軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

93 合流

宿に着いた2日後の昼前、サビーネちゃんとコレットちゃんを連れて、宿の部屋から連続転移でヤマノ領へ。

たまには戻らないと、皆が心配する。

うん、領地の様子が心配なんじゃなくて、領地のみんなが私を心配する、ってことだ。

領地の運営は、領主が数日間不在にした程度でどうこうなるようなもんじゃない。領地がそんな不安定な状態だと、転移ができる私はともかく、普通の貴族は王都へ行くことすらできなくなってしまう。領主が不在の間は、ちゃんと他の者達がうまく回してくれている、……はずだ。

転移は私の個室へ。でないと、人前にいきなり出現したら驚かせてしまうからね。そしてサビーネちゃんとコレットちゃんを連れて部屋から出ると……。

「ミツハ様!」

数十年の年季奉公、という名の人身売買まがいで売られそうになっていた少女、10歳のノエルちゃんに見つかった。いや、別に「見つかった」ってわけじゃないか。

年齢が近いためか、コレットちゃんと仲良しのノエルちゃんは、コレットちゃんに向かって微笑むと、皆に私の帰還を知らせるために、慌てて走り去った。

ノエルちゃんの自然な微笑みが見られるとは……。明るくなったなぁ、ノエルちゃん……。

そして、集まった皆からの報告を聞き、特に問題はないということなので、すぐに自室へと戻った。

うん、今回の領地邸への帰還の主目的は、これだ。

「ホワイトホーム、ホワイトホーム、こちらホワイトルーク、どうぞ」

『こちらホワイトホームリーダーだ、聞こえるか?』

そう、本隊の到着予定日前日なので、確認のための連絡をする約束があったのだ。

いちいちクルマを取りに行って郊外に転移して連絡、というのが面倒だったから、領地の無線機で連絡することにしたのである。周波数的にも、中途半端な距離だとUHFやVHFでは遠過ぎ、HFでは不感地帯にハマる可能性がある。なので、ここからHFで連絡する方が確実だと思ったのである。

アンテナも、ここの方が性能がいい。充分なスペースがあるため、延長コイルとかを使わず、フルサイズのアンテナを設置しているからね。

「はい、感度良好、よく聞こえます。

予定はどうなっていますか?」

『ああ、予定通り進んでいる。子爵が言っていた、えすおおええ、とかいうやつ、あれでいうと、やや進み、というところだ。到着予定は変わらず、明日の昼過ぎの予定だ。

先触れに出した使いに、王宮近くの宿を取らせておるので、そこで合流しよう』

「分かりました。では、明日」

『うむ』

あ、SOAというのは、スピード・オブ・アドバンスのことで、進出距離を予定所要時間で分割し、それが現在どのような状況か、というのを表す言葉だ。SOA1時間の進み、とか、5分の遅れ、とか言って、余裕のあるなしで進行具合を把握するための言葉である。

無線での呼び出しに出た伯爵様御本人との打ち合わせを終え、あとは、しばらくの間、コレットちゃんとノエルちゃん、漁村出身のニネットちゃん12歳、そしてメイド見習いのリアちゃん4歳……、いや、もう5歳になったんだっけ、それら『ヤマノ子爵家メイド隊、少女組』プラス、サビーネちゃんの、5人の交流会、というか、お遊びの時間。まぁ、『メイド隊』といっても、コレットちゃんはメイドじゃないんだけど、細かいことはどうでもいい。

そしてみんなには、サビーネちゃんは王女様ではなく、私の王都での家臣候補、つまりコレットちゃんと同じような立場の者だと説明してある。サビーネちゃん本人が、それを望んだので。

まぁ、腫れ物を触るような扱いをされるのではなく、普通に、対等の友人として相手をして貰える機会なんて、サビーネちゃんにとってはほとんどないだろうからね。

さすがに、サビーネちゃんがメイドの振りをするのは無理があったし、家臣候補のコレットちゃんが普通に仲間扱いされているから、それでいいやと思ったんだけど、予想通り、うまく溶け込んでいるようだ。さすが、サビーネちゃん。

「そろそろいいかな?」

「え……」

ぼちぼち宿に戻ろうかと思い、ふたりに声をかけたところ、サビーネちゃんが表情を曇らせた。

ああ、そんなに楽しかったか、普通の女の子として、普通の女の子達と一緒に遊ぶのは……。

「大丈夫、また、いつでも来れるからね」

「うん……」

サビーネちゃんは、聞き分けのいい子だ。ゴネる時はゴネるけど、時と場所を弁えている。そして今は、駄々をこねるべき時ではない、と判断したようだ。ま、年下の子供達の前でみっともない姿を見せたくなかったのかも知れないけどね。

そして連続転移で宿に戻り、翌日を待った。

……王都での3日間?

