軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

98 デモンストレーション

交渉して、位置を変えて貰った。

標的を中庭の端、後方が築山のようになっていて外れ弾や貫通弾、跳弾等による思わぬ事故の心配がなく、射撃位置から充分な距離が取れる場所。

目標との距離は、約50ヤード。小銃射撃としてはこれでも近過ぎるけれど、まぁ、固いことは言うまい。

そして射撃位置には、木製の台が置いてあった。依託射撃に使うのである。

私は身体も小さいし、それに応じて掌も小さい。おまけに体力がなくて、筋力もない。更に、今回使うのはアメリカ製の旧式銃なので、私には大き過ぎて、重過ぎるのだ。

いや、決してこの銃が悪いわけじゃない。そりゃ、現在の視点で見れば色々と欠点があるけれど、制式採用された時点においては、充分優れた名銃だったのだ。ただ、私の体格に合わないだけで。

そういうわけで、普通に腕だけで保持するのは私には少々キツく、命中精度が落ちそうなので、命中率を上げる方法として「依託射撃」を選んだわけである。

いや、別に大層なことをするわけじゃない。手持ちで重さにぶるぶると震えながら狙いをつけるのではなく、銃を何かに載せたり寄りかからせたりするだけである。そうすると、すごく楽で、よく当たるのである。……当たり前のことなんだけど。

そして、皆の注目を集める中、背中から降ろしたガンケースから銃を取り出した。

M1ガーランド。

そう、第二次世界大戦で活躍した、アメリカが誇る 半自動小銃(セミオートライフル) の走りである。

M1ガーランドは、幾つかの特徴を持っている。利点も、そして欠点も。

最大の利点は、当時としては完成度の高い半自動であったこと。最大の欠点は、弾薬装填が 挿弾子(クリップ) によるため中途補弾が難しく、残弾数が少なくなった時に、残った弾を無駄撃ちして撃ち尽くさないと弾の詰め替えができないことである。

まぁ、それくらいの欠点は、いくらでも弾が運ばれてくる米軍においては大した問題ではなかったのだろう。

そして私が今回のデモンストレーションにこの銃を選んだのは、材質が木と鉄であること、どっしりとしていて貫禄があり美しいこと、信頼性が高いこと、そして弾を1発ずつ装填して射撃する「後装式単発銃」のような使い方ができるからである。

今、セミオートやフルオートの銃でデモンストレーションをしてどうする、という話である。

王女殿下や伯爵様達、観客の皆さんは私の右側3メートルくらいの場所に、そしてサビーネちゃんとコレットちゃんは、私の斜め後方、1メートルくらいの位置に陣取っている。

木製の台に銃身を載せ、ボルト部分に右手の手刀部分をかけて、思い切り引く。ボルトとは言っても、ボルトアクション方式の三八式歩兵銃のように毎回ボルト操作をして排莢、装弾するわけではないので、小さな突起があるだけであり、非力な私では結構力が 要(い) るし、あまり何度も引くと掌のボルトにかける部分が赤くなって痛い。

空砲とかを使うと、ガス圧が足りなくて自動排莢・装弾ができず、毎回手で引くことになって死ねる。砂でも噛んだら、私の力じゃもう無理だ。まぁ、実弾を撃つ分には、その心配はないけれど。

その小さな突起を引くと、遊底部分が後退して薬室が開いた状態でロックされる。普通ならばそこに8発の7.62mmNATO弾がセットされた 挿弾子(クリップ) を上から押し込むのであるが、今回は変則的なやり方として、ポケットから取り出した1発の弾を手で薬室に差し込み、マガジンフォロワーを親指で押し込んだままボルトをわずかに引くとロックが外れるので、親指を挟んで潰されないように気を付けて、遊底を閉じる。これで、後装式単発銃としての弾薬装填が完了である。

そして、すぐ撃つのではあるが、隊長さんに教育された通り、いったん安全装置を掛けておく。

足場を決めて射撃位置につき、姿勢を決めて、狙いをつける。ここで、安全装置解除。

既に 照門(リア・サイト) の調整は傭兵団のベースで実施済みである。

左右転輪をゼロ位置に合わせ、上下転輪はいったん一番下まで下げた後に12クリック上へ上げ、そこから3点規正による修正済み。今回は銃身が冷えた状態での本射開始となるので弾道が少しズレるけれど、精密狙撃じゃあるまいし、たかだか50ヤードのデモンストレーション、鎧に当たればいいだけだから、問題なし!

ゆっくりと息を吸って、吐いて、吸って、吐いて……。

吐いた息を、吸う動作に変えた直後に息を止める。決して吐ききった状態ではなく、たくさん吸った状態でもなく。

そうっと 引き金(トリガー) に掛けた指に力を入れて、引き金を引くという事は意識せず、そうっと、そうっと、いつ発射されるのか自分でも分からないように、そうっと、 暗夜(あんや) に 霜(しも) の 降(ふ) る如く……

ぱぁん!

