軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28.物語の強制力

一通りイレイン王女がよく出向く教室を確認し、私たちは外へと出た。

「ほかに殿下が行かれる場所の目星があるのでしょうか?」

「あらかた探したので、後はこっちのほうだけです。ここで見つからなければ見失ったところに戻って、それでもいなければ周囲に伝えようと思います」

気持ちが急いているのか、足早に歩くセラフィーナに遅れないようについていくと、剣術大会の時にイレイン王女を見かけたガゼボがある庭園に出た。

この季節に咲いている花はほとんどなく、寒さもあり訪れる人はめっきり減るが、確かにここにイレイン王女がいる可能性はあるなと私は後を続いた。

ガゼボ周辺を見渡せる位置に移動したが、残念ながらそこに人のいる気配はない。

「どうやら、こちらにもいないようですね」

「そうですね。いつもはすぐに見つかるのですが、いったいどこに行ったのでしょうか……」

不安で声が小さくなったセラフィーナに、励ますように声をかける。

「きっと戻っていますよ。イレイン殿下も少しのつもりでしょうし、ことづけもなく長時間いなくなるとは思えませんので」

セラフィーナと一緒にいたのに、イレイン殿下が彼女に何も言わずに学園を出るとも思えない。

自由なイレイン王女はきっと誰かと楽しくおしゃべりに夢中になってしまっただけで、今頃セラフィーナとはぐれて王女も焦っているはずだ。

それから二手に分かれて、セラフィーナは木々が囲い込む庭園の奥、私は反対側の池があるほうへと見に行くことにした。

この先にある池にはアーチ型の橋があり、向こう側に渡っている可能性もある。

空は太陽の位置がわからないほど厚い雲で覆われ、地上は薄暗くどことなく寂しい気配が漂う。

びゅうっと北風が吹き、スカートや髪を煽る。髪を直す手が頬に触れ、その冷たさにすっかり寒くなったと思いながら髪を直したその時だった。

「きゃあ」

後方にいるセラフィーナの悲鳴が聞こえ、がさがさっと木々が揺れる音がする。

「セラフィーナ様?」

どうしたのかと振り返るが、彼女がいるはずの場所にその姿はなかった。どきぃっと心臓が痛いくらい跳ねる。

私は慌ててセラフィーナがいた場所へと駆けた。すぐそこなのに、ものすごく遠く感じる。

「セラフィーナ様。どうしたのですか?」

返事をしてくれと何度か彼女の名を呼ぶが、ただ風と共に木々が揺れるだけでなんの反応もなかった。

――嘘でしょ!

嘘だと言ってと、嫌な音を立てる心臓を無視して奥へと進む。

「セラフィーナ様!」

呼びかけても返事がない。

さっきまで一緒にいたのにまさかと思うだけで心臓は早鐘を打つ。私は焦って周囲に視線を走らせた。

広い場所だがぽっかりと空いた低木で囲まれた道は一直線に延び、姿を見失うなどあり得ない。

だけど、セラフィーナは忽然と姿を消した。あり得なくとも、実際に起こってしまっている。

――つまり、誰かに連れ去れられた?

物語も、デュークの夢も、学園外での話だったので、 学園(ここ) で何かが起こることは想定していなかった。

冷たかった手がさらに冷たくなり、一緒にいたのにと自責の念で頭の中が白くなっていくがぐっと拳を握りしめた。

現実逃避している場合ではないと奥歯を噛み、少しでも手がかりはないかと注意深く周囲を観察する。

セラフィーナは私と同じくらいの身長だ。木々に痕跡がないか確認し、地面へと視線を向けた。そこで、木の根元に光る物を見つける。

「あっ。これは」

そこだけ葉が地面の上に散らされていた。しかも、そこにはセラフィーナがつけているブレスレットが落ちている。

つまり、ここで転げたのか、誰かに引っ張られたか。

呼んでも返事がないので後者の可能性は高く、引き返すべきかどうか迷ったが、先ほどまでセラフィーナがいたことを思うと、このまま何もしないわけにはいかない。

ブレスレットを拾い、勇気を出して草木をかき分け向こう側を覗くが、木々が重なっているだけで何も見えない。

だが、ここ以外に怪しい場所はなく、何より彼女がつけていたブレスレットはここで何かがあったことを示している。

外部の者か内部の者か。考え込んでいると、背後からハンカチで口を押えられた。

「うっ」

薬品の匂いを認識した瞬間、身体の力がすぅっと抜け自身で立っていられなくなった。ぐらりと傾ぐ。

襲ってきた人物にぶつかり、掴んでいたブレスレットが手から滑り落ちた。

「手間をかけさせやがって」

男の声とともに、ばきっと硬い何かが壊れた音がする。

――油断したつもりはなかったのに……。

ここは学園。危険を冒し侵入してまで個人的に狙われる要素は考えもつかず、かといってセラフィーナが狙われる理由もわからない。

少しでも起きていようと抗うが、薬を嗅がせた人物の茶色の髪が目に入ったところで意識を手放した。