軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第40話 大団円4

こうしてアルテラ王妃の陰謀は終わった。

自国の王妃が大蛇に変身して討伐されたなどということが知れ渡ると、外聞が悪いので、王妃は突然の病に倒れてのちに死亡、という扱いにされた。

まあ、どこの国も有能な間諜がいるから、事実は知られると思うけれど、恐ろしい大蛇を倒す力が我が国にはある、という牽制になるからそれはそれでいいらしい。

すべての用事を終えたわたしたちは、わたしの実家であるアゲート家の人々と交流したり、王都で観光や買い物をしたりしてから、セイバート領に帰宅した。

ジェレミーはその愛らしさで行く先々に信者(『天使教』になるのかしら?)を増やした。王都で一番の信者の座を巡ってマキアード夫妻と国王陛下がおとなげなく張り合ったり、貴族の奥様方のハーレムができてしまいそうになり慌てたり(だって、皆様とんでもないものをジェレミーに貢ごうとするんだもの)ということもあったけれど、他には何事もなく楽しい旅になった。

セイバート領では秋が終わり、長い冬が始まろうとしていた。

今年は残念ながら温泉を探す余裕はなかったのだが、わたしは街の外れにある湖をスケートリンクにして町おこしの第一歩を始めた。

雪が積もる冬の間はどうしても仕事が減ってしまうので、ウィンターリゾート化して外部からお金を落としてもらえるようにしたいのだ。手仕事で作り上げた作品をお土産として販売すれば、さらに収入が見込める。

わたしは湖の表面を数センチお湯にして溶かし、さらに凍らせた。こうすることによって、表面が滑らかな良いスケートリンクになるのだ。

広い湖を溶かしたり凍らせたりすると大量の魔力が必要になりそうだが、小さな分子の動きを激しくしたり止めたりしているとイメージすれば、さほど魔力はかからない。一度整備してしまえば、わたし以外の水魔法の使い手数名で表面に新たな水を張り、夜の間に凍らせれば、わたしが不在でもメンテナンスはばっちりだ。

湖に穴を開けて手すりを作ったり、休憩所や救護室も作ったりした。今はお茶とお菓子だけの簡単なカフェしかないけれど、そのうち食堂も作って雇用を増やしていきたい。

スケート靴作りも新たな産業となる。将来は貴族を呼び込みたいし、そうなると貸し靴ではなく買取となる。お貴族様は他人の足が突っ込まれた靴など履かないのだ。オリジナルのマークを入れたり、リボンの色にバリエーションを付けたりしておしゃれな付加価値をつけて、高く売りたいものである。

滑りたいけれどはしたない格好はしたくない女性のために、膝丈のワンピースとぴったりしたズボンを組み合わせて、動きやすいけれどエレガントなスケート着もデザインした。長いドレスを着て滑るのは危険だからだ。わたしが率先して着ているので割と抵抗なく受け入れられている。

セイバート領の住民はもちろん、スケート場の使用料は格安で、スケート靴は希望する者に辺境伯家が無料で提供している。冬の間、家にこもってばかりだと運動不足になったりお酒を飲んでしまったりして、健康に良くない。ウィンタースポーツで体力が向上し、病人を減らす効果があるはずなので、わたしがダリル様にお願いしたのだ。

この世界の人は皆、運動神経がいい。体力もあるし、反射神経や平衡感覚、バランス感覚も優れている。そのため、大人も子どももちょっと練習しただけですぐにスケートができるようになり、みんな夢中で滑っている。

わたしももちろん、少し筋トレしただけでジェレミーを何時間でも抱っこできるほどに腕力がつく身体なので、スケートも楽々こなして、ジャンプも飛べるようになった。ダブルを飛んで見せたら、子どもたちが唖然として、それからこぞってジャンプの練習を始めたので、今度はスピンの練習をしてクルクル回って見せたら……うん、以下同文よ。セイバート領ではフィギュアスケートが今一番熱いわね。

