軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

青年、選ぶ。

やがて口を開いたラティナは、なんとなく叱られた後のような、しゅんとした顔をしていた。

「本当はね……デイルに、気付かれちゃうなんて、思わなかったの。だから、もっともっと後に……心の準備が出来たら、話そうって思ってたの……」

初心者『魔王』の彼女自身も、色々心の準備は出来ていなかったらしい。

こちらも非常に動揺したのだが、『見抜かれてしまった』彼女にとっても、大混乱な事態であったようだ。何だか申し訳ない。

「私は、『魔王』だけど、『 理(ことわり) の外の魔王』だから……ほとんど『ちから』らしい『ちから』は持って無いの……でも、全ての魔王が持つ……魔王にだけ、赦されている『能力』がある……」

そして、彼女は、ゆっくりと言った。

「魔王は、自らの眷属をつくることが出来る」

--魔族。

魔王に従う、魔王の眷属。あらゆる種族の者から、--ひとだけでなく幻獣や亜人といった、知恵あるものならば、どんな種族からも--『生まれる』存在。

それは、外見に『元の種族』との変化は無くとも、比べものにならない程の、強大な『ちから』を有する存在だった。

「それは……」

ラティナはそこで、再び言い淀んだ。

デイルは促すように、彼女の髪をそっと撫でる。泣きそうな顔をしたラティナは、デイルを潤んだ眸で見上げた。

「それは、私の『願い』を叶えることの出来る……唯一の可能性だったの」

「お前の……願い?」

ぎゅっ。と、ラティナはデイルの服を掴む。幼い頃からの彼女の癖に、デイルは彼女の不安を感じ取った。

「魔族は……魔族なら……『定められた時間』という理を、変えることが出来る……だから……だから、私は……ダメだってわかっていたのに……それなのに……ごめんなさい、ごめんなさい……」

ぽろぽろと、泣き出しながら、彼女は再び謝罪の言葉を繰り返す。

小さく嘆息して、デイルはラティナを抱き締めた。

「…… それ(・ ・) が……『俺が理由』である訳か……」

彼女がずっと、『人間族』である自分と、『魔人族』である己の、『 寿命(じかん) の差』に思い悩んでいることは、知っていた。

だが、それはどうすることも出来ないことであったから--いつか訪れるその時が来るまで--そして、その後の時間に委ねて--流れる時間に任せるしかないことだとも思っていた。

諦めるしかないことであったから。

けれども彼女は、諦めなくても済む方法を、差し出されてしまった。

必ず訪れる永久の別れを、孤独を、絶対のものにしなくて済む方法を見出だしてしまった。

ずっと切望していたその唯一の可能性を目の前にして、彼女は、ようやく得た幸福をこのまま失ないたくはないと、望んでしまった。

本来の種族の能力を遥かに超える『魔族』は、その寿命すら、元々持つものと変質する。主である魔王に付き従える時間を与えられる 。

『魔族』となれば--元が『人間族』であっても、『 魔王(あるじ) 』と同じ時間を生きることが出来るのだ。

「俺のせいで……」

呟きかけて、首を振った。

「俺の 為(・) に、『魔王』になったんだな」

「私っ……ごめんなさい、デイル……ごめんなさい……」

「謝らなくて、良い。謝らなくて良いんだ……」

きつく、抱き締める。揺れ動く心の中から、言葉を探した。

「ラティナは……俺を、『眷属』に、したいんだな……?」

「っ!」

デイルのその言葉には、何故だか彼女は、大きく目を見開いた。

「ラティナ……?」

ぷるぷると、首を横に振ったラティナに、デイルが驚いた顔になる。

「……デイルに、『人間族じゃないもの』に、なれなんて、言えない。『理から外れたもの』に、なれなんて……言えない……」

「…………」

「『可能性』を否定しきれなくて、弱い私は手を伸ばしてしまったけれど……だからといって、大好きなデイルを……私が『違うもの』になんて……出来ないよ」

その返答に、何故か笑いがこみあげた。

すとんと、あるべきところに、『答』が嵌まった感覚がした。

もう一度、彼女を抱き締める。柔らかな白金色の髪に顔を埋め、優しい甘い香りを感じる。

「……デイル?」

「ラティナは、ラティナなんだな」

変わっていなかった。彼女は、自分の大切なラティナのままだった。

なら、自分も『自分』のまま、変わることはないだろう。

「良いぞ」

「……え?」

「俺を、ラティナの眷属に……『魔族』にしても構わない」

自然に微笑むことが出来た。作った笑顔では無く、心の底からそうすることが出来た。

「俺も、ラティナを『独り』にはしたくない」

それならば、『それ』は、自分にとっても選ぶべき『選択肢』なのだろう。

「ダ……ダメだよ……デイルっ」

「何でだ?」

「だって……だって……」

こんなにあっさりと、『 人間(ひと) をやめる』という発言をされたラティナの方が、真っ青になる。慌てふためいて、デイルを説得しようと試みる。

本来ならば、立場が逆では無いのだろうかと思えば、更に笑いがこみあげそうだった。その『ちから』が欲しくて、求めてしまった後でも、彼女は自分を慮っていてくれる。こんな優しい彼女が--自分は、本当に大切なのだ。

「俺は、ラティナと同じ時間を生きたい」

だからデイルは、自ら望んでみせた。

「ラティナが俺が良いと言ってくれる位に……俺もラティナが、大切なんだ」

そのデイルの言葉に、ラティナの灰色の眸から、抑え切れなくなった涙が溢れ出す。ただ、彼にすがり付いて、声をあげて泣きじゃくった。

優しい言葉に。赦されたことに。そして、『願い』が叶う喜びに。

「デイルだけ、デイルだけで良いの」

新たな『魔王』となった彼女は、そう言って泣き顔に微笑みを浮かべた。

大切なひとは、彼女にはたくさん居る。それでも、その全てのひとと、共に在れるとは思っていない。それを求めてはいない。

『魔王』が神に類するちからを持っていても、万能ではない。

だからこそ、彼女は、彼だけを求めた。

うしないたくない、最愛の存在に、共に在って欲しいと願った。

「約束しただろ? 俺の最期の時まで、一緒にいようってな。だから、これも全部『約束』の中のことなんだ」

「ごめんなさい……」

「謝らなくて良い。俺自身が選んだことなんだからな」

「……ありがとう、デイル」

ラティナは、そっと、手を伸ばした。

自分よりも、大きな彼の手を握る。

それを、頬に寄せて眸を閉じた。

これは、自分を救いあげてくれた、手だった。

あの時、彼が差し出してくれたこの手に、自分は命も--心も、救われてきたのだ。

「私の最大の幸運は、デイルに、救われたことなの」

あの時彼と出逢っていなければ、あの時出逢ったのが、彼以外の他の誰かだったとしたら--今の自分は無かった。

今、幸せだと言えるのは、全てあの時に彼と出逢ったから。自分の幸せは、全て彼が呉れた もの(・ ・) だった。

暖かな手のひらの感触に、自分は何度も救われた。

手を繋いで歩いたこと、全てが、自分にとって大切な思い出になった。

だから、そこに

--自分と彼を『繋ぐ』象徴であるそこに--

八(・) 、 もしくは零(・ ・ ・ ・ ・) の数を冠する『理の外の魔王』たる、彼女は--

自らの眷属としての新たな『名』を--『魔族』としての名を、刻んだのであった。