軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去も今も、これからも1

「今年も一年、おつかれさま」

そんなレイヴァン様の声に頷き、グラスを合わせる。

今日はこの世界での大晦日のようなものだ。本来なら王国魔術師にも騎士にも、休みはない。とは言え、私とルークは新婚ということで、年末年始はなんとかお休みをもらうことができた。勿論、何かあれば即呼び出されるけれど。

そして今夜は、レイヴァン様と三人で飲みに来ている。明日は、お昼からモニカさんの所へと行く予定だ。

「俺も混ぜてくれてありがとうね、二人がいなかったら一人ぼっちになる所だったよ」

「またまた、探せばいくらでもいるでしょう」

「まあ、そうだけどさ。いまいちピンと来ないんだよね。ルークはいいよな、俺もサラちゃんと結婚したい」

「ふざけるな」

低く冷え切った声を出したルークに、レイヴァン様はおかしそうに冗談だよ、と言って笑う。

「でも二人に子供が出来たりしたら、こうやって過ごすことも無くなるだろうし、俺も真剣に結婚相手探すかな」

「そ、そうですかね」

子供という言葉だけで照れてしまう私に、ルークは「可愛いです」と柔らかく微笑んで。レイヴァン様はそんな私達を見て「俺もそういうのやりたい」と、深い溜息を吐いた。

「そういやサラちゃんが元々いた世界でも、年越しはこんな感じなの? 飲んだり食べたりって感じ?」

そう、実は先日、レイヴァン様にも私が異世界から来たという話をしたのだ。

価値観の違いだとか、知っていて当たり前のことを何も知らないことが気になったらしく、どこの国から来たのかと尋ねられて。笑い飛ばされるとは思いながらも、正直に全てを話したのだけれど。

