作品タイトル不明
11.税制も見直さねえとな
光熹元年(189年)12月 司隷 河南尹 洛陽
メルハバ、董卓だぜ。(トルコ風)
天子まで巻き込んだ結果、 兼併(けんぺい) 対策は動きはじめた。
今は対策案の細部を詰めてから、近場の司隷や豫州、荊州の南陽郡辺りで進める予定だ。
不都合があればそこで見直し、やがて全国へ展開する形になるだろう。
その動きを確認した俺たちは、次の提案をぶち上げた。
「またお前らか。今度はなんだ?」
「ハハハ、そうおっしゃらず。今回も重要な内容です」
「という事は、税制の見直しか。まずは話を聞かせよ」
「はは、それでは」
嫌そうな顔をする袁隗に促され、説明を始める。
彼も言っているように、すでに概要は伝えてある話だ。
なんの根回しもなく持ち出しても、門前払いをくらうだけだからな。
そして今回の提案は、税制の改革だった。
端的に言えば、算賦(人頭税)を家ごとに 布帛(ふはく) (麻や木綿の布と絹布)で納めさせようというものだ。
まず漢王朝における租税には、主に田租と算賦がある。
田租は作物の十分の一程度を納めるのに対し、算賦は現金で1人頭120銭を納める必要がある。
田租はまだいいとして、問題は算賦だ。
一人あたり120銭の支払いは容易じゃない。
前漢の初期ぐらいなら、作物を銭に替える市場が、わりと機能していたからまだよかった。
しかし商人や豪族の力が強まると、農民は足元を見られるようになる。
ただでさえ苦しい生活が、どんどん厳しくなる。
そこへ飢饉や戦乱など起ころうものなら、小農民は窮地に陥ってしまう。
土地は豪族に取られ、農民は小作農や奴隷になるか、流民となって逃げるしかない。
そんな中、曹操が導入したのが、家ごとに布帛を徴収する戸調制だ。
元々、後漢の末期になると、算賦の一部を調(布帛)で徴収するようになっていた。
これは小農民は農業をするだけでなく、家内の織物工業が奨励され、布帛の生産量が増大していたからだ。
現物で徴収するようにすれば、農民は作物や布帛を買い叩かれずに済む。
さらに豪族の下にいる私有民を厳密に調べ上げるのは、この時代では困難だ。
手間暇もさることながら、豪族の反発を買うことは必至である。
そこで戸数を把握して、家ごとに布帛を納めさせれば、おおむね上手く回るという算段だ。
「ううむ、布帛による納税自体は、すでに実績がある。しかし算賦を全て置き換えるのは、いかがなものか」
「しかし算賦を残したままでは、また困窮する民が出てきます。それぐらいならば戸調制に統一し、布帛の取引制度を整備する方が、全体としては上手く回りましょう」
「いや、しかしな……」
またもや袁隗が渋ると、 馬日磾(ばじつてい) が口添えしてくれる。
「董将軍のおっしゃることも事実です。まずは試験的に導入し、問題点を洗い出してから決断すればよいのではありませんかな」
「ふむ、それもそうであるな。先の兼併対策よりは、反発も少ないであろうし」
「ええ、私もそう考えます」
グッジョブ、馬日磾。
彼のサポートで袁隗も納得してくれた。
この馬日磾ってのは、史実では太傅にもなる重要人物なんだよな。
ただし董卓が暗殺された後の話で、彼は中原の混乱を収めようと巡行に出る。
そこで 陶謙(とうけん) や袁術を味方につけようと画策するんだが、袁術に軟禁されてしまう。
そして袁術配下に地位を与えるよう強要され、憤死するという可哀想な最期を迎えるんだ。
しかしその義侠心はなかなかのもので、こうして俺たちに協力してくれている。
この世界では安らかに死ねるといいな。
いずれにしろ、漢王朝の改革はこれからだ。
今後も彼らの協力を得て、なんとか進めたいものである。
その後、兼併対策と戸調制が静かに動きはじめた。
まずは近隣で試験導入し、問題点を洗い出そうとしている。
すると当然のように、豪族から妨害が入る。
奴らはあらゆる伝手を使って、政策を骨抜きにし、私有する民や土地を過少申告し、脱税しようとする。
しかし汚職官吏の摘発が先行していたので、思っていたよりはひどくなかった。
そして俺は 驃騎(ひょうき) 将軍に昇進し、正式に将軍府を開設していた。
これも地道な献策と、洛陽の治安維持が評価された形だ。
もちろん、劉弁陛下にそれとなく根回しして、後押ししてもらったけどな。
こうして大きな権威を手に入れた俺は、改めて国内の治安改善に取り組んだ。
表向きは盗賊や反乱分子を取り締まる名目で、各地に部隊を派遣する。
ついでに各地の情報を集め、汚職官吏がいれば、改めて監察官を送りこんだ。
そんな感じで官吏や豪族に圧力を掛けつつ、綱紀の粛正を図ったのだ。
ただしあまり厳しくやり過ぎると、反発も大きくなる。
そこで罰則は罪一等を減じる方針で、寛大に応じた。
おかげでこの後漢帝国の治安は、めざましく改善している。
たぶん。
だってこの国、大きすぎて全体の把握なんか、到底できないんだもん。
そんな中でできる範囲で、できるだけのことをしている。
我ながら、よくやってると思うよ。
でもさすがに、ちょっとうんざりしてきた。
純粋に仕事に専念できるならいいけど、毎日、有象無象が面会を求めてきやがる。
さすがに全ては断れないから、渋々対応してるわけだ。
ああ、そろそろ田舎に帰りてえなあ。