作品タイトル不明
第335話:理解不能
〜ベイル・フォン・カーラルド視点〜
「申し上げます!」
長い会議で検討すべき議題の山がようやく片付き、会議を主導していた私とアーマスおじさん、宰相のバイズ公爵が一息ついたところに、そんな声を上げる兵士が飛び込んできました。
会議に参加していた一部の貴族が顔を顰めますが、この兵士がこのような振る舞いをせざるを得ない理由すら分からないのでしょうか?
やはり、新たに伯爵位となった者、要するにラシアール王国においては子爵位や男爵位であった者の中には、高位貴族として相応しくない者がいくらか紛れているようですね。
先のコトハ殿の件もあり、大分粛正できたとは思っていたのですが、やはり数が足りないことを言い訳に、半端な者の爵位を上げてしまったのは・・・。ですが他に策がないこともまた事実なわけですし、本当に困ったものですね。
このような貴族たちに限って、既に派閥を作り出しているようですし、私が王位を継ぐ頃にはどうなっていることやら。
私が心の中で貴族たちの振る舞いに辟易としている中、軍務卿であるダンが兵士に問います。
「何があった?」
ダンのおかげで、そんな貴族たちによる更なる場荒らしが実行されることはなくなりました。
「はっ、ご無礼をお許しください。今し方、王都正門近く、200メートルほどの距離に、9体の赤いドラゴンが飛来しました」
「「「なっ」」」
兵士の告げた言葉に対する反応は、2つに分かれました。
知る者と知らぬ者、ですね。
王宮は当然知っていますし、まともな貴族であれば知っていることでしょう。実際に、王宮から伝える対象に入っていない貴族、主に財務関係の業務を担う貴族の中にも、先日の出来事を想起している者が多くいます。
一方で知らない者は、先ほど顔をしかめた者たちと概ね一致していますね。驚くことでもないのでしょうが。
「続きを」
2つの意味でざわつく貴族を一瞥し、ダンが兵士に続きを促します。
「はっ。うち6体は馬車のような車輪のついた箱を抱えております。その馬車には、クルセイル大公領の紋章と思しき文様が描かれておりました」
我々からすれば、「そうでしょうね」という程度の感想ですが、やはり・・・
間違っても、この者たちをコトハ殿の前に出さないように気をつけないといけませんね。
明確に犯罪を犯していた者はもちろん、脱法ギリギリのところで平民を食い物にしていた者などは処理しましたが、無能な者についてはまだ手が回っていないことを痛感させられます。
とはいえ、この者たちを処分すれば、さすがに貴族が足りません。今でも、本来であれば子爵が治める規模の領地を男爵が治めている例などいくつもありますからね。
ダマイヤー子爵のように優秀な人物が不幸に襲われ、役に立たない者たちは・・・、難儀なものです。
今は、兵士の話に集中しましょう。
とはいえ、要するにクルセイル大公領の一団が、先にシャジバル辺境伯領を訪れたようにドラゴンによる空中輸送で王都へ来た、というものですからね。
確認したいことはありますが、焦ることではありません。
「以上か?」
「はっ。私はその時点でご報告に参りました。追って、次の伝令が参ります」
「分かった。至急戻り、間違っても手を出さぬように改めて伝えよ」
「はっ。御前失礼致します」
すると、出て行く兵士と入れ替わるように、別の兵士が部屋へ飛び込んできました。
「ご報告いたします」
「続報か?」
「はっ。馬車を抱える先頭のドラゴン及び馬車を抱えていないドラゴンの各1体が正門前に着陸しました。馬車の中には、クルセイル大公弟、カイト・フォン・マーシャグ・クルセイル殿下がおられ、バイズ公爵家ラムス様に取り次ぎを頼みたいと」
コトハ殿ではなくカイト殿ですか。
以前聞いた話では、コトハ殿はカイト殿に爵位を継がせる予定だと。コトハ殿らは寿命など我々と比べるまでもないはずですが、コトハ殿自身は貴族や領主を長く続ける予定はないとのこと。
お二人をよく知るバイズ公爵やラムスの意見でも、カイト殿の方が「貴族らしい」とのことでした。
それもあってか、最近は対外的な場所へはカイト殿が出てくるようになっていますね。
少し前のバイズ公爵領ガッドでの面会、そして先日の難民受け入れ時の対応は、カイト殿がコトハ殿の名代として来たと聞きます。
「ラムスよ。カイト殿と約束が?」
「いえ」
バイズ公爵の問いにラムスは首を振って返します。
「カイト殿は他になんと?」
「はっ。クルセイル大公殿下の名代として、ラムス様に何点かお伝えしたい旨があると」
ラムスを指名したのは、コトハ殿かカイト殿か。
