軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

69 戦争景気 3

一ヶ月後。

浮き桟橋はとっくに完成し、今は3隻の拿捕船は桟橋に接舷している。

そして、頻繁に出入りしている技術者達。

その中には、王都のお店の改修をお願いした、木工加工屋のクンツさんの姿もあった。

考えたら、来ないわけがないよねぇ。

新しい技術の吸収に貪欲なクンツさんが、異国の優れた技術、しかも私の領地で。

そりゃ、来るわ……。

港には仮設の宿泊所があり、有料で食事も出来る。調理はうちの領民がやっているけど、食材はボーゼス伯爵領からも運ばれて来るので、それを格安で引き取っている。伯爵様はこの後大儲けする予定なんだから、それくらいはサービスさせるよ。

元捕虜だった者の一部も、ボーゼス領からやって来て、説明役を買って出てくれている。私がいない時は言葉があまり通じないけれど、指差したり身振りで示したりすることと、彼らが真剣に言葉を学びつつあるため、ある程度の意思疎通は出来ているらしい。

逆に、こちらの技術者の一部も、いくつかの単語を覚えて向こうの言葉で呼びかけたりしている。

うん、技術者に国境は無いか……。

各船にふたりずつ、計6名乗っていた船大工は、ひとりがこの国に来る前に病気で、もうひとりが船が消えた時に船底近くにいたために死亡し、残る4名全員が我が国への亡命と帰化を希望してくれた。

他にも、軍人を主とした一部の者を除き、帰国の目処が立たない捕虜生活よりも、一般人として働き、かなり良い給金を貰い普通の生活をする方を選ぶ者が多かった。

もしかすると、『そんな船は来なかった』ということにされるのでは、という心配もあったかも。その場合、帰国できる可能性はゼロだからね。

私が健在ならば、戦争をふっかけてきた向こうの非を突くために証拠付きで事実を突きつけるけど、もしその時点で私が存在していなかった場合には、無かったことにされる可能性はあるんだよね、確かに。

それなら、帰化してこの国に溶け込んでおいた方がずっとマシだよね。

軍人さんには、そうと察してはいても、譲れないものがあるのだろう。そういう気持ちも、分からなくはない。

私が簡単な辞書を作ってあげて、みんな、この国の言葉を覚えるのに懸命だ。どうやら、母国よりもこの国での方が幸せに生活できそうだと思っているようだ。

家族や恋人を残してきた者は辛いかも知れないけれど、あの時にこちらが温情をかけなければ全員死んでいたということがよく分かっており、我が国に対する感情はそう悪くはないようだった。

自分達がいきなり押し掛けて一方的に砲撃を加えた、ということは、みんなちゃんと分かっているしね。

実際に船の操作をする者が味方についてくれれば大助かり。航法や戦術については本で色々と調べられるけど、実際の帆や索の操作なんか、本を読んだだけでは出来るわけがないからね。

士官も、一部の者は協力を申し出てくれたし。

まぁ、我が国が『女神様の護り』を除けばまともな船も砲も持たない国だと知って、逆侵攻はあり得ない、防衛も『女神様の護り』頼りで、艦隊戦などを行えば、恐らく母国に一蹴されるであろうと思ったためだろうけど。

『女神様の護り』

うん、今回はそういう設定だ。

女神様の許可なくこの大陸に害を成そうとする者が受ける、女神様の神罰。

女神様が罰として乗員を排除して船を取り上げ、我が国に下賜された。

もし船を奪って逃げようとしても、大陸からある程度離れたら船はまた自動的に戻される。勿論、乗っている者はその場に残して。

それを聞いて、船を奪い返して逃げようと思う者がどれだけいるだろうか。

陸地も見えない洋上に取り残される恐怖を知らない船乗りはいない。

それに、充分な水と食料、定員を満たした乗員数をもって初めて可能となる超長距離の無寄港航海。ろくな準備もされていない船を僅かな賛同者だけで奪ったとしても、無事母国に帰り着けるわけがない。

この国から逃げるにしても、協力を申し出た者にとっては別に待遇がそう悪いわけではなく、それどころか、母国にいるよりずっと良い。

充分な給金、師匠扱いで、教えを乞う眼を輝かせた若者達。

ただの下っ端水夫と馬鹿にされていた者達が。

これで、自分達を奴隷のように扱う士官達の言うことを聞いて一緒に脱出?

いったい誰がついていくと言うのだろうか。自由に、幸せになれる場所を捨てて、わざわざ奴隷になりに行く者がどこにいる?

近隣国に逃げても、多分ここにいるより状況はずっと悪化するだけだ。

つまり、下級水夫と強制徴募者と恩赦狙いの犯罪者達は使える。

そういう事だ。

勿論、部屋には録音機が仕掛けてあるし、スパイ役は自分だけだと思っている内通者を数名ずつ仕込んである。

協力してくれている士官は、特に厳重にマークしてある。

まぁ、言葉を覚えて可愛い彼女でもできたら、本当に心の底から帰化するつもりになってくれるんじゃないかな。

だって、結構好条件なんだよ、彼らは。

操船技術の教師として結構高給取りだし、船を降りたいなら止めないから彼女の実家の農業なり漁業なり林業なりを手伝えばいい。屈強な船乗りなのだから、良い入り婿になるだろう。

だからかどうかは知らないけれど、みんな言葉を覚えようと積極的で、自由時間にはそのあたりにいる女性に話しかけて言葉の練習……って、本当にそれだけが目的か?

おい、そこの奴! その子はまだ10歳だ!

