軽量なろうリーダー

「あなたにとって私は何番目ですか? 3番手扱いされた令嬢は冷徹に別れを突きつける」

作者: まほりろ・コミカライズ配信中

本文

「あなたにとって、私は何番目ですか?」

私が尋ねると、婚約者は固まったように動かなくなった。

しばらくして……。

整った顔をくしゃくしゃに歪め、

「エリーゼ、どうしてそんな酷いことを聞くんだ!」

……そう私を責めた。

その瞬間、私の中で何かが切れた。

私の婚約者はカスパル・グラーフ、伯爵家の嫡男で、中性的な美少年だ。

私が彼と出会ったのは四年前、お見合いの席だった。

華奢な体格で、儚げな容姿の彼に、私は一目で虜になった。

カスパルが病弱だったこともあり、両親は婚約に反対したが、私が必死にお願いしたこともあり、最後には婚約を認めてくれた。

その頃の彼は病弱で、「私が支えてあげなくては!」と思ってしまったのだ。

私の家は伯爵家だが、薬の商いも手掛けている。

その伝手を使って、カスパルのために様々な本や薬を取り寄せた。

その甲斐があってか彼はみるみる回復した。

二年前、学園に入学した時には、すっかり元気になっていた。

彼は「君の看病のおかげだ」と笑顔で告げてくれた。

今までの努力が報われた気がした。

……と、ここまでは良かったのだ。

元気になった彼は、外で遊ぶ楽しさを覚えた。

学園で友達を作ると、彼らと遊びに行くようになった。

それだけならまだいい、貴族の学園生活は社交の場ではあり、友人を作ることも大切だから。

友人との遊びを優先し、私とのデートをよくすっぽかすようになった。

その上、彼は幼馴染の準男爵令嬢ラウラ・リースとよく会うようになった。

私との約束よりも、彼女との約束を優先した。

「友人の馬車が壊れたから家まで送って行った。お茶をどうぞって言われたから、断れなくて飲んできた」

「幼馴染が熱を出したからお見舞いに行った。ラウラは僕が作った林檎うさぎは美味しいって食べてくれたんだよ」

「友達が婚約者とレストランに入ったけど、お金が足りなくて困ってるって言うから、家まで財布を取りに行ったんだ」

「ラウラの飼っていた犬が怪我をしたから、病院に付き添ってあげたんだ」

友人や幼馴染を理由に、何度デートの約束を破られたかわからない。

それだけならまだいい。私が我慢すればいいだけだから。

彼は、親戚一同が集まる私の十七歳の誕生日パーティーをすっぽかしたのだ。

しかも理由は、

「親友が彼女に振られて落ち込んでいるから、友人と一緒に慰めていた」

というしょうもないもの。

ちなみに、その日彼の友人宅で夜通しパーティーが開かれていたことは調べがついている。

流石にこれは許容できなかった。

私だけでなく家を蔑ろにされたのだから。

それでも長年の付き合いがあるので、最後のチャンスを与えた。

父の誕生日パーティー、その日も親戚一同が集まることになっていた。

「私の婚約者です」と親戚に紹介する手はずだった。

私はカスパルの家まで行って招待状を直接手渡し、「今度は絶対に来てね! 何があってもよ! きっとよ!」と何度も念を押した。

だが、そのパーティーに彼は来なかった。

「ラウラがケーキを作りすぎたって泣きついてきたから、友人を呼んで一緒に食べてあげたんだよ」

という、しょうもない理由で……。

この人は、私も、私の家族も、蔑ろにしていいと思っているんだ……。

私は愛情や同情が、すっ……と引いていくのを感じた。

それでも、誠心誠意謝罪してくれれば……。

そう思って、デートに誘った。

なのにまた、約束をすっぽかされた。

いや、待ち合わせ場所に来たのだからすっぽかされてはいないか。

……五時間ほど遅れてきたけど。

彼の第一声はこうだった。

「エリーゼ、今日は待っててくれたんだね。

この間のデートの時の君の態度は酷かったからね。

僕が待ち合わせの場所に行ったら、いないんだもん。

僕は、ほんの少し遅れただけなのに、帰ってしまうなんてね。

だけど、大丈夫。

今日、待っててくれたから許してあげるよ」

私は前回のデートの時、三時間ほど待っていた。

彼の言う『ほんの少し』というのは、私の感覚とは違うようだ。

今日の待ち合わせも三時間経過した時、帰ってしまおうかと思った。

だけど、どうしても伝えたいことがあったので、こうして待っていたのだ。

半分は意地だった。

でも、待っていた甲斐があった。

これ以上この人と付き合っていくのは無理だと、そう確信することができたから。

……私は、どうしてこの人と婚約したのだろう?

