軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4.王女と宝石

ヨネバミア国の第一王女、イレイン王女たちが到着し、交流会が始まった。

食堂の一か所にクリストファー殿下を筆頭にデュークたち側近と、イレイン王女率いるヨネバミア国の生徒たちが並ぶ。

殿下の婚約者で公爵令嬢のジャクリーン、彼女の友人でありデュークの婚約者である私も参加する。各学年の代表もおり、そのメンバーにはザカリーもいた。

それぞれ紹介はすでに済ませており、席に着くとイレイン王女の小さく艶やかな口から、鈴のような声が転がる。

「交流の申し出を受け入れていただきありがとうございます。お会いできるのをとても楽しみにしておりました」

シルバーの髪に大きめのリボンをつけ、濃い紫の瞳はとても印象的で可愛らしい。二つ下で小柄なこともあり、守ってあげたくなるような雰囲気の王女様だ。

ヨネバミア国は私たちの住むルノセクト国の東側に位置する海に面する小さな国で、貿易も盛んに行われている国の一つである。

王女の上には歳の離れた四人の王子がおり、すでに次期国王も決定し、国政も安定している。

婚約者はおらず、将来の夫が後継者でないなど、身分によっては王女に爵位を与え婿養子としてその者を迎えることまで検討されているらしく、ずいぶん大切にされていると情報は入っている。

物語のこと、あのベリンダと交流があったとの事前情報から、どうしても視線は王女へと向いてしまう。

王女の横には、キャラメル色の髪とピンクベージュの瞳の落ち着いた雰囲気の女性が座っている。

セラフィーナ・ホリングワースと紹介された侯爵令嬢は、学園案内の時もずっと王女の横におり、今も楽しそうに談笑していた。

王女と同学年で親しそうな彼女がイレイン王女の友人のようだと観察していると、すっとこちらに視線を向けたイレイン王女の宝石のような瞳とかち合う。

イレイン王女はまじまじと若干怪訝そうな顔で私を見ていたが、取り繕うように明るい声で話しかけてきた。

「フェリシアさんたちにお会いしたかったんです!」

……びっくりした。考えもしなかった反応に驚いたが、戸惑いながらにこっと笑う。

「私たちもお会いできるのを楽しみにしておりました」

なぜ名指しなのかと思いつつも応じると、王女の双眸に嬉しげな光が宿った。

隣に座っていたデュークの肩が、ぴくっと反応した。イレイン王女たちと対面してから、デュークは眉間にしわを寄せ何やら考え込んでいる様子だ。

イレイン王女の視線は私とデュークに向かっていたのでテーブルの下で袖を引っ張ると、デュークはゆっくりと瞬きをし、表情を改めた。

「王女殿下のクラスには私の弟もおりますので、何かあればお申し付けください」

デュークの説明に、少し離れた席に座るザカリーが反応し頭を下げる。

それから一通りやり取りを終え、これからよろしくね、と視線を外すと楽しげに輝いていた光がすぅっと消え、イレイン王女はクリストファー殿下や周囲と和やかに話し出した。

デュークを見ると表情からはわかりにくいが、わずかに伏せた瞼からいまだに王女について考えているのが伝わってくる。

「デューク様、どうされたのですか?」

「いや、どのような繋がりがあるのかと考えていただけだ。フェリシアは大丈夫?」

誰をとは言わなかったが、ベリンダのことだろう。

死に役についての不安を話せてはいないけれど、デュークもデュークで考えてくれていることがわかり前回のような孤独感はない。自分を心配してくれる存在はものすごく心強い。

「まだ出会ったばかりですのでこれから自分の目で見て考え判断していければと思います」

「そう。そうだな……。常に考えていかないと」

まるで自分に言い聞かせるように呟いたデュークは、何かを堪えるように眉間にしわを刻んだ。

その表情に訝しげな視線を向けると、デュークは安心させるように小さな笑みを浮かべ「大丈夫だ」と、私になのか自分自身に向けてなのか呟くと、私の手をそっと掴んだ。

交流会は順調に進み、話題は展覧会についてとなった。イレイン王女はカップをソーサに置くとにこやかに告げる。

「こちらのチョコレートは繊細でとても美味しいですね。この国のスイーツは美味しいと聞いていましたし、展覧会をとても楽しみにしているんです。なかでも宝石が展示されると知り、早く目にしたくて夢に見るほどなんですよ」

