軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

499 ヤマノ領の開発 3

ビール造りのためのタンクや設備、中古でたくさん売ってる……。

あまりにも種類が多くて、何を買えばいいのか分からないよ……。

こりゃ、大きさや何が必要なのか、じっくり調べないと買い物の段階で大失敗しそうだな。

樽も売ってるなあ。金属製のも、木製のも……。

……オーク樽。

別に、豚面の魔物の皮で作られた樽というわけじゃない。

オーク材、つまり 楢(ナラ) や 樫(カシ) の木で作られた、木樽のことだ。

杉の木で作られた、日本酒醸造用の巨大な桶とかもある。

うむむ、どれから手を付ければいいのか、全く分からん……。

こりゃあ、マイクロブルワリー開設の相談に乗ってくれるという専門業者に依頼するしかないか?

でも、それには大きな問題があるんだよなぁ。

日本じゃあ、アルコール分1パーセント以上の飲料を製造、販売するには、法律に基づく各種許可や免許が必要なんだよね。

勿論、造るのは異世界だからそれは問題ないのだけど、各種許可や免許を取っていない私に、専門業者が設備の斡旋やら指導やらをしてくれるのか、ってことだ。

許可申請や免許取得も指導内容に含まれていて、それは外せない、とか言われると困るんだよなぁ……。

設備そのものは、地球で設置して建屋ごと転移すればいいのだけど、醸造設備の検査とかがあると困るんだよなぁ……。

うむむ、そういう方面で、結構面倒なことになる?

酒造計画は、まだ実行には移さずに、慎重に調査するか……。

あ、それとも、日本じゃなくて、他国で準備するか?

ギャラリーカフェ『Gold coin』がある国なら私は完全免税だから……、って、そうだよ! 日本人山野光波としてじゃなくて、異世界の貴族、ナノハとして他国で準備すればいいじゃん!!

私のことを『異世界の貴族、ナノハ』として認識している国なら、上層部や情報部の協力を仰げるし、許可や免許は関係なくブルワリーや蒸留所用の設備や機材を用意してもらえそうだ。

それなら、その国への代金は魔物の死体とかで済むかもしれないぞ。

日本酒に手を出さないなら、ビールやウイスキー、ブランデーとかは他国でいいよね。

うむ。うむうむ。

……これだ……。

マッハ・コレダー!!

「……もう! そろそろ妄想の世界から戻って、私の相手をしてよ!」

あ、サビーネちゃんがお冠だ。

いや、さすがにお酒造りに関してはサビーネちゃんに相談できないよね。

いくら天才であっても、地球のお酒の造り方は知らないだろうからね。

「じゃあ、お酒造り以外の、もっと簡単にできる領地増収の案をお願い!」

「うわぁ、姉様からの無茶振り、来たぁ!」

「ふはは、我がヤマノ家の家訓は、『立っている者は、クララでも使え!』なのだ。そこにサビーネちゃんが立っていれば、使うしかないだろう!」

「どんな家訓だよっ!!」

勿論、DVDやブルーレイで、サビーネちゃんは元ネタを知っている。

サビーネちゃんは、当然のことながらこの世界の文明について詳しく、あるものないもの、そしてできることできないことを熟知している。

……そして、サビーネちゃんは地球に何があるか、地球の科学力でどんなことができるかを、ある程度把握している。

つまり、私よりも『地球の知識で、この世界で稼ぐ方法』を思い付きやすいのだ。

オマケに、サビーネちゃんは天才だ。

これはもう、使うしかないよね!

「……人を、都合の良い女扱いして……。全く、もう……」

何だかぶつぶつ言いながらも、真剣に考え始めてくれた、サビーネちゃん。

うんうん、なんてったって、サビーネちゃんは私に甘いからねえ、ふはは……。

あ、じろりと睨まれた。

私が何を考えているか、お見通し、ってワケか。

……さすサビ!

そして、しばらく考えた後……。

「鏡なんか、どう?」

案をひとつ出してくれた。

でも……。

「鏡は、ここにもあるじゃん。金属を磨いたやつだけじゃなくて、ガラスのもあるよね?