あちらから宰相や軍務卿であり第3王子であるダン、そして父を指名することで不要な火種を生みたくないと考えたのか、あるいは、それらよりは単に話せるであろうラムスを指定したか・・・
いずれにせよ、ですね。
「陛下、宰相。先日の件もありますし、カイト殿を招待してはいかがでしょうか。よろしければ、この場に」
私の言葉に例の貴族たちが不満そうな顔をしますが、気にする必要もありません。
どのように考えてもカイト殿の方が重要です。何より、コトハ殿がカイト殿を名代として派遣した理由の中には、我々の今後の動きに大きな影響を与えるものが含まれているような気がします。
カイト殿をこの場に呼んだことで、コトハ殿の反感を買う可能性も否定はできませんが、カイト殿に関しては、対外的な部分をカイト殿に任せているようですし、大丈夫だと思います。
「それが簡単か。ラムスよ、カイト殿をこの場へ連れてきてくれ」
「かしこまりました、陛下」
♢ ♢ ♢
我々も休憩を挟み、御前会議を行う会議室には再び陛下に王族、そして多くの貴族が集まりました。
例の愚者どもは退席させたかったのですが・・・、愚かな行為を重ねないことを祈るばかりです。
「クルセイル大公家、カイト・フォン・マーシャグ・クルセイル殿下がお見えになりました」
扉が開かれ、カイト殿とお付きの者が部屋へと入ってきました。
陛下がおられる場所なため、護衛は中に入れず、お付きの者も帯剣することはできません。おそらく、カイト殿も剣を佩いていたと思われますが、今は外しているようです。
「久しぶりだな、カイト殿。かけてくれ」
陛下に促され、カイト殿は着席します。
お付きの者はカイト殿の直ぐ後ろに控えるようです。男女1人ずつ。女性の方は見覚えがあります。以前もカイト殿と共にいた『エルフ』の女性でしょう。
ラムスによれば、おそらくカイト殿の思い人。コトハ殿の方針を考えれば、そのまま夫婦になると考えておくのがよいでしょう。
男性の方はローブを羽織り、フードを被っているため顔は見えませんね。
着席したカイト殿が、
「大変ご無沙汰しております、陛下。カイト・フォン・マーシャグ・クルセイルにございます。本日は、クルセイル大公、コトハ・フォン・マーシャグ・クルセイルの名代としてまかり越しました」
「うむ。息災そうでなによりだ。コトハ殿も息災であるかな?」
「はい。おかげさまで、領主として日々積極的に活動しております。今回は、姉が領を離れることができないため、失礼ながら私が代理で参りました」
「気にせずともよい。それよりも、ラムスに用があったところを呼び立ててしまったな、許してほしい」
「もったいないお言葉です。まずはラムス様にご報告した上で、陛下へ奏上をお願いしようと考えておりましたが、このような場をいただき光栄に存じます」
陛下に臆することもなく、きちんと返答しているカイト殿の様子は素晴らしいですね。
「そうか。では、早速ではあるが、本題を聞いてもよいかな?」
「はい。何点かあるのですが、まずは・・・、皆様が気にしておられるであろう、ドラゴンについて」
その瞬間、カイト殿に集まる視線の鋭さ、重さが増しました。
気になるのは分かりますがね。
ですが、少し驚いたことにカイト殿はこの視線をものともしていない様子です。
「・・・ご存じの方もおられるでしょうが、あのドラゴン、『赤竜』は姉の配下のドラゴンです。以前、ダーバルド帝国の砦を攻めた際に協力したのと同種族になります。そして、先日シャジバル辺境伯領へお邪魔した際にも協力してもらいました」
「協力というのが気になるが・・・」
ダンの呟きは、この場にいる者の総意でしょう。
「はい。この度、『赤竜』は、我が領の騎士団の一員となりました。騎士団の中に、「飛空団」という部隊を編成し、空中戦闘及び空中輸送を担うこととなりました」
「「「・・・」」」
この中に、カイト殿の言葉を正確に理解できた者がどれだけいるのでしょうか。
私自身、理解することを頭が拒否しているようです。
ダンが、コトハ殿が使役していたドラゴンによる空中輸送を革命的だと賞賛し、どうにか王宮騎士団や王国軍にも導入できないか検討していましたが・・・
「・・・今回はその「飛空団」のお披露目として王都へ?」
絞り出すように宰相が問いかけます。
「それもあります。ただ、馬車で来るより圧倒的に速いというのが一番の理由です。今は、使用している馬車が普通の馬車を流用しているのでスピードは抑えめにしていますが、それでも我が領から王都まで数時間で着きます。将来的には更に短縮予定ですね」
「「「え!?」」」
やはり、理解するのは難しいですね。