軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33.地下

部屋を出ると煙が充満し、階下へ繋ぐ階段は火で塞がれていた。

「ごほっ。まずいな。それにさっきの男がいない」

倒れていたはずの男がいないのに気づいたデュークが眉を寄せた。私も呆然と火の手を見ていたが、男の存在を思い出し視線を移す。

血の痕が廊下の奥へと向かっており、扉もないところでそれは途切れていた。

「もしかしたら隠し部屋があるのでは?」

「そのようだ。火が回っているし、この血の後を追ってみるしかないな。だが、どこに男が隠れているかわからないから気をつけよう」

「はい。そこに盗んだ宝石を隠している場合もありますし、避難のためにそれしかなさそうです」

火の手を意識しながら血が途切れた場所へと移動すると、そこに絵画が飾られていたが血で汚れた手で触った跡があった。

「ここだな」

絵画をのけると、人の手が入る隙間があった。そこにデュークが手を入れてぐっと突起のようなものを押さえると、カタカタと音がし人一人分通れる道が開けた。

そこからは暗くて見えないが、火の手が追っていることもあり私たちはその隙間へと身体を滑らせた。

「不思議な構造ですね」

こつ、こつ、と音が響くなか、壁伝いに階段を下りていく。

暗闇でよく見えないが、火事に巻き込まれていたと思えないほど静かになり、ひんやりとした空気と独特の匂いが地下を思わせた。

「二階から隣の建物の地下に直接繋がっているのかもしれない。窃盗に遭った時の聞き込みや、その後の調査で誰も気づけないはずだ」

「ほかの場所に繋がっているのなら、出入りの人数がおかしいと言っていたのも納得ですね」

「ああ。この先に必ず何かがある。男の姿はないようだが、逃げたのか潜伏しているのかわからない。フェリシアは俺から離れないでくれ」

頼もしいデュークに連れられ、隠し部屋のような場所にたどり着く。

警戒しながら部屋を覗くがそこに誰もいる様子はなく、これまでゆっくりと足音も立てず口を噤んでいたデュークがそこで声を上げた。

「どうやら逃げた後らしい」

「そのようですね。火をつけたのは、注意をそちらに向かせるためなのかもしれませんね」

「ああ。ここに複数人いたようだし、俺のこの足では追いつけないだろう。気づいて捕まえてくれているといいんだが。俺たちはここに何かあるかを確認してから上に向かおう」

デュークは目を凝らしながら周囲の壁を確認し、部屋の明かりをつけるスイッチを見つけた。部屋が明るくなり、中の様子がようやく見える。

「これは……」

「確実だな。これまで盗んできた宝石だろう」

目の前には高価な品の数々。

慌てて取るものを取って逃げたような形跡があるが、それでも相当数の宝石や金属類が置かれてある。

「展示品の宝石、ピンクローザは無事でしょうか?」

私の言葉にデュークは極わずか顔面の筋肉を動かしたが、静かに頷いてすぐに確認を始めた。

「あった。これだな?」

デュークはピンクローザが入った、上部が透明のガラスででできたケースごと取り出した。

厳重に鍵がかかっているためケース越しにしか確認できないが、展覧会で見た色と形そのままの宝石を前にし、ほっと肩の力が抜ける。

「大丈夫か? ほかの展示品もあるようだ。どうやら金属類を主に持ち出したのか、宝石はある程度は無事のようだ」

肩に回されていた腕に力が込められ、包み込むような穏やかな双眸が私を見下ろす。私がピンクローザに拘った理由を気にしつつも、触れられない。

話すのを待ってくれているのだと、私はピンクローザを眺めながら口を開いた。

「こんな時ですが、学園でしていた話の続きをしてもいいですか?」

「ああ」

無類の信頼を寄せた双眸に後押しされ、私は大きく息を吸った。口を開きかけたが、喉の奥が締まりいざ話そうと思うと声が出ない。

「ゆっくりでいい。ちゃんと聞くから」

優しい声で宥められ、私は小さく頷いた。

「おかしな話ですし、気分のよいものではないので嫌な思いをされるかもしれません。それでも、デューク様に聞いていただきたいんです!」

「フェリシアの話ならどんなことでも受け止める」

デュークなら大丈夫、そう思うけど不安から言葉を重ねてしまう。

それに対してデュークの瞳は私の不安もすっぽり包んでしまうほど凪いでいて、私は勇気をもらい切り出した。

「私はある時、前世の記憶をおぼろげながら思い出しました」

「前世の?」

「はい。その前世で読んだ物語はこの世界と酷似していて、私はその物語で語られるだけのデューク様の死んだ婚約者でした」

死に役だった私。それを思い出した時に、死なないこと、デュークを諦め距離を取ることばかり考えていた。

まさかデュークとこの話をするなんて考えもせず、感慨深い思いでデュークを見つめる。

デュークは静かに瞳を揺らした。

戸惑いながらも、私の言葉を疑うことはせず消化しようと一つの疑問を発した。

「まさか……。殺されたことを覚えているのか?」

「いえ。あくまで物語では私が死に役であったことだけです。誰が私を殺したのか、なぜなのかもわからないままでしたので、どうにかしたくてあの頃は必死でした」

「そう、だったのか…………。だから……」