幼い頃の彼は、病弱で、儚げで、優しくて、守ってあげたくなるような子だった。

彼の両親も弟も礼儀正しくて、相手への感謝を忘れない人だった。

なぜ、彼だけがこんな風に育ってしまったのかしら?

結婚後、彼が私や実家を大事にするとは思えない。

もう限界、もう終わりにしましょう。

「私が一番ではないことはわかっています。

一番は幼馴染のラウラ様、二番目はご友人の方々でしょうか?」

カスパルの顔には図星と書いてあった。

私はそこで一度会話を区切り、ふぅーーっと息を吐いた。

「私を一番に扱ってくれないあなたとは結婚できません。

婚約を破棄しましょう」

真っ直ぐに彼の顔を見つめ、はっきりとそう伝えた。

「私との約束で、あなたを煩わせることは二度とありません。

よかったですね、私から解放されて」

三番手の扱いには、もう耐えられない。

「さよなら」

カスパルは間抜けな顔で口をパクパクとさせていた。

私は踵を返し、広場を後にした。

次は同情で婚約者を決めたりしない。

私を大切に扱ってくれる方と婚約するわ。私はそう強く誓った。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

帰宅後、両親に今日のことを報告した。

「エリーゼを家まで送り届け、パーティーを欠席したことを私たちに謝罪せねばならん!