それに、もう『雑貨屋ミツハ』で売ってるし……」

そう、まだ金属製のも出回っているし、貧乏人は水面に映したりもしているけれど、錫と水銀を用いたガラス鏡も作られているのだ。私が売っている地球製よりは映りが劣るけれど……。

「確かにガラス鏡もあるけれど、それはあまりお金に困っていない人しか持っていないし、それも手鏡くらいの大きさのものだよ。姉様がお店で売っているくらいの大きさのやつね。

私が今言っているのは、全身を映せる大きなやつのことだよ。

今のこの国の技術力じゃあ、にほんで売ってるような大きさのは画面全体を均一に綺麗に作れないし、透明度が劣るし、強度が足りないから加工中や輸送中に割れやすいし、色々あって難しいんだよ。

だから、王宮や裕福な貴族家には少し大きめのもあるけれど、にほんのよりは小さいし、鏡面が均一じゃないし、すごく 高価(たか) いよ。

あれなら……」

あ~、なる程……。

そういえば、以前イリス様に三面鏡ドレッサーを贈った時、すごく喜んでいたよなあ……。

確かに、高額で売れそうだ。

王女様であるサビーネちゃんが『すごく 高価(たか) い』って言うくらいだから、平民から見れば常軌を逸した価格なのだろうな、多分……。

だけど……。

「ごめん、それはパス。

確かに儲かりそうだけど、この国の鏡開発の最先端を行っている職人や工房の首を絞めて、鏡産業発達の邪魔をしそうだからね」

「あ……」

確かに、私が求めた『日本の技術を利用して、簡単に稼げる』という条件は完全にクリアしている。だから、サビーネちゃんの提案は悪くはなかった。

……ただ、それがこの国の既存の業者、それも新規技術開発の最先端にいる人達を潰してしまう、という危険を孕んでいるというだけのことだ。

日本製の小さな手鏡を少量、暴利で売るだけならいい。

でも、それ以上のものを大量に売るのは駄目だ。

日本製の大きな鏡を見て、職人がうまく技術をパクってくれればいい。

でも、見ただけで透明度や強度を再現できるかどうか分からないし、錫や水銀をうまく塗布できるのかどうか……。

そして、それより何歩も進んだ銀メッキ技術を会得するには、まだまだ数百年はかかりそうだ。

……だから、日本製の大きな姿見の持ち込みは、駄目だ。

ボーゼス家や王様に贈るくらいはいいけれど、大量販売は自粛しなきゃならない。

私の説明で、サビーネちゃんもそれに気付いたみたいで、がっくりとしている。

なので、私はサビーネちゃんに優しく言葉を掛けた。

「……次の案は?」

「鬼かっっ!!」

うむ、さすがのサビーネちゃんも、そうポンポンと無限にアイディアが湧き出すわけじゃなかったか……。

「石鹸を作る、というのはどう?

今、姉様のお店で売っているけれど、あれは貴族や裕福な平民向けでしょ?

この国の原材料を使って、この国の労働力で作れば、安く売れて普通の平民達でも買えるようにならないかな?」

「……え?」

確かに、地球から持ち込んでいる石鹸は『雑貨屋ミツハ価格』、つまり暴利……いやいや、 すごく高価(・・・・・) だ。ある程度以上の金持ちしか買わない。

リンスインシャンプーとボディシャンプーは女性にとっての必需品だから、利幅はかなり低く抑えて庶民にも手が届く価格設定にしてある。特別大サービスだ。

でも、普通の固形石鹸は、利益率高めに設定しているんだよねえ。だから……。

さびーねしっているか 石鹸は かねもちしかかわない

いや、知っているからこの提案をしたんじゃん!!

『新世界の神』ごっこは置いといて、と……。

一般層にも石鹸が広まれば、感染症の予防や拡散防止に役立つ。

地球でも、昔の平均寿命が短かったのは、別に老化が早かったというわけじゃない。

そりゃ、戦争で死ぬ者も多かったけど、大きな理由は乳幼児の死亡率の高さと、出産時や 産褥(さんじょく) 期の母親の死亡数、そして伝染病の 蔓延(まんえん) だ。

地球では、石鹸と言えるものは大昔から存在していたらしい。

でも、中世ヨーロッパでは感染症対策よりも、宗教的な儀式や、汚れを落とし『身を清める』という目的で使われていたらしい。

べつに、衛生概念が広まっていたわけじゃないらしいのだ。

衛生概念としての石鹸による手洗いが広まったのは、近代になってからだってさ。

だから、今、石鹸による衛生概念を広めれば、多くの命を救えるということだ。

地球から持ってきて『雑貨屋ミツハ』で売る僅かな量ではなく、この国で大量に生産し、国内だけでなく、他国にも売りまくる。庶民にも気軽に買える価格で。

……これだあああぁっっ!!

「姉様、口から漏れているのは割と崇高な言葉だけど、両目が金貨みたいになってるよ……」