「この、スケートというのはとても楽しいスポーツだな」

マキアード侯爵が、見事な滑りで湖を何周もしてからカフェのテーブルにやって来た。ここをリゾート化するために、侯爵家で出資をしてくださるのだ。

ヘレン夫人はジェレミーと手を繋いで滑っている。騎士としてエスコートしているらしい。可愛いジェレミーに会えて、ヘレン様はここにやって来てからずっとご機嫌だ。どうやらここに冬用の別荘を建てようかと考えているらしい。

普段からダンスに乗馬にと励んでいるヘレン夫人も、問題なくスケートを楽しんでいて、シルク製の高級なスケート着がとても着やすいと喜んでいる。乗馬服で滑ってもいいのだけれど、スカートをひらひらさせながら滑る方が可愛いのだ。

戻って来たヘレン様は「これはとても優雅で楽しいスポーツだから、貴族の婦人たちの間で人気になりそうだわ。この地が社交の場になることを覚悟した方が良くてよ」と含みのある笑顔で言った。

「シャロン・セイバート夫人は今や時の人ですからね。以前の悪い評判はすっかり消え去って、ずっと王妃の被害にあっていたことを同情されているし、夫婦で恐ろしい大蛇の魔物を倒してこの国を守ったということで、素晴らしい魔法の使い手としても尊敬されていますわ」

「もう社交の場からは身を引いたつもりなのですけれど……」

「それは不可能だわ。数年のうちに、冬になったらセイバート領でスケートをするのが淑女の最新流行になること請け合いですわよ」

「それなら、しっかりと受け皿を整えなければなりませんわね」

これから忙しくなりそうだ。

「おかしゃま」

温かい飲み物を飲んで休憩したジェレミーがわたしの手を握って「おてほんに、くるってとんでくださる? ぼくもおかしゃまのようなすてきなじゃんぷが、できるようになりたいのです」とおねだりをしたので「ええ、もちろんよ。お母様に任せなさい。ジェレミーを素晴らしいジャンパーに育ててあげますわ!」と自信満々で引き受けた。小さなうちからジャンプの練習をして、この領地からは一流のスケーターがたくさん誕生しそうね。そうだわ、スケートショーをするのもいいかもしれないわ。大人気になりそう……。

「おかしゃま、おねがいします」

おっと、まずは天才スケータージェレミーの特訓ね!

しばらく滑っていると、魔物狩りから戻って来たダリル様がやってきた。

「おとしゃまー、みてー」

ジェレミーが素晴らしいフットワークを見せて勢いよく滑り、ダブルのジャンプを飛んで見せた!

もう、うちの子天才!

「ジェレミー、すごいな!」

ダリル様に褒められて、天使ちゃんはとても嬉しそうだ。

わたしたちはテーブル席に戻った。

「ヘレン夫人、マキアード侯爵、楽しんでいただけていますか?」

今日もかっこいいわたしの夫が、ご夫妻に尋ねた。

「もちろんですわ、セイバート辺境伯。気持ちが若がえってとても楽しく過ごさせていただいています。この領地はとても素敵な場所ですわね」

「気持ちのいい空気に素晴らしい自然。そして、食事も酒もとびきり美味いという、天国のようなところですな。確かに王都から遠いが、これからは間違いなく人気の旅行先になるでしょう」

「新鮮な肉も手に入りましたから、今夜もご馳走ですよ」

狩りの成果が即、食卓に反映されるのよね。

「シルバーワイバーンはとても味が良いのです。傷みやすいので王都には干し肉しか送れませんが、ステーキやシチューの美味しさは格別ですから、ぜひ堪能してください」

「シルバーワイバーンですって! 幻の高級食材ですわよね?」

「おお、今夜も酒が進みそうで恐ろしい!」

たくさん運動して、美味しいものを食べて、飲んで、ぐっすりと寝る。

そんな生活をしているものだから、マキアードご夫妻はここに来て、気持ちだけでなく身体も若がえっていた。

食糧も薪もたっぷり用意したし、こんな感じで長い冬も楽しく過ごすことができて、やがて春の訪れの予感がした。

マキアード侯爵ご夫妻はこの地が気に入ったようで、かなり長く滞在してくださったが、いったん王都に戻って行った。いったん、というのは、春に行われるわたしたちの結婚式に出席してくださるからである。ご夫妻は結婚の誓いの証人になってくれるのだ。