なんと彼は「へえ、そうだったんだ。すごいね」とあっさりと信じてくれたのだ。むしろルークがずっと私を好きだった理由にも、納得がいくと言っていた。

そして何より、私やルークが自分にそんな嘘をつく訳がないと言って笑った彼に、ひどく胸を打たれた。本当にルークは素敵な友人を持ったと思う。

「そうですね。家族とのんびりしたり友人と騒いだり、恋人と過ごしたりするのが一般的ですね」

「そうなんだ、どこも変わらないんだね」

そうして私も、いつものようにレイヴァン様が並々にお酒をついだグラスに口をつける。最近は仕事が忙しく、あまりお酒を飲んでいないせいか、すぐに酔いが周りそうだ。

そんなことを思っていると不意に、隣に座るルークから痛いくらいの視線を感じた。

「ルーク、どうかした?」

「……サラも、恋人と過ごしたりしたんですか」

「えっ」

まさかそんなことを尋ねられると思っていなかった私の口からは、間の抜けた声が漏れた。今までルークに、過去の私の恋愛などについて尋ねられたことは一度もなかったのだ。

なんて答えようか悩んだけれど、嘘をついたり誤魔化したりするのも嫌だしと、正直に答えることにした。

「い、一度だけ、あります……」

とは言え、テレビを見ながらお酒を飲み、買っておいたオードブルを食べて。日付が変わったあとには二人で初詣に行き、そのまま送ってもらって帰っただけだ。健全すぎる。

私がそう答えると、彼は「そうですか」とだけ呟き、グラスに入っていたお酒を一気に飲み干した。彼が飲んでいるのは、アルコール度数の高いお酒だ。それもストレートで。

そんな勢いで飲んで大丈夫かと尋ねようとしたところ、レイヴァン様がルークの肩をばしばしと叩いた。

「ルーク、もしかしてお前妬いてんの? 他の男と一緒に年を越したことがあるだけで? 可愛いとこあるじゃん」

「そうだ、悪いか?」

「えっ」

はっきりとそう答えた彼に、心臓が大きく跳ねた。

嫌な話を聞かせてしまい申し訳ない気持ちと、嫉妬してくれたことで嬉しいという気持ちが、一気に込み上げてくる。

「サラちゃんは本当に愛されてるねえ」

「は、はい。そして私も、ルークのことがとても好きです」

つい照れてしまい、なんだか作文のようになってしまったけれど。私のそんな言葉に、ルークは「嬉しいです」と微笑み、優しく頭を撫でてくれた。

「あれ、サラ様だ!」

すると不意に聞こえてきた、可愛らしい声に呼ばれ振り返れば、王城に勤める女の子達が数人、こちらに向かって手を振っていた。少し一緒に飲みませんかと声をかけられ、私は二人に一瞬だけ顔を出してきていいか、尋ねてみる。

年が明けるまで、まだ時間はある。二人から是非行っておいでと言ってもらった私は、一杯だけ乾杯してくると言い、彼女達のテーブルへと移動したのだった。

◇◇◇

「…………えっ」

結局、彼女達になかなか解放してもらえず、ようやく二人の元へと戻ってきた私は、思わず固まってしまった。

なんとルークが、ぐったりとしてテーブルに突っ伏していたのだ。髪の隙間から見える耳は、ひどく赤い。間違いなくかなり酔っ払っている。

「言っておくけど、俺のせいじゃないからね? ルークが勝手に、一人でこれまるまる一本飲んじゃっただけで」

そう言って彼が指差した先には、空になったウイスキーのボトルがあった。その度数を見た私は、目眩がした。普通なら、急性アルコール中毒になっていたっておかしくはない。

ルークはどれだけお酒が強いんだろうと驚きつつ、何故こんな無茶な飲み方をしたのかと不思議で仕方なかった。

「ルーク、大丈夫……?」

「ぜんぜん大丈夫です。酔ってません」

酔っている人間というのは、大体こう言うのだ。自分でも無意味な質問をしてしまったと思いながら、店員さんに冷たい水を持ってくるようお願いする。

「どうして、こんな……」

思わずそう呟くと、ルークは私を見上げ、呟いた。

「……サラの過去の恋人達が、別世界にいてよかったです」

「えっ?」

「同じ世界にいたら、何をしていたかわからない」

そんなことを言ってのけた彼に、顔が熱くなる。お酒のせいなのか、本当にルークらしくない。けれど、嬉しいと思ってしまう私もどうかしているとは思う。

レイヴァン様は「こんなルークは初めて見たよ。来年はいい年になりそう」なんて訳のわからないことを言っている。

「……ごめんね、あんな話しなければ良かった」

「いえ、ずっと気になってはいたんです。……俺に、きく勇気がなかっただけで」

ルークは溶け出しそうなくらいに甘い、蜂蜜色の瞳で私をじっと見つめた。毎日のように見ていても、見慣れることのないその綺麗すぎる顔に、どきりとしてしまう。

私だって、ルークの過去が全く気にならないと言えば嘘になる。けれど何も聞かずにいられるのは、彼がずっと私のことを想ってくれていたと知っているからだ。

もしも私がルークの立場なら、色々と過去のことを尋ねてしまっていたかもしれない。そう、思っていた時だった。

「……なんかい、」

「?」

「なんかい、キスしましたか」

「えっ」

突然、そんなことを尋ねられてしまったのだ。

どうしていいか分からず、向かいに座るレイヴァン様へと縋るように視線を向ければ「正直に答えてあげなよ」と言われてしまって。やがて私は、おずおずと口を開いた。

「に、2回だけ……」

23歳の女性としては、間違いなく少なすぎる数字だとは思う。それでも、なんだか申し訳なくなってしまった。

出来るなら、ルークが初めてが良かったとも思う。けれど今更そんなことを思ったところで、どうにもならないのだ。

そして何とも言えない、気まずすぎる沈黙が続く。本当にどうしてこんな話になってしまったんだろう。

結局、この空気に耐えきれなくなり、謝罪の言葉を口にしようとした時だった。

「……むかつく」

ルークらしくもない、そんな聞き慣れない言葉が降ってきて。それと同時に、私の唇は彼によって塞がれていた。