軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13.対抗意識

「フェリシアちゃん、これ食べる?」

「フェリシアは生クリームが好きだから、こっちのほうがいい」

お店に入って、ユリシーズからはチョコレートがコーティングされたケーキ、デュークからは生クリームケーキを差し出され、私はそれらを目の前に固まった。

「えっと……」

「どうしてデューク殿が? 僕はフェリシアちゃんに聞いているのだけどね」

すかさず割って入ったデュークに、ユリシーズが不満そうに文句を告げる。

「フェリシアのことは俺が一番わかっている。あと、ちゃん? 人の恋人を気安く呼ぶのはどうかと思うが」

「真面目だなぁ。これくらい親しみの範疇でしょ。あとは、フェリスちゃんもいいなぁ。うん。フェリスちゃん。ぴったりだ」

ユリシーズが飄々と告げると、デュークはしかめ面をした。

「可愛いのは認めるが、気安くないか?」

「可愛い人に可愛い呼び方はマストでしょ。ほわっとしたところとか、まっすぐなところ、気遣い上手なところ、ものすごく可愛い。同じクラスになって彼女のその姿に何度癒やされたことか」

「それは当然だ。フェリシアだからな」

デュークがそこで頷いた。

――いや、なんの話をしているの?

会話の運びについていけず戸惑う私をよそに、ぽんぽんと続けられていく。

「そうそう。フェリスちゃんだから出せる空気感はものすごく落ち着く。だからかな。そんなフェリスちゃんが困った顔をしているのは放っておけない。僕としては、そう思わせるところは、デューク殿の責任なのではと同じ男としては思うのだけど」

「フェリシアを誰にも譲る気はない!」

「意気込むのは別にいいよ。でもさ、さっきのやり取りを見ていて思ったけど、デューク殿はフェリスちゃんの気持ちに胡坐をかきすぎじゃない?」

「……胡坐などとは程遠い。フェリシアしか欲しくないのに、どうして胡坐などかけようか」

一瞬沈黙があったのは、過去に思うことがあるからか。

真面目なデュークは、関係が改善されても過去をずっと気にしている。

私にもまだ言えないことがあるのと同じで、こればかりは時間をかけて関係を築いていくしかない。

好きと信頼とは別に、どうしても譲れないもの、わかっていても割り切れないものはある。

心配になってデュークを見ると、なるべく感情を殺すためなのか声は淡々としていたが、私を見つめる瞳には愛情が浮かんでいる。

すっかり私の変化に機敏に反応するようになり、私に向けるこもった熱も隠そうとはしない。その双眸を見るだけで、気持ちがふわっと温かくなる。

それと同時にさっきみたいな焦りを感じるデュークを見ると落ち着かず、物語のことを気にしすぎているのか、一緒にいられることの幸せを感じるとともに焦燥感が付きまとう。

デュークにそっと手を掴まれ、私は握り返した。

いつもなら繋ぐだけで安心する手だが、今は互いに確認するかのような、心許ないから手を繋ぐといったものに変化する。

「そうだね。言葉が悪かった。デューク殿が傲慢だとは思っていない。フェリスちゃんを大事にしていることは十分に伝わっているよ」

「なら」

「うーん。うまく言えないけど、両想いのはずなのに、そこが今の態度に繋がっていないというか。僕ならもっとフェリスちゃんの自由を尊重し、好きにさせてあげるのになって」

むきになるデュークを翻弄するように、ユリシーズは話題をヒートアップさせていく。

デュークはもちろんのことだけれど、ユリシーズも第三者であるとわかった上で私のためにと思ってくれてのことだ。

この場で何をどう話せばいいのかと考えている間にも、会話は進んでいく。

「そもそもの話だ。俺たちは婚約しているのだが」

冷えた眼差しで告げるデュークに、ユリシーズは肩を竦めた。

「知っているよ。だから、会話も皆がいる場でしている。これくらいは許してよ」

「……気分はよくない」

むすっと低く告げるデュークに、ユリシーズはははっと軽やかに笑う。

「素直だよね。婚約者なんだから、それくらいどんと構えてくれないと」

私はぎょっと顔を上げたが、繋いだ手にぎゅっと力を込められデュークを見た。

デュークの思慮深い濃紺の瞳とぶつかり、密かに揺らいで細まるのを間近で見つめることになる。それから、私を見ると無理やり微笑んだかのような不器用な笑みを浮かべた。

その顔から苦しげな想いが伝わってきて、ぎゅっと胸が掴まれたように一瞬呼吸が止まる。

自身の気持ちを落ち着かせるように、ふぅっ、と息を大きく吐くと、デュークは毅然とした声を上げた。

「何度も言うが、誰にも譲る気はない」

ユリシーズの言葉はきわどく、どちらとも取れる。

冗談だとしても、ここは私が気持ちを伝えておくべきところかと口を開こうとしたところで、ユリシーズに話しかけられる。

「それで、フェリスちゃん、どっちのケーキを食べる?」

「……フェリシア」

左右から二人に見下ろされ、ずずいとケーキが乗った皿が近づいてくる。

私は瞬きを繰り返し、口を挟む間もなく選択を迫られている状況に困って眉尻を下げた。

――どうしてこうなるの?

ユリシーズの思惑はわからないが、デュークがむきになっているのはわかる。

冗談に対してぴしゃりと跳ねのけるのは良くないし、そもそもケーキの話でいうとどちらも美味しそうだ。

だけど、ここで選択すると、先ほどの話が交ざってしまうのでややこしくなる。

どうするのが正解のなかと悩んでいると、救いの手が差し伸べられた。