冬の間に、結婚式の衣装が町の仕立て屋で作られた。わたしのドレスと、ダリル様の礼服と、可愛いジェレミーのよそいきの服だ。それぞれの服にわたしは刺繍で参加した。

花嫁のベールは手芸が得意な領地の人々がお喋りをしながら楽しく作ってくれた。ちなみに、わたしも混ざってお喋りをしたので「今度の領主夫人は、めっちゃくちゃお綺麗なのに気さくで楽しい方だよ」という評判だ。

まあ、毎日スケートリンクでびゅんびゅんかっ飛ばしていますからね、ふふふ。

町の子どもたちとの仲も上々です。

レースで編まれたモチーフをつないだ優美なベールには、パステルカラーの小花が刺繍されていて、上品で華やかで可愛くて、とにかく素晴らしい仕上がりである。

結婚式は領地のお祭りになるから、領民たちもその日を心待ちにしてくれている。前世では独身だったから、わたしにとってこれが初めての結婚式だ。たくさんの人に祝福されるので、とても嬉しい。

王都から戻ってから、なんとなく一緒のベッドで川の字になって寝ている。ジェレミーを寝かしつけて、わたしたちは寝室にあるソファーに腰かけて、 寝る前のお酒(ナイトキャップ) をいただいた。ハーブと蜂蜜とオレンジピールが入った香りの良いお酒をお湯で割ったもので、とても身体が温まる。

「シャロン」

「なんですか?」

今日も一日中楽しかったわ。ジェレミーが可愛くて癒されるし、毎日新しい成長を見せてくれる。

そんなことを考えていると、ダリル様は「シャロンは本当にジェレミーが大好きだな」とおかしそうに言った。

「その、だな。結婚式の誓いの口づけは、唇にしていい、のか?」

「あら」

わたしは頬が熱くなるのを感じた。

そういえば、ダリル様とは最初は形式だけの結婚だったのよね。

わたしは真剣な表情で返事を待つ待てをする犬……ではなくて、今夜もとてもかっこいい夫を見つめてから、答えた。

「はい。ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」

「……それは、本当の夫婦になってくれるということ、でいいのだろうか」

「はい」

わたしが頷くと、ダリル様はわたしを抱きしめて「ありがとう、シャロン! 愛している! 一生大切にする!」と、ちゃんと声をひそめて言った。すやすや寝ている息子への気遣いを忘れない、優しい夫なのだ。

「その、だな。ジェレミーに弟か妹ができると、もっと楽しくなると思うのだが……」

「そうですね。天使が増えたら、きっととても楽しいと思います」

そして、ジェレミーお兄ちゃんが爆誕!

きゃー、可愛い!

きっと「ぼくはおにしゃまなのよ」って得意げに言って、鼻をむふんと鳴らすに違いないわ!

「またジェレミーのことを考えている。シャロンはジェレミーが大好きなのだな」

ダリル様に、鼻をつつかれた。

「もちろんよ。わたしはジェレミーの母親になるために、はるばる王都からやってきたのよ。可愛い息子の母になれてとても幸せだわ」

「来てくれたのがあなたで本当によかった。シャロンはわたしの宝物だ。世界一の家族になろう」

「ええ、今も世界一だと思うけれど、もっともっと素敵な家族になりましょうね!」

「……キスしてもいいか?」

「結婚式まではほっぺたよ」

「だと思ったよ!」

わたしは黒い髪に夏の空のような青い瞳をした素敵な夫に、ちゅっと音を立ててキスをした。

「おやすみなさい、あなた」

「……わたしの理性と忍耐力を褒めてくれ、我が愛しき妻よ」

ダリル様はもう一度「シャロン、愛している」と言って、笑った。

FIN.