銃身が反動で跳ね上がるが、その影響を受ける前に、既に銃口から飛び出している7.62mmの細身の弾丸。

ドキュウウウウウゥン……、とかいうのは、屋内射撃場で反響した時だけだ。屋外ならば、軽い破裂音に過ぎない。音は大きいけれど。

次弾が無いため遊底は後退したままロックされており、薬室は開いたまま。そこにポケットから出した2発目の弾を差し込み、先程と同じようにして装弾操作を行い、今度はあまり慎重に狙いをつけることなく発射。

初弾は絶対に急所部分に命中させることを優先し、次弾は次発操作にそれ程時間がかからないことを示すために「どこでもいいから、鎧の一部に当たれば良し」というつもりで撃ったのである。

これくらいの距離になるだろうと見込んで、3点規正はちゃんと50ヤードで行ったから、多分これでも当たるだろう。何せ、練習は200ヤードで行い、黒点命中はともかく、一応8発中5~6発は的に当たるようになったのだから。

2発目を撃った後に右側を見ると、観客の皆さんは大きな銃声に驚いたのか、皆、口を開けて眼を見開いていた。

いや、今はただ音に驚いただけで、銃の威力に驚いているわけじゃない。これからだ、これから!

「では、皆さん、的の確認に参りましょう!」

そして、みんなでぞろぞろと的の鎧人形の方へ。

「「「「「え…………」」」」」

よし、1発は心臓のあたり、もう一発は盲腸のあたりに命中!

いや、どっちも身体の真ん中、おへその10センチくらい上を狙ったから、普通の的なら黒点は外してる。でも、そんなことを知らない観客の皆さんは、多分私が心臓を狙ったと思っているだろう。ふはは!

「鎧を貫通、だと……」

あ、驚くの、そっち?

まぁ、鎧の正面側を撃ち抜いて、裏側も貫通して後ろに抜けてるから、そりゃ驚くか。これじゃ、盾も鎧も意味がない。しかも、撃ったのは、どう見ても子供にしか見えない、この私だ。

ということは、訓練も何もしていない女子供や老人、病人や怪我人でさえ、何年も厳しい訓練に耐えてきた屈強な兵士に勝てるというわけだ。いとも簡単に、離れた場所から一方的に。

それを目の前で見せつけられて、驚かない軍人や政府高官はいないだろう。

「と、まぁ、こういう武器なわけです、『銃』というものは。そして『大砲』というのは、これの20倍くらい大きい弾で……、あ、重さは20かける20かける20で、8000倍になるわけですけど、それをこれと同じ原理で何マイルも遠くから飛ばしてくる兵器です」

愕然。

ダリスソン王国の人々の様子を表すのに、それ以外の言葉があるはずもない。

そもそも、こういう世界の軍隊というものは、戦闘員は全体の半分くらいなのである。あとの半分は、必要物資を運ぶための 輜重輸卒(しちょうゆそつ) であったり、その他の支援員であったり……。俗に言う、兵站要員、というやつである。

そして更に、その軍隊を戦場に送り出すために、その何倍の民間人達が研究、製造、輸送、その他様々な分野で働き、支えていることか。1万の軍隊を支えるためには、その何倍もの国民が必要なのである。

まだ、剣と槍、弓矢の世界であればともかく、これが近代戦とかになると、その比率は更に大きくなる。

そうした大勢の国民の労働と血税に支えられ、何年もかけて鍛え上げ養成した兵士達が敵と対峙した時、敵の手にこの武器が握られていたとしたら。

そして、相手側は兵士だけでなく女子供から老人まで全てを含んだ国民全員であり、それらの者達全員の手にこの武器が握り締められていたら。

実際にはありえない光景であるが、今、よりによって小娘オブ小娘、世界非力選手権に出ればいいトコ行けそうな私の手で示されたこの現実を見た者達の脳裏には、その信じがたい悪夢が総天然色で流れているに違いない。

せめてこれが、屈強な兵士の手で成されたものであればまだしも……。

そして更に、もっと強力な武器があると言うのだから、何をか言わんや……。

「こういう武器を持っている侵略者に対抗するために、こちらも共同で敵を上回る性能の武器を開発して、みんなで協力しあって身を護ろう、というのが、今回の条約の趣旨だそうです。

正式な条約調印はまた後日で、今回はその予備会議、というわけでして……。

なお、条約に参加されない場合は、自力で侵略者から身を護って下さい、ということです」

「そ、そんな……」

王女殿下が、苦しそうな、そして少し呆れたような声を絞り出した。

そりゃそうだ。条約に加盟しないなら滅びろ、と言っているのも同然なんだから。

もし侵略者が来なかったとしても、この新型武器を持った条約加盟国に囲まれて、剣と槍と弓矢を主力武器とする軍を抱えてどうなると言うのか。

これはもはや、提案だとか打診だとかいう話ではない。恐喝同然であった。王女殿下の声が震えているのも無理はない。

しかし、こういう時代における外交とは、そういうものである。砲艦外交、恐喝外交、何でもござれ。それは、地球の歴史においても、何度も行われたことである。