『お前らは俺がいないと何もできない』と言っていた剣士を外した結果、依頼主の評価が爆上がりした~剣士様、貴方が抜けてからの方が仕事がスムーズですよ?~
作者: ちはやれいめい
本文
「俺に辞めろって言ってるのか!? 俺が前線にいないとダンジョン一つまともに攻略できないくせに! 俺が納得できる理由を言え!」
宿屋の一室に、剣士ゴーマの怒声が響いた。
仲間たちは一様に渋面をしている。
ゴーマのいるパーティーは、格闘家のケン、魔法士のシェード、商人のブラックの四人だった。
シェードは一つ咳払いしてゴーマに言う。
「そういうところじゃよ」
「は!? どういうところだ!」
ケンは腕組みしたままゴーマに返す。
「ハッキリ言おう。貴方のせいでパーティーの評価は下がるばかりだ。貴方は依頼主のところに向かう日毎回当たり前のように遅刻する。時間になったから先に依頼主のところに行けば、依頼主に謝罪することなくそうやって怒鳴り散らす」
「リーダーである俺抜きで行こうとするお前らが悪いんだ。俺がいるからモンスターを倒せるんだぞ!」
ブラックはゴーマの言い分を聞いて呆れたように肩をすくめる。
「相手を従わせるために怒鳴る、俺のおかげでと言ってワタシたちを見下す発言。対等な仲間にする態度ではないんです。もちろん、「俺が依頼を受けてやっている」など依頼主相手に言っていいことでもありません」
現に今日の依頼も、ゴーマは一時間遅刻してきた。
「遅刻常習犯にやれる仕事なんかあるか!」とご立腹の依頼主に頭を下げたのは、年長のシェードだ。
遅刻した当人は一度も謝罪の言葉を口にしない。依頼主が怒るのも当然だった。
この尻拭いが高頻度なので、仲間たちは辟易していた。
誰一人として残ってくれと言わないことにゴーマは業を煮やし、机を力任せに叩いた。
「ああそうかい。なら出ていってやるよ! 俺を外したこと、後悔しても遅いからな!」
ゴーマは椅子をけり倒して出ていった。
それから一月。
ゴーマが抜けたパーティーは、暴君がいなくなったことで順風満帆だった。
ギルドで受ける依頼は、剣士がいなくても受けられるタイプの依頼に方向転換した。
無理に難度の高いダンジョン踏破するよりは、護衛や盗賊退治など町での依頼をメインにした。
ギルドの受付嬢も苦笑しながら、「あのうるさい方がいないなら、またあなたがたにお願いしたいと依頼主のローエン様が仰っていましたよ」と教えてくれるくらいだ。
ゴーマは一人で高ランクダンジョン上層探索などをしているらしい。
一度町ですれ違ったときには、ケンたちを横目で見てあざ笑っていた。
「俺はナンカーンの5層まで行ってきたぞ。お前ら三人束になっても1層攻略すらできないだろうなぁ?」
さらに半年。
大きな商店の店主が、ブラックの鑑定眼を見込んでくれた。
専属で店の鑑定士をしてくれないかと頼まれたのだ。
ブラックの鑑定眼は仲間のひいき目抜きにしても優れていた。
よく似た見た目や香りの薬草数点並べても、どれがどの効能なのか完璧に見分けられるのだ。
ケンもシェードも、ブラックが評価されておおいに喜んだ。
「よかったなブラック! 店で働くの、夢だったじゃないか」
「ケンの言うとおりじゃよ、ブラック。このチャンスを逃してはいかん」
「ケン、シェード……。ありがとう。がんばるよ」
ブラックが抜けてからもケンとシェードは冒険者の仕事を続けることにした。
そんなときだ。
ギルドに行くと、ゴーマが久しぶりに話しかけてきた。
流石に高ランクダンジョンを単身踏破はきついのか、ゴーマは鎧も体も傷だらけだった。
この半年依頼を受けるよりも、ダンジョンに単独潜入して回収したアイテムを売りに出すのを主な活動にしていた。
「おぉ? ブラックもクビにしたのか? えげつないなお前ら」
「クビ? まさか。ブラックは大店にスカウトされて今や専属鑑定士だよ。仲間が活躍するのは嬉しいものだな」
町で一番大きな商店の専属鑑定士……商人の中では大躍進だ。
「それで、なんのようがあってわしらに話しかけてきたんじゃ?」
シェードが先を促すと、ゴーマは鼻を鳴らす。
「あのときのことを謝るなら、また一緒に冒険してやっても……」
「一流のゴーマさんは、足手まといの我々がいないほうがダンジョン攻略もしやすいでしょう」
ケンがなかば食い気味に答えた。
シェードも追従する。
「老いぼれには高ランクダンジョンはきついのう。ほれ、あそこの掲示板にパーティー募集の紙が貼ってある。お主の要望に合う者はあそこで探すとよかろう」
それだけ言ってケンとシェードは受付に向かう。
ゴーマは拳を固めて歯噛みする。
掲示板に出ているパーティーたちには、すでに加入お断りされたあとなのだ。
ギルド内にいた他のパーティーも、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりにサッとゴーマを避け道を開ける。
ケンとシェードがゴーマに会ったのは、これが最後だった。
別の町のギルドに移ったという噂を聞いたが、そこから先のことは知らない。
たまに仕事終わりに商店に行き、ブラックと茶飲み話をする穏やかな生活が続いている。
今日も平和である。