軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 ベリンダの誤算 後編

その後はまるで犯人が捕まったら用はないとばかりに、話しかけてもちょっと愛想で笑うだけでデュークは忙しいとそっけなかった。

全く縮まらない距離にやきもきしている間に、国に帰されることを聞かされた。

本来ならこれからが私の物語。手に入れるはずのもの、手に入れるべきものがあるのに、何もせずにこのまま帰るわけにはいかない。

手に入れて初めて勝ち組なのだ。

仕方がないから帰ることが決まった際にベリンダから愛していると告げたが、「フェリシアが今も大事で忘れられないから」と振られた。

意味がわからなかった。

最後の望みをあっけなく断たれ、それから交渉や色仕掛けする時間もなく帰国させられた。

私の世界。私のデュークなのに、何もうまくいかない。

帰国してからは最悪だった。

仕方がないからこの国で生活することを受け入れ機会があればいい男を捕まえればいいと、気持ちを入れ替えた。

これまでモテてきたのだ。

だから、デュークがおかしかっただけですぐにいい男が捕まると思っていた。

これまでのようにちやほやされながら物色しようと思っていたら、でっぷりした頭のおかしな年上の男に嫁がされ、昼は意地悪な姑にこき使われる。

やれ、マナーがなってない、贅沢はするなと欲しいものを買ってもらえない。

夜は帰ってきた男の相手で、本当ならデュークとイチャイチャしていたはずなのにと考えれば考えるほど気分が悪くなっていく。

ストレスで肌は荒れ、髪艶もなくなり、おしゃれができずにベリンダは荒れに荒れた。

これだったらコーディーのほうが断然マシだ。

あの男はベリンダが望む物、金で買える物はなんでもくれた。だが、コーディーは処刑されていない。

何度も助けてくれと手紙を出したのに、パーシヴァルからの返信はこなかった。

それだけではない。彼の周囲もあれだけ仲良くしていたのに全く音沙汰がない。

可愛がってくれていたはずの家族たちも何も言ってこない。私のことを好きだったはずの男たちも誰一人訪ねてこようとしなかった。

来る日も来る日も待った。いつか誰かが助けてくれるはずだと信じていたけれど、いつになっても何も変わらなかった。

また一人になり、転生する前のように家族のいいなりになる日々。

自分の自由がない。

毎日泣いた。泣いて、泣いて、文句を少しでもこぼしたらさらにきつく当たられる。

すべきこともしないで、ただ飯ぐらいがと怒られる。

「どうして……」

ヒロインに転生したのだから幸せになるはずなのに、なぜこんなにも不幸なのか。こんな理不尽な目に遭っているのか。

誰もが認める容姿で可愛がられる存在なのに、こんな苦しんでいるのに誰も助けてくれない。

ある日、荒れた自分の顔を見ながら何が悪かったのかと考えていた時だった。美しかった頃を思い浮かべ、あの完璧さに思い 馳(は) せていると閃いた。

自分は完璧なのだから私に悪いところはないはずだ。ただ、唯一を上げるとしたら元婚約者の真似をしたことだと気づく。

――そうだったのね。

ベリンダは晴れやかな気持ちになった。

自分のための転生なのに無理をしたからこうなったのだ。

「そうよ! なんでもっと早く気づかなかったのかしら」

神様は私を幸せにするために転生させたのだから、自分が思うように、望むまま行動をすれば幸せになれたのだ。

婚約者(フェリシア) はもともとただの『死に役』で物語に必要のない人物だ。実際に登場することもなくただ語られるだけの人物。

そんな人物の真似をしても、デュークが 靡(なび) くわけがなかったのだ。

フェリシアはたまたまデュークと幼馴染になっただけ。

ベリンダの前世と比べてかなり家族に恵まれていたおかげで、彼女はデュークと婚約者になれただけだ。

それだけで未来も安泰だなんて、生まれで決まった人生はずるすぎる。

苦しい前世を過ごしてきたベリンダからすれば、とても不公平でフェリシアが『死に役』ではなかったら許せなかっただろう。

環境がよかっただけの、努力せずにデュークを手に入れただけのフェリシアの真似をしたところで意味がなかったのだ。

自分のほうが優れているのだからありのままの自分でいるべきなんだわ、きっとそうだと、ベリンダは思った。

それに気づかせるための、自分に与えられた試練だったのかもしれない。

そうとわかればもう一度やり直しをしたくなる。

ここにいても意味がない。幸せになれない。

次こそは絶対幸せになってやる。

何より、自分のすべてをどん底に落としたあの女を見返してやるのだ。

ベリンダは横で眠る夫となる男を見下ろした。

でっぷりしたお腹に濃い毛を見るたびに、しらけた気持ちになる。

――こんな人生は間違っている。偽物だ。

きっと夢に違いない。

次に目が覚めたら最高の人生が待っているはずだ。

ベリンダは自らの命に手をかけた。

――――

――

時間が巻き戻ったようだ。

それに気づいたとき、ベリンダは確信した。

神様が自分を哀れみ与えてくれた機会。

「やっぱりこれは私の物語。幸せになるためのものなのね」

絶対、今度こそデュークを手に入れてみせると、前回より周囲に愛されるように振る舞った。そのおかげで誰しもベリンダを可愛がった。

皆、ベリンダには甘い。そして、今回も断トツにコーディーはベリンダのためならなんでもしてくれた。

むしろ、前回よりさらに自らベリンダのために動き、その瞳にはベリンダへの愛が浮かび上がり心地よかった。

何も言わずとも欲しいもの、似合うものが貢がれる。

――これよ。これ。

これこそが本来あるべき形なのだ。

これなら今度こそ無事物語が始まるだろうと、ベリンダは余裕の笑みを浮かべた。

そして今度こそ自分のやりたりように動いて、愛され人生を満喫させるのだと心を浮き立たせた。