軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26.不安と安堵

ベリンダがばたばたと手を振って抵抗する。

「ちょっ、やめてよね。私が直接何かしたわけではないでしょ?」

これだけ周囲を巻き込んで、自分に何の罪もないと堂々と言ってのける神経を疑う。

こうなってもなぜベリンダは、ここまで自分の正当性を主張できるのか。

物語を信じてなのかはわからないが、どちらかというと自分で壊しているように思える行動と彼女の思考はわからない。

「本当にそう思っているのか?」

低く唸るような声とともに憎悪を込めた眼差しをデュークがベリンダに向けた。

彼女はびくぅっと肩を揺らし、周囲に助けを求めるように視線を揺らした。

「だって事実だもの。それなのにこんなことをするの? ね、私はパーシヴァル殿下の従妹なのよ。こんな扱い許されないわ。パーシィからも言ってやってよ」

「さすがに大勢の前でそのような思考を晒してはかばいきれない。メイヒューからも少し前に報告を受けたばかりだ。先ほどの発言は殺人教唆だろ。なぜ、そういったこともわからないんだ」

今度は隣国のパーシヴァル殿下に縋っているが、第三王子は疲れたような顔で首を振った。

王子の側近たちもかなり顔色が悪く、微妙に視線を逸らしていた。後ろめたいことがあるのだろう。

私は前世の物語の記憶、コーディーは前回の記憶があるからベリンダが何に拘っているか推測できる。

その行動に共感できないが、前回は失敗と考えて転生したことにより今度こそ確実にデュークと幸せになるのだと信じての行動なのだろう。

だけど、デュークたちからすればすべてが妄想で頭がおかしい人である。

ましてやパーシヴァル殿下含む隣国側は、ベリンダの可愛らしい態度と甘い言葉しか聞いてこなかったから余計だろう。

「私とデュークは恋人になって幸せになるはずなのよ」

腰に回された手がぴくっと動いたので顔を上げると、デュークは顔を思いっきりしかめていた。こんな表情は初めて見る。

デュークは何か言おうと口を開きかけたが、言っても無駄だと思ったのか口を閉じ大きな溜め息をついた。

デュークのこのような態度を見るたびに、本当に彼女に微塵も気持ちがいっていないことを確認できて安堵してしまう。

安堵するということは危惧していることがあるということで、それに気づき私は忍ばせているアクセサリーをスカートの上からそっと握りしめた。

真相がわかり少しはほっとした。デュークがまっすぐ私を見てくれていると信じられ自信もついた。

けれど、この先ずっとかかわらずに済めるだろうかとどうしても物語の強制力がどこまで有効なのかと気になりしんなりと眉が寄る。

デュークを信じていないわけではない。

ただ、隣国の男性をこれだけ巻き込んできたベリンダのこの盲目的な行動は強烈で、未知なる力が働いてしまうのではないかと一抹の不安を覚えるからつい反応を見てしまう。

デュークに失礼だと思いながらも、可能性を捨てきれなくてどうしても不安になってしまう。

ベリンダを前にすると平常心ではいられず、さっき安心したばかりなのに振り回され揺れる自分に嫌気が差す。

不安と押し負けたくない気持ちにそっと息を吐き出し気持ちを整えていると、デュークは彼女ではなく私に話しかけた。

「あんな意味のわからないことに耳を貸さないでくれ。俺が大事にしたいのはフェリシアだけだ」

「はい」

見つめ合い、私はゆっくりと頷いた。

自分だけを見るその思慮深く落ち着きのある濃紺の瞳には愛情が浮かんでいて、その瞳に見つめられるとほわっと胸が温かくなった。

ずいぶんと気持ちを前に出すようになったデュークに見つめられると、不安がさらさらと流れて消えていく。

そして、些細な感情の機微を察し包んでくれようとするデュークの眼差しに勇気をもらう。

大事なところでとんと背中を押し力をくれる婚約者。

言葉が増える前からそういうところは変らなくて、やっぱり私はデュークが好きなのだと胸が熱くなる。

「何よ! なんでこうなるのよ! デュークが私のものにならないのなら、私はなんのためにここにいるのよ」

私たちのやり取りにさらに声を上げるベリンダだが、生まれた意味まで問いだした。

生きる意義は自分で決めるしかない。物語を信じ、自分や周囲の気持ちを蔑ろにしていては見えるものも見えないだろう。

「マッケラン家のご令嬢としてここにいるのでは?」

前回や物語を知る前世で彼女に何があったのかは知らないが、今の身分は十分恵まれている。

周囲が可愛がってくれる環境で何が不満なのか。

パーシヴァル殿下の従妹という立場だからこの場にいられる。

王族と縁を持ちたいと思ってもそう簡単に持てるものではない。ベリンダの立場を羨む人は多いはずだ。

思わず口を挟むと、じろりと睨まれた。

「私は幸せになるのよ。ヒロインならヒーローが幸せにしてくれるはずでしょ? デュークは一途で家も裕福で地位もあって顔もよくて私のために存在するのにどうしてフェリシアばかり見るのよ! 本当、あんたさえいなければ」

髪を振り乱しながら、往生際の悪いベリンダが叫んでいる。

何が彼女をそこまで駆り立てるのかは知らないが、あまりの執着ぶりに不安になってデュークの手を握った。

強制力が働いたとしても跳ね返してやるぞとの気持ちを込めると、デュークがベリンダの声を払うように耳元でささやいた。

「彼女のはただの騒音だ。もう耳にしなくていい」

「デューク様」

「一切、フェリシアは気にしなくていいから。気にするだけ無駄だ」

右手は繋いでいるからなのか、そのまま頬を右耳に当て左手で私の左耳を押さえ塞いでくる。

わかりやすく、なんだか可愛らしい動作にふふっと笑みが零れた。