カスパルは、そんなことすらできないとはな!」

応接室に父の怒号が響く。

父は眉間にしわを寄せ、歯ぎしりをしていた。

「やっぱり、婚約者を決めるのが早すぎたのかしら?」

母は頬に手を当て、深く息を吐いた。

「見る目がなかったと、後悔しています」

目の前に儚げな美少年が現れ、「君だけが頼りだ!」と泣きつかれたら、誰だって心が揺れる。

しかし、婚約者をそんな理由で決めてはいけなかった。

捨て犬を拾うのとわけが違うのだから。

「あなたを責めているわけではないの。

幸せになってもらいたいだけなのよ」

母は私を慰めるように、私の手にそっと自分の手を重ねた。

「お母様、安心してください。

次はまともな人間を選びます」

次こそは絶対に失敗しない。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

その後、カスパルが当家に謝罪に訪れることはなかった。

代わりに、彼の両親であるグラーフ夫妻が、当家を訪れ謝罪してくれた。

私が婚約破棄の意思を伝えると、二人は取り乱すことなく応じてくれた。

「エリーゼ嬢の決意は固いようだ。

我々はあなたの要求に応えよう」

グラーフ伯爵夫妻は、何度も謝ってくれて、慰謝料もはずんでくれた。

まったく、どうしてこんな良識的な人たちから、あのような非常識な人間が生まれたのか……? 謎だわ。

「カスパルは跡継ぎから外す。

伯爵家は次男のヨハンに継がせる」

その言葉から、グラーフ伯爵の強い決意を感じた。

カスパルの時間感覚は世間とずれている。……まぁ、私がぞんざいに扱われていただけかもしれないが。

彼が当主となっても時間感覚が治らず、度々約束に遅れたら、伯爵家の信用問題に関わる。

王族との約束に遅れた日には、お取り潰しもあり得る。

彼を跡継ぎから外すという伯爵の考えは正しい。

伯爵家の次男のヨハン君は、現在十五歳。

カスパルと違い、礼儀正しく賢い少年だ。

彼が跡継ぎなら、グラーフ伯爵家も安泰だろう。

この話は、グラーフ夫妻の口から、即日カスパルに伝えられたと思っていた。

カスパルの予想外の行動により、後々の騒動に繋がることになるなんて……。

この時の私は知るよしもない。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

――一年後――。

今日は学園の卒業パーティー。

私の隣には、新しい婚約者のジークムント様がいる。

ジークムント様はハルトマン侯爵家の嫡男で、現在二十歳。

騎士団に所属していて、長身で筋肉質の美丈夫だ。

彼は一年ほど隣国の騎士団と合同の魔物討伐に参加しており、半年前に帰国したばかりだ。

ジークムント様は、私が学園の一年生の時に三年生だった。

図書館で一人で勉強している私を見て、好意を抱いていたそうだ。

でも、その頃の私はカスパルと婚約していたから、想いを伝えられなかったらしい。

私が婚約破棄したことを知って、私の家に求婚しに来た。

「釣書を送ってから会いに来るのが礼儀だとわかっている! だが、そうしている間に君が他の男に攫われたら困るから!」と、彼は真剣な表情で語った。

それからも、熱烈なアプローチを繰り返され……私は彼との婚約を受け入れた。

ジークムント様の騎士団での訓練を見学したが、飛び散る汗、たくましい筋肉、剣と剣がぶつかり合う音……素敵だったわ〜〜!

やはり男は、家族を守れるくらい強くなくちゃね!

貧弱な男なんてだめよ!

それにジークムント様は私との約束を優先してくれるし、私を一番に扱ってくれるし、時間にも正確なの。

彼を選んで正解だったわ。

ジークムント様の瞳の色の紫色のドレスに身を包み、パーティー会場に向かう。

ちなみにドレスとアクセサリーはジークムント様からの贈り物だ。

彼は私の瞳の色の青いジュストコールを纏っている。

会場に入ろうとしたその時……。

「エリーゼ!」

聞き覚えのある声がした。

振り返ると、元婚約者のカスパルが立っていた。

「君の家に迎えに行ってもいないから、会場に来てみれば……!

誰なんだよ、その男は!!」

カスパルが、ムッとした表情で私に詰め寄る。

「誰って……私の婚約者です」

「はっ? 何言ってんの?

君の婚約者は僕でしょう!」

カスパルは本気で言っているようだった。

「あなたとの婚約は、一年前に破棄しました。

どうして知らないんですか?」

グラーフ夫妻から何も聞いてないのかしら?

婚約破棄の当事者なのに?

「まさか、そんなはずは……!」

そもそも、一年間なんの音沙汰もなく、パーティーの為のドレスもアクセサリーも贈ってこないで、何が婚約者だ、何がエスコートだ! 笑わせないでいただきたい。

「カスパル〜〜!」

彼の背後から金髪の美少女が現れた。

「今日のパーティーに誘ってくれてありがとう!

可愛いドレスも買って貰えて嬉しいわ!」

少女はさも当然のようにカスパルの隣に立ち、彼の腕に自分の腕を回した。

「そちらが婚約者のエリーゼ様?

カスパルにドレスを買って貰えなかったんですってね?

そのドレスは自前?

可哀想〜〜!」

「ラウラ! 会場に来るのはもう少し後にしてくれって言っただろ!」

カスパルは私と少女の顔を見て、眉根を寄せた。

どうやら彼女が噂の幼馴染のラウラ・リース準男爵令嬢のようだ。

彼女は学園に通ってないので、顔を見たのはこれが初めてだ。

準男爵家でも学園に通えるし、実際に通っている生徒も沢山いる。

準男爵は一代限りの爵位だ。

なので、彼らは宮中の仕事に就く為に必死に勉強する。中には結婚相手を探す為に学園に通っている者もいる。

彼女は学園に通わず、ふらふらしていて大丈夫なのかしら?

まぁ、私には関係ないけど。

「だって〜〜、カスパルに買って貰ったドレスを早く見せたかったんだも〜〜ん!」

少女は私の顔を見て、目を細め口角を上げた。マウントを取るつもりらしい。

カスパルは、私をエスコートすると言っておきながら、浮気相手にドレスを贈って、パーティーに呼んでいたようだ。

随分と舐められたものね。さっさと別れて正解だったわ。

私は冷めた表情で二人を眺めた。

「カスパル、お似合いよ。

そちらをエスコートして差し上げてはいかが?」

元婚約者は額に大粒の汗を浮かべ、叫んだ。

「君をエスコートしようとしただけで、十分に婚約者の役目は果たしただろう!

その後で、僕が誰と踊ろうが勝手だ!」

どこまでも上から目線なんですね。

今すぐ消えてほしいわ。

「……君の家も、君自身も、随分とないがしろにされてきたんだね。

こんな男とは別れて当然だよ。

君にはふさわしくない」

ジークムント様がカスパルを冷たい目で見据え、静かに言った。

彼の声のトーンは穏やかだったが、そうとう怒っているのが伝わってきた。

カスパルはジークムント様に睨まれて、「ひっ!」と短く悲鳴を上げた。

「嘘っ!