「お詳しいですね。国立博物館の展示品に新しく加わるので、ぜひ堪能してください」

クリストファー殿下がにこやかに笑うと、イレイン王女は恥ずかしそうに目を伏せた。

またもやぴくりと手を動かし反応したデュークを見ると彼は表情を強張らせ、それどころか、先ほどよりもさらに眉を寄せ難しい顔でイレイン王女を見ていた。

だが、私の視線に気づいたデュークは何事もなかったかのように表情を改めて、対外向けに口元に小さく弧を描いた。

デュークのことは気になりつつも、せっかくの展覧会の話題だと、私はイレイン王女に探りを入れる。

「私たちも楽しみにしているのでその気持ちはわかります。特に気になっている宝石はあるのでしょうか?」

「どれも気になるけれど、一番はピンクダイヤね。これ、知っているかしら? 今回展示されるピンクダイヤは別名ピンクローザと言われていて、手に入れると願いが叶うという逸話があるのですよ。ピンクダイヤの石言葉は永遠の愛ですし、男性に贈られたらロマンチックですよね」

うっとりとした表情を浮かべるイレイン王女の言葉に、ジャクリーンが明るい声を上げた。

「ピンクローザですか? そのような逸話があるなんて素敵ですね」

「ええ。そうなのよ! ピンクローザに限らず美しいものにはいろいろ噂はつきものでしょ? 美しすぎるために呪いの対象となるものもありますし、そういった逸話を集めるのも好きなんです。それに……」

きらきらと目を輝かせ勢いよく話す姿とその内容に衝撃を受けて固まっていると、セラフィーナが王女の袖を引っ張った。

「イレイン様。皆様が圧倒されています」

状況を教えられた王女はそこで口を止め、ぱっと顔を赤く染めた。

「こほん。楽しみが多すぎて興奮してしまいました」

立場を思い出したのか、それまでの声のトーンを抑え取り繕うかのようににっこりと笑った。

そこで、私はゆっくりと息を呑み込んだ。ふいにもたらされた情報の衝撃からやっと思考が働く。

――願いが叶う宝石だと物語のデュークが言っていた……

つまり、この世界でも物語と同じ逸話があり、もしかしたら本当に願いが叶う可能性があるのかもしれないってこと?

そうでなくても、それだけ美しく価値のある宝石だということに意味がある。

「イレイン様は展覧会もですがこの国の宝飾もとても楽しみにしておられて。私もいくつかお店を覚えてしまったほどです。なかなか興奮が冷めないようで……」

思考にふけっていると、ピンクベージュの瞳に穏やかな色を乗せ、セラフィーナがこそっと告げてくる。私が視線を向けると、彼女は微苦笑を浮かべた。

王女を思っての発言に、私は安心させるように微笑む。

「いえ。そこまで楽しみにしていただき嬉しいですし、ご期待通りに過ごしていただけることを私たちも願っています。必要であればお薦めのお店も紹介できるので、ぜひおっしゃってください」

ジャクリーンがにこっと笑って答えると、セラフィーナはぱぁっと顔を輝かせた。

「この国を代表する女性にお店を教えていただけるなんて、非常に心強いです。ありがとうございます」

嬉しそうに頬を緩めるセラフィーナは、そこで頭を下げた。王女が好きなのだとわかる言動に、こちらまでほんわかと和む。

イレイン王女が交流会のことを言い出したと聞くし、物語の展開に絡む人物でこの宝石への熱意を知ると意識せずにはいられない。

どうしてもベリンダとどのような関係だったのかは気になるが、彼女と比較して裏表があるような人だとは思えない。

前世で物語を読んだ私は、イレイン王女のどの部分を厄介に思ったのか。

どうしてもベリンダとの繋がりや、前世の記憶が気にかかって穿った見方をしてしまいがちになる。

だけど、デュークにも言ったが、疑問に思うことは一つひとつ自分の目で、現状を見ながら判断していきたい。

あまりそのことばかり考えてもよくないなと、そっと余分な力を抜いた。すると、なぜか私のほうを見ていたイレイン王女とまた目が合う。

子供がおもちゃを見つけたときのように楽しそうに微笑まれ、本心が掴めないなと笑みを浮かべながら、相手が目を離すまでじっと見つめた。