軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16.怪しい動き

廊下を歩いていると、徐々に会場の音が聞こえなくなった。目の前は行き止まりとなり、廊下は左右へと延びているためそこで私は足を止めた。

「どっちに行ったのかな」

きょろきょろと周囲に視線をやるが誰かがいる様子もなく、右へ行くと本校舎のほうへと向かうため、離れや庭園がある左へと曲がった。

しばらく歩くと庭園が見え、そこにあるガゼボの下に人影を見つける。心持ち静かに足を運び、相手の髪色がわかるくらいのところまで距離を詰め様子をうかがった。

そこには二人。

椅子に座っているのだろう位置に頭があり、奥にいる人物の銀の髪が揺れ、つけているアクセサリーがきらりと光る。

「いた」

イレイン王女を見つけることができ、ほっとする。

目を凝らすと、王女の前にはダーク系の髪色の男性がいるのがわかった。相手の顔はよくわからないけれど、ここの制服なので生徒で間違いないだろう。

人目がつかないところで何をしているのかと観察していると、二人は立ち上がり近づき何かを受け渡した。

そしてすぐに離れると、話は終わったようで二人は別の方向に歩いていった。

女性は背が低く銀の髪はイレイン王女で間違いないけれど、相手が誰かは遠すぎてわからない。

ここで姿を見せるのは得策ではないと彼らが見えなくなるのを確認し、私は王女たちがいた場所へと移動した。

「ここに来てもわかるわけがないよね……」

ガゼボから見る景色はとてもよく、単に休憩時間に休んでいただけの可能性もある。だけど、剣術大会開催中にこのような場所まで移動したこと、去り際のやり取りは気になる。

人目を気にしているようで、気にしていない。

もしかして、誰かに見られてもただの逢瀬だと捉えられるようにと考えてなのかもしれないしと、きょろきょろと未練がましく何かないかと視線を巡らせた。

イレイン王女が座っていた場所に視線を移動し、どきっと心臓が跳ねる。

「これは何?」

まるで血でも拭ったような跡の茶色い染みが、白く塗られたベンチに使い終わりの絵具をさっと筆でかすったようだ。

イレイン王女たちがつけたものとは限らない。だけど、何かを拭った痕跡があるのは確かだ。

最初に血だと思ったからかそう見えてしまうだけだとは思うけれど、血だったとしてここで何があったのか。

しばらく思案するようにそれを見つめていたが、そこで二学年開始の合図が鳴り響いた。

「戻らないと」

あんなやり取りをした後だ。デュークも心配するだろうし大会が終わってからもう一度確かめようと、ぐるりと周辺に視線をやり私はその場を後にした。

もんもんと何をしていたのかと考えながら歩き廊下を曲がろうというところで、ちょうど校舎側からやってきた同級生と出会う。

「フェリシア嬢、どうされたのですか?」

ベン・ホイストン。ホイストン伯爵家の令息でクラスメイト。黒っぽいこげ茶色の髪は襟足にかかり、茶色の瞳はいつも楽しそうに輝いている。

「少し気分転換に。ホイストン様は?」

「俺もそうですよ。これから会場に戻られるのですよね。ご一緒してもいいですか?」

にかっと笑い、流れるように誘われ私は頷いた。

彼とは六歳の時に王城で行われた茶会で話しかけられてから、会えば挨拶をする顔見知りであり、クラスではタイプの似たユリシーズと気が合うようで、よく話しているのを見かける。

ホイストン家は、高価な宝石が発掘されるアロリザス地方に領地を持つ貴族で鉱山保有率も高く、アロリザス地方の鉱石は三十パーセント以上がホイストン家のものだ。

話題になっている窃盗の被害は大きく、彼とは事業の話をしたことはないけれど、長男である彼はすでに携わっているらしい。

道中の会話はザカリーが負け兄弟対決を楽しみにしていたのに残念だったことや、さりげなく私に合わせた話題を振られる。

会話の途中、宝石のことを触れてみようかと考えたけれど、振られた話題に応えているうちに会場に着いてしまった。

「それでは」

「はい」

そこでベンと別れ、私は空いている席へと移動し戦っている人たちを眺めながら、ふと疑問が浮かび上がる。

――もしかして、はぐらかされた?

私が先に質問を濁したからさっきは気にならなかったけれど、いつもながらの滑らかな会話運びだったが、明らかに会話の量が多かった。

まるで私に疑問を与える隙もないような感じで……。

そういえば、ベンもダーク系の髪色だ。ベンが来た方向は反対だったけれど、時間など考慮するとなくはない。

私は少し離れた位置に座り、友人と談笑しているベンを見た。

それから王女が座っていた席へと視線を向けたが、セラフィーナはいるがイレイン王女はまだ戻っていないようだった。

「考えすぎなのかな……」

たまたま出会っただけで、疑っていては切りがない。だけど、宝石のことを考えると全くなくはないなと、私はしばらくそのことが頭から離れなかった。