顔だけのカスパルの十倍かっこいい!!

誰なのよその男は!

婚約者がいるのに、他の男性にエスコートされるなんていけないのよ!

浮気よ!」

浮気とか……あなたが言う?

少女はターゲットをジークムント様に変えたようで、自身の顎に手を当て、目をパチパチさせながら、彼に熱い視線を送っている。

「私は浮気していませんよ。

カスパル様とは一年前に婚約破棄してます。

こちらは新しい婚約者です」

「カスパルと婚約破棄した!?

新しい婚約者!?」

ラウラは目を丸くしていた。

「悪いが俺にはエリーゼ以外目に入らないんだ。

消えてくれるかな」

ジークムント様は、すっ……と目を細め、氷のように冷たい表情でラウラにそう告げた。

「それから、グラーフ伯爵令息。

お礼を言うよ。

君がエリーゼを解放してくれたおかげで、彼女と婚約することが出来た」

そう言って、ジークムント様が私を腕の中に閉じ込めた。

カスパルが唇を噛み締め恨めしそうな顔でこちらを見ているが、そんなことはどうでもいい。

「もう、ジークムント様、人前ですよ」

「ごめん、外野がうるさいから、君を独占したくなった」

外野の声なんて、カエルの鳴き声だと思っていればいいのよ。

カスパルとラウラが何か言っているが、もう聞こえない。

「兄様、パーティーに参加されていたのですね」

そこにカスパルの弟のヨハン君がやってきた。

彼の隣にはコーラルオレンジの髪を、ルーズサイドツイストヘアにした美しい女性が立っていた。

「ヨハン!

お前こそなぜここに……!?

お前は卒業生ではないだろう!」

「僕の婚約者が今年卒業するので、エスコートしています」

ヨハン君の婚約者を見て、カスパルが目を見開いている。

「婚約……?

お前、婿養子に行くのか?」

カスパルの言葉を聞いて、ヨハン君が口に手を当てくすりと笑う。

「婿養子?

何で跡継ぎの僕が養子に行くんですか?

お嫁に貰うんですよ」

「なっ……!

次男のお前が跡継ぎだと……!」

カスパルは、眉間に深いしわを作り、目を大きく見開いた。

「ヨハン君、カスパルは私と婚約破棄したことも知らなかったようなの」

「そうなのですか?

エリーゼ様にも、ご婚約者様にもご迷惑をおかけしました。

兄は一年前に『寮生活をする!』と言って家を出て、それから一度も帰宅していないんです」

ヨハン君は丁寧に謝罪し、「何度呼び出しても家に来ないから、手紙を送ったんですが……」と、困ったように続けた。

なるほど、これでだいたいの状況が把握できたわ。

カスパルは、グラーフ夫妻のお説教から逃げるように学園の寮に入った。

ご両親からの手紙も、読まずに捨てていたのでしょう。

だから何も知らないのね。

「そんな……!

エリーゼとの婚約が破棄されていただけでなく、跡継ぎから外されていたなんて……!

悪夢だ……!」

カスパル様は、口元を引き結び、真っ青な顔で立ち尽くしている。

しかし、彼の悪夢はこれだけでは終わらなかった。

「兄様、僕はあなたを補佐として家に置くつもりも、使用人として雇うつもりはありません。

女性関係にだらしなく、時間や約束を守らない人を、家に置く理由がありませんから」

ヨハン君が冷たい表情で告げる。

「あなたは卒業と同時に勘当されます。

僕は身一つで放り出した方が兄様の為だと思ったのですが、両親の考えは違いました。

兄様の為に、家を買うお金と事業を始めるための資金を用意しました」

なんのかんの言っても、グラーフ夫妻はカスパルに甘い。

「えっ……?」

「兄様の小切手の支払いは、すべて『手切れ金』として両親が用意した資金から引き落とされています」

「まさか……!」

カスパルの顔からみるみる血の気が引いていく。

「よもや、その資金を浪費したりしていませんよね?」

カスパルの青白かった顔が、今や土気色だ。

ヨハン君が指摘した通り、カスパルは散財してしまったのだろう。

「じゃあこの一年間、僕が小切手で支払った、ラウラとのデート代や、彼女へのプレゼント代、友達との旅行費用や飲食費は……」

「兄様、残念です。

そこまで愚かだとは思いませんでした」

ヨハン君は、目を伏せ静かに首を横に振った。

「ええ……!?

