軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24.歪んだ愛

ベリンダの言葉にデュークが怒っているのが震えからわかった。

彼女が来る前に音楽準備室に隠れこちらの様子をうかがっているクリストファー殿下やパーシヴァル殿下たちも、彼女の理解不能な言動にかなり衝撃を受けていることだろう。

私のために怒りを抑えているデュークの腕にそっと触れる。

これで追い込めるのだから、不快な言葉はあと少しだ。

それが伝わったのか、デュークは私の肩に顔を埋めぐりぐりと額を押し付け大きく息を吸い込んだ。

しばらくして落ち着いたのか、これ以上密着することができないくらいに抱きしめ、いやむしろそのまま立ったら抱え上げられるくらいの強さで引き寄せられる。

まったく解ける気配のない力強い腕は少し苦しいが、その分、ベリンダの嫌な言葉が内から出ていくような気がした。

「何をしたかって? 俺はベリンダのために動いただけだよ。むしろ、死ぬって俺がフェリシア・オルブライトを殺したみたいじゃないか。他国、しかも、この国の王太子の側近である公爵令息が大事にしている婚約者を殺して逃げ切れるとは思えないけど?」

「別に逃げなくてもいいじゃない。コーディーは私のためなら何だってしてくれるでしょう?」

「そうだね。何だってするよ。愛するベリンダのためなら。前から聞きたかったのだけどベリンダは俺のことをどう好きなの?」

二人の関係が理解できない。

当たり前のようにコーディーが自分のために動いてくれると思っているベリンダに、それを当然のように受け入れるコーディー。

話していても思ったが、永遠に分かち合えない価値観だ。

「私もあなたのことを大切に思っているわ」

「でもね、それだけでは足りない。俺だって男だ。手に入れたいと思う気持ちはあるんだよ。ずっと悩んではいたんだ。虚しく利用されて殺したいと思うほど君を憎く思った時期だってある。だけど、どうしても君が好きで好きでたまらないという気持ちは消えないんだ」

一体何を聞かされているのか。

私の死を厭わないことは聞けたが、ベリンダの明確な殺意まではわからないままだ。

あくまで、物語の実行犯はコーディー(彼にとっては前回の生)なので、私も彼女がどこまで何を望んでいるのかはっきりと聞いておきたい。

歪な愛の告白を聞く羽目になっているが、コーディーはベリンダから明確な言葉を引き出せるのだろうか。

「それは……、あなたの気持ちだから私にはわからないわ」

「そう。君がウォルフォードに固執するのと一緒だよね。毎回、会った瞬間から強烈に惹かれるこれは何なのかも考えた。それでようやく理解したんだ。これは誰がどれだけ気持ちを強くあれるかということなのだということを。だから証明することにしたよ」

穏やかな表情でコーディーはベリンダを見つめた。

言葉と表情が合っておらず背筋がぞくぞくしたが、ベリンダは安心したようにほっと息をついた。

「だったら、私の望むことをしてくれるわよね?」

「ベリンダの望むことって?」

私は固唾を呑んで見守った。

デュークの身体が震え、きゅっと私の手を握ってくる。

視線を合わせどちらともなく頷き、行く末を見守るためベリンダたちに視線を戻した。

「もちろん。邪魔なフェリシアの排除よ」

「それは殺せってこと?」

コーディーの言葉に、ベリンダが再び床に視線をやる。

彼女の視線には靴が見えているはずだ。

「だって、ねえ。すでにそうしてるんじゃないの?」

「ははっ。あくまで自分は手を汚さず手に入れたいということだね。よーくわかったよ」

「何が?」

「ベリンダの気持ちが薄っぺらいものだということが。だから俺は迷わず君を奪うことにするよ。――これくらいでいいでしょう? 出てきてください」

「なっ!?」

コーディーの合図に私たちが出ていくと、ベリンダは大きく目を見張り固まった。

それから音楽準備室から出てきた面々にも視線を流し、またデューク、そして私に向けようとしたところで私はデュークに向かい合うように背中に手を回され抱き直された。

「デューク様……」

「見なくていい」

ベリンダを私の視界に入れたくないようで、私はデュークの胸板に顔を埋める形になった。

デュークはかなり憤っているようで、拘束する腕が解ける気配はない。

相当動揺しているのか、ベリンダはか細い声を震わせながらコーディーに問うた。

「コーディー。どういうこと?」

「見てわからない? 君の望み通り終わりにしてあげようと思って」

ふふっと楽しそうに笑うコーディーにベリンダは信じられないとぽつりと呟き、「コーディーがおかしなことを言うの。私は何も悪いことはしていないわ。信じてくれるわよね」と男性陣たちに助けを求めた。

それぞれの反応は見えないが、ベリンダの言葉に誰も応じることはなかった。ベリンダは味方がいないとわかると、きぃっと高い声を上げコーディーに詰め寄った。

「私は望んでないわ。前と違いすぎる! コーディーは私のためなら汚れ役だってなんだってするくらい愛しているのに。そうやって物語はできているのだから」

「そうだね。ベリンダのためならなんだって。でも、物語って何? それだけは意味がわからないよ」

はっきりとベリンダは物語と言った。しかも、この世界も二度目らしい。

あと、「それだけ」ということはそれ以外のことは理解し許容しているということで、コーディーの愛はかなり歪んでいる。

「嘘よね。私を裏切ったの?」

「裏切っていないよ。俺はずっとベリンダを愛しているし最善を考えているよ。さっきも言ったよね。最後まで強く愛している者が幸せになれるし、愛している者を幸せにできるんだよ。ベリンダのそれは愛ではなくてただの執着だから、何度繰り返しても望むようにはならないと思うよ。だから、僕が幸せにしてあげる」

コーディーが自分の思う通りに動かないとわかったベリンダは、縋る対象をデュークに変えた。

「デューク様は私のことが好きですよね? 今はほら、そこの邪魔な婚約者がいるからあれですけど、だって私は『ヒロイン』で特別だもの」

媚びるような声に気分が悪くなる。

デュークが私の視界から彼女を消したいのと同じように、私は彼女の視界にデュークを一時も入れてほしくない。

守られるのは嬉しいが、同じ空気を吸って瞳にデュークを映しているのだと思うと腹が立った。

もぞもぞと顔を動かし意志を示すと、デュークはふぅっと息をついて腰を抱く形に変えてくれる。

多くを語らなくても察してくれる婚約者。

それだけ自分のことを見てくれていると思える行動に力をもらえる。

ベリンダを見ると私を捉えた視線が一瞬険しくなったが、うるうると涙を溜めて物語至上主義の彼女は再びデュークを見た。

もはやここからの挽回はどう見ても無理なのに諦めが悪く、常識も倫理もない彼女の存在は歪で異質に映る。

その視線を受けたデュークは、ものすごく嫌そうに眉根を寄せ侮蔑の色を浮かべベリンダを 睨(ね) めつけた。

「……どうかしている。俺はフェリシアしか愛せないし愛したくない」

デュークがにべもなく切って捨てると、ベリンダが怒り出した。