軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夫婦の形2

突然のことに、頭が真っ白になる。食べられてしまうのではないかというくらいに深くて長いそのキスに、私はされるがままだった。

自分からキスをしたいなんて言い出したけれど、触れるくらいのものを想像していた私は、完全にキャパオーバーで。やがて唇が離れた頃には、完全に呆けてしまっていた。

ぽかんとしたまま、彼を見つめることしかできない。

「……今のでは、足りませんでしたか?」

「た、足りました、十分です! ありがとうございます!」

「それは残念です」

追い打ちをかけるかのようなその言葉と笑顔に、私のライフはもうゼロだった。それに対してルークは、こちらが溶けてしまいそうなくらいの、甘すぎる笑みを浮かべている。

姉のような顔をしていた過去の自分が恥ずかしくなるほどに、彼の方がずっとずっと、 上手(うわて) だった。

「水、とってきますね」

すると突然、ルークはそう言って部屋を出て行った。一人になり緊張がどっと解けた私は脱力し、ベッドの柱にもたれかかる。ひんやりとした金具のお陰で文字通り頭が冷えて、少し落ち着くことが出来た。

なぜ急に水を取りに行ったのかは謎だけれど、あのままでは私は逃げ出していたかもしれない。本当に助かった。あの顔と声と色気は流石に反則すぎる。

……まさかルークも内心は動揺していて、それを落ち着かせるために一旦部屋を出たなんて、私は知る筈もなく。

やがて彼が持ってきてくれた水を飲んで一息つくと、私は隣に座ったルークに気になっていたことを尋ねてみた。

「……どうして、教えてくれなかったの?」

「何がです?」

「初夜のこととか、普通は一緒に寝るとか、」

恐る恐るそう尋ねた私に、ルークはそんなことかとでも言いたげな顔で微笑んだ。

「無理はさせたくなかったんです。結婚自体が急でしたし」

「そうなの?」

「今のサラは頬にキスをするだけで真っ赤になって、しばらくこちらを見れなくなる位ですから。少しずつ慣れてくれればいいと思っていました」

「ご、ごめん……でも、ルークはそれでいいの?」

「良いと言えば、嘘になりますけど」

ルークは私の髪を一房掬いあげて、長くて綺麗な指でそっと梳いていく。そんな仕草ひとつひとつにも、好きだと言われているような気がしてしまう。

「15年も待ったんです。いくらでも待てますよ」

……ルークは本当に、優しすぎる。その優しい眼差しからは、泣きたくなるくらいの愛情が伝わってきて。それと同時に、私もまた心の底から彼が好きだと思い知らされた。

以前レイヴァン様に『誰かを好きで好きで、胸が苦しくなるような恋に憧れている』と話したけれど。間違いなく今、私はそんな気持ちを彼に対して抱いている。むしろそれ以上のものがきっと、この胸の中にあった。

「本当にありがとう。ごめんね」

「謝らないでください。こうしてサラと夫婦になれただけで、俺は十分過ぎる程に幸せなんですから」

「うう……ルークのことが好きすぎて死ぬかもしれない」

「それで死ぬなら、俺はとっくに死んでますよ」

そんなことをさらりと言う彼に、私の心臓はこの先も持つだろうかと不安になった。

とにかく、全て私の知識不足と男性への耐性の無さが原因なのだ。これ以上足手まといになる訳にはいかない。

「私、もう少し頑張るからね!」

「それなら、もう一度していいですか?」

「えっ」

「頑張ってくれるんですよね?」

有無を言わさないその眩しい笑顔に、私の心臓は再び悲鳴をあげたのだった。

◇◇◇

あの後、しばらく寝付けそうになかった私に、ルークは眠たくなるまで話に付き合うと言ってくれた。

「今更だけど、ルークの敬語もおかしいよね」

「そうですか?」

「だってルークの方が今は年上だし、身分も上だったのに」

「俺はそんなの気にしませんよ」

「そもそもルークって、私以外には冷たくない?」

「サラ以外に、優しくする必要性がないですから」

実のところ、私にはいつもにこやかで丁寧に話す彼が、他の人には氷のように冷たい表情で淡々と話すギャップに、内心かなりときめいてはいたのだ。

そんなことは恥ずかしくて、本人には言えないけれど。

「ねえ、今ちょっとだけ敬語無しで何か言ってみて」

「何を言えばいいですか?」

「キュンとするような、甘いやつがいい」

「……甘いやつ、ですか」

我ながらとんでもない無茶振りをしている自信はある。けれどルークは怒ることなく、真剣に考えてくれているようだった。あまりにも素直すぎて申し訳なくなる。

そんなことを考えていると、不意に視界がぶれた。気がつけば、両手を縫い付けるようにベッドに押し倒されていて。突然のことに目を見開くと、ひどく真剣な表情をしたルークと目が合った。

「君が他の男と話しているのを見るだけで、嫉妬でおかしくなりそうになる。頼むからずっと、俺のことだけ見ていて」

「…………」

「よそ見なんてしたら、許さない」

思わず、息が止まった。

意識が飛ばなかっただけ褒めて欲しい。心臓が飛び出してしまうのではないかという位、激しい鼓動を打っている。

……しかもこのセリフは、まさか。

「サラは、こういうのが好きなんですよね?」

「ど、どうしてそれを」

「広間に置いてあった小説を読んだんです」

「えっ」

まさか隠れて読んでいた、イケメンでちょっとSっ気のある王子様が出てくる激甘恋愛小説を、ルークに見られていたなんて。ちなみにこのシリーズは全巻持っている。

「じ、十分すぎました……! ありがとうございます!」

「今後もこんな感じの方が、」

「いいえ! こちらも大変素晴らしいのですが、私にはまだ早かったようです、いつも通りでお願いします」

「そうですか」

間違いなく真っ赤になっているであろう私を見て、ルークは満足そうに顔を綻ばせていた。

……今はまだ、普通の夫婦の形には程遠いかもしれない。けれど、まだ時間は沢山あるのだ。

ルークと二人でゆっくりと、私達なりの形で歩んでいけたなら、それ以上幸せなことはない。そう思えた夜だった。