いや、隣国程度では、あまり変わらないよ。普通に観光して、屋台料理を食べて、と、3人で色々と楽しんだけど、取り立てて記すようなことはなし。

いくら何でも、そう毎回毎回人攫いに攫われたり、孤児に巾着袋をすられたり、貴族の馬鹿息子に絡まれたりはしないよ。特に、10歳前後の少女3人組、と思われている私達だと。

これで、あと6年もすれば、サビーネちゃん16歳、コレットちゃん15歳、私が12歳に見える24歳になって、………………。

うがああああぁ~~!

そして翌日の昼過ぎ。

宿ではなく他の料理屋で昼食を済ませ、大通りをぶらつく私達3人組。

いや、本隊の到着を確認しないと、後になって宿屋を捜し回るのは面倒だし、子供が他国の使節の居場所を嗅ぎ回るのは少し怪しい。本隊が泊まっていても、正直に教えて貰えないかも知れない。お金の無心や雇用のお願いとかで客の元に押し掛けられれば、宿の管理責任を問われるかも知れないのだから、宿側としては当然の対処だ。

なので、到着の様子を確認するのだ。

そしてしばらくすると、1軒の高級な宿屋の前に、数人の従業員達が出てきた。

大事な客は、従業員達が宿の前で出迎える。他国からの使節一行となれば、当然である。

「あれ、あそこは……」

そして、王宮への連絡と宿の予約を済ませて本隊に戻った先触れ役に案内されて、使節団が到着した。

伯爵様達を乗せた馬車が宿の入り口正面に止まり、その前後には騎馬の護衛。そして前後の馬車から護衛が飛び出し、伯爵様の馬車の乗降口付近を固める。

それらの配備が終わったのを確認したあと、御者の合図により馬車の扉が開かれ、まずメイドふたりが降りて安全を確認、次に伯爵様と、副官である侯爵家御子息のクラルジュ様が降りて来た。

それを見計らって、馬車に近付く私達。

「追い払え!」

近付く私達を見て、中年の従業員が若手従業員に鋭い声でそう指示した。そして、急いで私達に向かう若手従業員。

このままだと、追い払われてしまう。いや、それは別に構わないんだけど、サビーネちゃんとコレットちゃんに危害を加えられては堪らない。それがたとえ、軽く肩を突かれるだけであろうとも。

「伯爵様、お待ちしておりました!」

私が伯爵様に声を掛けたため、慌てて私達の前に立ち塞がる若手従業員。そして、急いで剣を抜き、その従業員と私達との間に割り込む護衛達。

そりゃそうだ。自国の王女殿下と子爵閣下に平民が危害を加えそうな体勢なのを見過ごす護衛がいるはずがない。

「え……」

使節達を守る体勢ではなく、私達を守る体勢になった護衛達、それも、抜剣しての殺気を漂わせたただならぬ雰囲気に、立ち止まって硬直する若手従業員と、言葉を詰まらせた中年従業員。そう、先日私達を追い払った、あのフロントマンである。

「動くな! それ以上、一歩でも近付いたなら、容赦なく斬り捨てる!」

伯爵様が、重い口調でそう宣言され、宿の者達は全員が凍り付いた。

「 如何(いか) に他国の者達であろうとも、我が国の王族と貴族家当主に対する無礼や危害を加える可能性を看過することはできぬ。使節団に対するそれらの行動があったとなれば、無礼討ち、いや、討伐しても、何ら問題はないであろうしな」

「おう……ぞく……?」

呆然とした様子の中年従業員。他の従業員達に指示を出しているところを見ると、それなりの立場を任されているのであろう。

「殿下、ヤマノ子爵、お二方はここに泊まっておられるのではないのか?」

「はい、最初はここにしようとしたんですけど、その人に追い払われたもので、他の宿に……。

伯爵様方は、こちらに?」

私の言葉に、伯爵様は従業員の方をじろりと見た後、淡々とお答えになった。

「いや。別の宿だが?」

そうですよね~。