ボーゼス伯爵領では、軍港の建設工事が進んでいた。併行して、造船所の建設も。

また、船乗りを養成すべく、訓練施設が作られている。

近隣諸領だけでなく、遠方の領、そして王都からも、領主の許可を得て、あるいは違法に脱領して、多くの者がボーゼス伯爵領を目指した。

工事の人夫として。集まる人々を相手に商売でひと儲けを企んで。

そして、船乗り、海軍軍人を志して。

国の全面的支援を受け、流れ込む人と資金。

それを目当てに更に流れ込む人と資金。

食料が。日用品が。贅沢品が。酒が。女が。

ボーゼス領は急激に膨れ上がり、治安が悪化した。

伯爵様は胃が痛む日々を送っているそうな……。

それに対し、ヤマノ領は順調だ。

漁船と網のおかげで漁獲高は激増、領境までの道が整備されたお陰で近隣の領地まで生魚を届けることが容易になり、各種加工製品は王都まで運ばれる。

水アメは思ったより好評で、王都へも送っている。結構日保ちするんだよね、水アメって。

爆裂種のコーンもようやく収穫。乾燥させて、王都に送らねば。

これで、日本から運ぶ必要は無くなり、この世界での自給体制が整った。ひと安心。

私がいないと存続できない事業に生計を委ねている人がいるって、心臓に悪いからねぇ。

遊戯盤の製造はマイペースとし、無理な生産や、他の仕事を放置しての生産は禁止。

干しシイタケも完成し、試食の結果も良好。今度の『正式な』王都行きに合わせて出荷予定。

そして、遂に、紙の試作に成功!

まだ書き心地に少し難があるけど、それは徐々に向上させて行けばいい。

まだしばらくは試作を続けるけれど、ゴールが見えたも同然だ。

……但し、雷コーンの容器にするには、まだ採算性が悪い。それに、袋にするためには接着剤がいるよね。何かいいものはないかなぁ。

澱粉糊かなぁ、やっぱり……。

ランディさんに、『クロスボウはもういいや。銃の製造の研究をお願い』と言った時には、製造中のクロスボウの部品を握り締めたまま崩れ落ちていたけど、今は鹵獲した銃の研究に余念がない。

ただ、再現にはどうしても強度に不安があるとか。鉄の組成の問題かな。

滑腔銃でそれじゃあ、ライフル銃であるミニエー銃は難しい。より銃身内の圧力や加圧時間が長く、銃身の負担や摩耗、劣化等が激しいのだから。

まぁ、まだ時間は年単位である。船や艦砲よりはハードルが低いだろう。旋条を刻む技術は難しいかも知れないけれど、地球のミニエー銃ほどの画期的な性能にならなくてもいい。最悪、弾だけミニエー弾にするとか、火薬の量を減らして銃身の負担を少なくするとか……。

同じ物を作ると技術力の差や国力の差が出るから、進んだ方式の採用によってその差を跳ね返すことさえ出来れば、そのうち徐々に技術力も上がってくるだろう。

あれやこれやで、何とか領民の収入も増加して、それに伴って税収も増加。あとは紙の本格生産と、農業改革の成果が収穫量として表れれば、一応の改革は完了かな。ボーゼス伯爵領への売り上げ増が期待できるし、帆船が稼働状態になって貿易の利益の3分の1が転がり込んで来れば……。

あ、その分は、領主としての収入か、私の個人収入か、どっちだ?

…領主としての防衛行動の結果だから、領地のもの、だろうなぁ……。

と、まぁ、海軍景気で光と闇が入り交じって大混乱のボーゼス伯爵領、未曾有の危機ながら緒戦の大勝利に楽観視してお祭り騒ぎの王都、お金と繁栄の臭いに浮き足立つ王都以北の中小貴族領、ミツハ頼りでは万一の時にと危機感を募らせる良識派貴族、他国との共同戦線をと外交のためにミツハを引っ張り出したい王宮の面々と、激動の時代を迎えた王国であった。

そんな中、届いた伯爵様からの伝言は……。

『次の社交シーズンは、とても王都に行く余裕はない。自分だけで行ってくれ』

って………。

よし、地球で注文した馬車も完成したことだし、御者の練習をして、自分で動かして行こう! いや、勿論、途中の大半を転移で飛ばしながらね。

王都での御者役は、と………。

「こらぁ! お前達、やってくれたなぁ!!」

そう言いつつ、首謀者と覚しき連中に拳固の嵐!

木彫りの人形はいいけど、髪の毛は無いだろう、髪の毛は!

気持ち悪いだろうが!!

フィリップ君は恐縮して縮こまっているけど、どうも首謀者らしくない。

そういえば、この子は私を崇拝しているから、不敬なことはしないよね。

ということは………。

ふと見ると、眼を逸らす10歳前後の女の子。

……あの、屋台の看板の図案を描いた、9歳の女の子だ。

お前かあぁ!!

梅干しの刑に処したあと、騙し討ち禁止、売り上げの2割徴収を言い渡して許してあげた。

末恐ろしい子だよ、全く……。

今度、ペッツさんに推挙しておいてやる!

こんな子、孤児院に野放しにしておいちゃいけないよね!

しかし、木彫りの人形、飛ぶように売れたって……。

値段、これかよ!

正気か、買ったやつら!!!

これなら、フィギュアや抱きまく……、考えるな、私いィ!

ぜぇぜぇ……。

「で、誰か、王都にいる時に私の馬車の御者をやる気、ない?」

掴み合いの大喧嘩が始まっちゃったよ……。