軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26.夢見と想い

「デューク様」

名を呼ぶ声に、自然と甘えが出るのが自分でもわかった。これほどまでに、デュークとの心の距離を含め、温もりを欲していたのだと痛感する。

「ずっと本当は触れたかった。俺はいつだってフェリシアの幸せを願っている」

デュークの私を見つめる瞳に一段と熱がこもり、眦がじわりと濡れた。

「私もです。二人で幸せになりたいです」

「そうだ、な。二人で」

デュークは噛み締めるように、まるで胸が詰まったようにぽつりと繰り返す。

イレイン王女たちとの交流が始まってからどうしても確認したくて、何かしないといけないと、中途半端な記憶の歯がゆさから急いた思いもあった。

これから大きな展開が広げられるとわかっているのに、何も掴めていないこと、少しでも収穫をと焦りもあった。

やっと届いた想い。まっすぐなデュークは実直な反応を見せてくれ、これで関係改善のはずなのに、手から伝わる温もりに心は温かくなっても、どこか不安を覚え私は言葉を重ねた。

「デューク様ならすべて受け入れてくれるだろうと、甘えた心があのような行動になってしまいました。デューク様の気持ちを蔑ろにしたかったわけでもありません。明確な何か、それを見つけたくて 急(せ) いていたようです」

「俺は……」

握られた手を握り返し伝えると、ふ、とデュークは息をついた。

一度瞼を伏せ、ゆっくりと開かれる濃紺の瞳は、ゆらゆらと湖面に映る月のように揺らぎおぼろげに見えた。

掴み切れないものを前に解けきった氷がちゃぷちゃぷと音を立て、私はこぼさないようにお腹のあたりを無意識に押さえた。

もう、好きな人との時間をぎこちなく過ごすのも、デュークとすれ違ったまま大きなイベントを迎えてしまうのも嫌だ。

私はお腹に力を入れて、想いを言葉に乗せた。

「私はデューク様を好きなのはずっとです。カーティス曰く、オルブライト家は一度気になったら徹底しているのだそうで、私の場合、その気質はデューク様を想うことに向いているのだと思っています。ほかにも好きなことやしたいことはありますが、その根底は揺るぎません」

私の恋心はしぶといことは実証済みなので、そこは胸を張って言える。

「……そうか」

恥ずかしげもなく言ってのけると、口をへの字に下げていたデュークの口元が一瞬上がった。だが、すぐさま気がかりがあるのか引き結ばれる。

「デューク様。何か言いたいことがあるなら言ってください」

今日は話し合うために、わかり合えないのなら物語の、死に役の話もすると決めている。話しても解決しなければそれはそれだ。

とことん話しましょうとじっと見つめると、デュークが観念したように口を開いた。

「こんな話を信じてもらえないかもしれない。最初はただの夢、話すようなことでもないと思っていたんだが……」

「夢、ですか?」

「ああ。フェリシアを失いたくないから不安だったが、このままでは取り返しのつかないことになるかもしれなくて、俺は……」

デュークが私の行動を制限しようとする動きの理由、それは夢に関係しているようだ。らしくない言動の理由が関係する夢の内容はとても気になる。

私の様子をうかがいながら話すデュークに私は促すように静かに頷くと、デュークはゆっくりと目を閉じ重い口を開いた。

「実はイレイン殿下を見た時から、毎晩悪夢を見るようになったんだ。その夢が、あの音楽室でフェリシアが殺されたところから始まり……」

そこでデュークは肩を震わせ、息を詰めた。

話すだけでも苦しそうなその姿に、どれほどその夢に苛まれてきたのか。私はデュークのもう片方の手を掴み、そっと握りこんだ。

「デューク様。こっちを見てください。私は生きています」

まるで、私が思い出した前世の物語の出来事のような夢。

音楽室で死んだのは物語の私。

私であって、今この世界にいる転生の記憶のある 私(フェリシア) ではない。

私は物語のことを思い出したことにより、行動を変えて物語では生きていなかったその先の時間を生きている。

瞼を上げたデュークの暗く沈んでいた瞳が、私を捉えゆっくりと光を取り戻す。

視線を逸らさずにいると、デュークはふっと頬をぎこちなく緩ませた。

「ああ、そうだな……。フェリシアはここに、いる。そうだ。ちゃんとわかっているんだ」

今にも消えそうな声とともに私の後頭部に大きな手が回り、そのままデュークの肩に顔を押しつけられる。

デュークの匂いに包まれながら目を見張っていると、ぎこちなく前に移動してきた手にそっと瞼を、頬を撫でられ顔を覗き込まれた。

瞬きをすると愛おしそうに微笑まれ、存在だけでも愛おしいとばかりに触れるだけの口づけをされる。羽が触れるような優しい感触に、泣きそうになった。

どうしようもない愛情を注ぎこまれ、瞼が震える。

肝心の話はここからなのに、奥からじわりと熱が溜まり、瞳が潤んでいくのを止められない。

デュークが、内側から絞り出したような声で続ける。

「マッケランの話をすると傷つけるかもしれない。フェリシアが死んだ夢だなんて、俺の深層心理がそうしていると誤解を生まないかも心配で……」

「そんなこと思うわけありません」

目尻を何度も撫でられ、かすかに触れる感触に睫毛が揺れる。

デュークの夢の中で開くことのなかったそれを確認するようにじっと覗き込まれ、恐る恐る夢見の内容を話すデュークの話に耳を傾けた。

吐露されていく言葉は暗く沈み、デュークの苦悩が想像以上に深刻なのだと知れた。

私が死んだところから、コーディーを追い詰めるまでは私の知る物語だったが、ベリンダを帰国させたところから話は変わる。

ヨネバミア国との交流はそのまま続けられ、その最中ピンクローザが盗まれ、イレイン王女とセラフィーナが誘拐され、助けに向かいとの話になったところで違和感は大きくなる。

――もしかして、ベリンダの回帰前と一緒の記憶? デュークも回帰していたということ?

その疑問は私のお墓の前で原石のままピンクローザを置き、私に会いたいと願い光に包まれてというところで確信を得る。

記憶はなくとも、夢という形で回帰前のこの世界を見ていたとするならば、この回帰はデュークが 私(フェリシア) に会いたい、やり直したいと願ったからだと考えることもできる。

私はぶるりと身体を震わせた。