動いたか。さて、とにかく初戦で敵に大打撃を与え、早々に戦を終えるというのが、今回の目的だ。なので最初からリーツ、シャーロット、メイトロー傭兵団には、前線で戦ってもらう」

「了解しました」

リーツはすぐに返答した。シャーロットもクラマントも特に反対することはなかった。

「戦略上は初戦で勝利を収めたいが、敵軍が思ったより強力で、旗色が悪くなったら、無茶はせずにすぐに撤退してくれ、間違っても死ぬまで戦ったりはしないこと」

リーツ達を失うわけにはいかない。

初戦で大勝利して敵が撤退していくというのが、理想的な戦の勝ち方ではあるが、そううまくいかないこともある。

ただ、そうなっても兵糧や資源はあまり心配しなくてよく、クランもそのうち大規模な援軍を送って来てくれそうであると考えると、何とか粘って時間稼ぎをするというのもありではある。

当然そうなると、きついし、兵を多く失うことにもなりかねない。

カナレ領地の深い位置まで攻め込まれて、領地を大きく荒らされる危険性もあり得る。

やはり、初戦で大勝して追い払うのが、一番理想的な展開であるのは間違いなかった。

リーツは私の言葉に頷いたが、戦になったら頑張り過ぎてしまうかもしれない。ある意味、一番心配である。

クラマントは傭兵で引き際は弁えているだろうし、シャーロットはあまり真面目じゃないので、撤退するのも躊躇しないだろうが、リーツは真面目で忠義に厚いので、ここぞという時引き際を間違えてしまうかもしれない。

私はあくまでクメール砦にいるので、近くで指示を出せないので非常に不安だ。

いっそ私も一緒に前線に行こうかと言ったが、止められた。

私は一応郡長で、カナレのリーダーだ。ここで討ち取られでもしたら、兵の統率が一気に取り辛くなり負けが濃厚になる。今の自分の身を守ることは、家臣や領地を守ることに直結するという事を改めて実感した。

「それでは出陣して来ます」

私は兵達と共に戦場に向かうリーツ達の姿を、心配しながら見送った。

勝敗はこの際関係なく、とにかく無事で帰ってくればそれでいいと思った。