じゃあ、カスパルは無一文なの!?

この人の愛人になっても贅沢できないってこと……!?」

カスパルは、ラウラを愛人にするつもりだったのね。

本当にどうしようもない人だわ。

私は冷めた目で彼らを見つめた。

「ラウラ、君に贈ったアクセサリーやドレスを返してくれ……!!」

「いやよ!

これは私の物よ!!」

カスパルはよろよろとラウラに手を伸ばしたが、彼女はその手を叩き落とした。

「カスパル、あなたとはこれまでよ!

さよなら!」

そして、一目散に逃げてしまった。

お金で冷めるなんて、安っぽい愛ですね。

「カスパルじゃん!?

さっきラウラが物凄い形相で走って行ったけど、なんかあったのか?」

入れ違いにカスパルの友人たちがやってきた。

ベッカー子爵令息、ケラー男爵令息、ロート男爵令息の三人だ。

カスパルは彼らと遊ぶのを優先し、何度も私との約束をすっぽかした。

私は冷めた表情で彼らに視線を向けた。

カスパルが三人に事情を説明した。

「お前、そんなことになってたのかよ?

だから家には連絡しとけって言っただろ?」

彼らは他人事のように、カスパルの相談を笑い飛ばした。

「助けてくれよ!

エリーゼに婚約破棄されたのは、お前らの用事に付き合ったせいでもあるんだぞ!」

「俺たちのせいにするなよ。

大事なパーティーとか、親戚の集まりとか、そんなの聞いてないって。

婚約者との退屈なデートだと思ったから、『来いよ』って言っただけだ」

カスパルは自業自得だからどうでもいい。しかし、一つだけ聞き流せないことがあった。

「……つまりあなた方は、私とのデートならすっぽかしてもいいと思っていたんですね?」

私が冷静に告げると、カスパルと友人三人はバツが悪そうに視線を逸らした。

「今後、あなた方の家とのお付き合いは考え直させていただきます」

彼らは真っ青な顔で立ち尽くしていた。

「ジークムント様、参りましょう。

パーティーが始まってしまうわ」

「ああ、そうしよう。

こんな連中、関わるだけ無駄だ」

「エリーゼ様、兄が本当にすみませんでした」

「ヨハン君、あなたが謝ることはないのよ。

それより、婚約おめでとう。

よかったら、お相手を紹介していただけるかしら」

「はい、ヘレーネ様はマックス伯爵家の長女で……」

私は振り返ることなく、会場へと足を進めた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

――一年後――

私は今、とても幸せだ。

ジークムント様と結婚し、彼の家で楽しく暮らしている。

彼は私を一番に扱ってくれる。

毎日、愛をささやき、贈り物をしてくれる。

彼にお返しがしたくて、ハンカチに刺繍をしたり、体力がつくお弁当を作って、騎士団に差し入れしている。

カスパル様と婚約していた頃の私は、誰かの「ついで」に扱われ、ぞんざいにされることに慣れ過ぎていた。

でも、今は違う。

私はちゃんと一番に愛されている。

そう言えば……先日、元婚約者やその友人たちの噂を耳にした。

もう過ぎたことなので、どうでもいいことなのだが、わざわざ私に教えに来る暇な人がいるのだ。

噂によると、カスパルはどんな仕事も長続きせず、しまいには働くことを諦めてしまったそうだ。

酒場で飲んだくれているところを見かけたとか、見かけないとか。

彼の幼馴染はというと……。

最近、結婚詐欺で捕まった金髪の女性の名前が『ラウラ』だったとか。

カスパルの友人三人はというと……。

彼らの私生活にも問題があったようで、実家から勘当されたようだ。

類は友を呼ぶという言葉があるけど、彼らもカスパルと同じような思考だったらしい。

まあ、私には関係ない。

私は、自分の幸せを大切にするだけ。

窓の外に、見覚えのある馬車が。

ジークムント様がお帰りになったのだわ。

「ただいま、愛するエリーゼ。

君の美しさの前ではかすんでしまうがこれを」

「まぁ、素敵。

真紅の薔薇ね」

私は彼から薔薇の花束を受け取った。

彼の花束は、いつも 十二本(ダズンローズ) だ。

結婚記念日でもないのに、愛情が深いわ。

今日も私は、旦那様に愛されている。

――終わり――