軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

476 狼は狼を呼ぶ 9

あれから、第2回、第3回と、数回の説明会を行った。

既に、孤児院に入っていない王都の孤児達の殆どは、説明会に来ただろう。

最初は警戒して代表者しか参加しなかったグループも、2回目以降に残りの者達がやって来た。

……というか、既に来たことのある者達が、何度もやって来た。会場で配られるお菓子と、解散時に配布される持ち帰り用の食料目当てで……。

中には、貴族のお嬢様を至近距離でガン見するのが目的らしきマセガキもいた。

まあ、あんなに近くで大勢の貴族の美少女達をじっくりと眺められる機会なんて、あの子達には二度とないだろうからねぇ……。それくらい、大目にみてあげよう。

食料目当てで何度も来るのも、許容範囲内だ。

持ち帰った食料が、説明会には来なかった幼い子供達に分け与えられるなら、大歓迎だよ。

「そういうわけで、王様……陛下に無償貸与していただいた郊外の土地に、急ピッチで孤児達を住ませるための住居を建設中です。

貴族のお屋敷を建てるわけじゃないので、安く、早く!

安全で、雨風さえ完全に防げれば問題ないからね。

平屋だから、現場監督さんが腕利きのプロであれば、強度的には問題ないはず。……作業員は多少腕が悪くてもね!

なので、新米作業員さん達の訓練の場として、安く仕事を受けてもらいました!」

「……相変わらず、そういうトコ、セコいよねえ、姉様……」

『ソロリティ』のみんなに説明をしていたら、小声でサビーネちゃんから突っ込みが……。

うるさいわっ!

限りある予算は、無駄遣いできないんだよっ!!

……それに、あまりにも居心地がいいと、みんな『ずっとここに住んでいればいいや。家賃タダだし!』とか考えて、誰も巣立とうとしない件、とかになっちゃうと困るからね。

あくまでも、孤児救済のための施設なんだ。成人すれば、独立して自分でどこかに住んでもらわないと困る。そして空いた部屋には、新たな孤児が入るのだ。

孤児というのは、次々と増えていくのだから、自力で稼げるようになったら次の者に席を譲ってもらわないと困る。

それに、そもそも成人したら、もう『孤児』じゃないんだよ!

それは、もう普通の『両親が亡くなっている、ただの大人』だ。孤児支援の対象じゃない。

なので、家賃タダで、あまりにも居心地が良すぎるのは駄目なんだよ。

頑張って、早くここから出たい、って思わせなきゃ……。

「……というわけで、勧誘フェーズは 一旦(いったん) 終了。まだ話に乗ってきていない慎重派は応募組の成功を見れば落ちるだろうから、しばらくそっとしておこう。無理にゴリ押ししても逆効果だからね。

住居は、さっき説明した通り、順調に建設中。あと、残っているのは……。

そう! 孤児達の働き先の斡旋です!!」

これが、一番大変なんだよね……。

住むところは、まあ、少しお金を出せば用意できる。

立派な邸宅というわけではなく、粗末な建物、 仮設住宅(バラック) に過ぎないのだから。

……土地代、タダだし。

でも、仕事は、ちゃんとしたものでなければならない。

ずっと継続できて、ちゃんとその稼ぎで生活できて、そのうち結婚して子供ができても普通に暮らして行けるような仕事でないと……。

それならば、 使い走り(メッセンジャーボーイ) や子守りとかではなく、安定して、ある程度稼げる仕事でないと……。

いや、 使い走り(メッセンジャーボーイ) や子守りを下に見ているわけじゃない。

メッセンジャーボーイと言っても、貴族家やホテルで働いている人達は結構稼いでいるし、子守りも、貴族家や裕福な家に雇われて広範な育児と教育の役割を担うナニーとか、 女性家庭教師(ガヴァネス) とかの、ハイクラスなものもある。

……ただ、孤児達はそんなのにはなれず、せいぜい、銅貨2~3枚での使い走りとか、農家の赤ん坊の面倒を半日みて報酬がダイコン1本、とかいうレベルのものだから、今回の計画では対象外、というだけのことだ。

長期間継続できる安定した仕事で、孤児だからといって搾取されることのない、保証人がいなくても雇ってもらえる仕事。

それも、ひとりやふたりなら何とかなるかもしれないけれど、それが何十人にもなれば……。

うん、無理! そんな都合の良い仕事、ないよ!!

大人でも、仕事がない浮浪者とかスラムの住人、犯罪者とかがいるんだ。労働力としてはその下位互換と 看做(みな) される孤児達を雇ってくれるようなところが、そんなにあるわけがない。

……というか、そんなに孤児の働き口があるなら、みんなとっくにそこで働いてるよ!

お金が稼げないから、仕方なくフリーの孤児をやってるのだから……。

じゃあ、どうするかって?

私達が作ればいいんだよ、その『働く場所』をさ!

「皆さん、孤児達の居住区画に隣接する場所への工場の建設が、間もなく始まります。

出資していただいた金額に応じて利益が分配されますから、お楽しみに!」

この台詞は、『ソロリティ』の上位者とか『雷の姫巫女』としての私ではなく、事業者からの出資者の皆さんに対する言葉なので、威厳を出すための偉そうモードや親しみを出すためのタメ口モードではなく、丁寧語で喋った。

うん、場面や話題、そして相手に応じて話し方を変えるのは、当たり前だよね。

みんなにお金を出してもらったけれど、それは別に寄付というわけじゃない。

……出資。そう、孤児達に働いてもらって収益を上げるという新事業に対する、出資なのだ。

みんなの個人資産や、親を説得して貸してもらったお金を、私達に託してくれたのだ。

まあ、御両親も、表向きの企画者はアデレートちゃん率いる『ソロリティ』になっているけれど、事実上の責任者が『 雷の姫巫女(わたし) 』、そして更にそのバックに 第三王女殿下(サビーネちゃん) と『 大聖女(ベアトリスちゃん) 』が付いているとなれば、出資することに不安はないだろう。

仮設住宅(バラック) も工場も、大した金額が必要なわけじゃない。

工場なんて、現代日本の工場みたいに広い敷地や高価な機械が必要だというわけじゃない。

手作りで簡単なものを作るだけなので、ほぼ建物の建築費くらいしか掛からない。それも、格安の……。

その気になれば、私ひとりでも賄える程度の費用に過ぎない。

でも、そうしちゃうと『ソロリティ』のみんなの手柄にならないから、みんなから少しずつお金を出し合って、という形にしているだけだ。

それに、多分御両親達は、もし出したお金が戻らなくても気にしないだろうと思う。

失ったとしても、貴族にとっては大した額じゃないし、その場合、私、サビーネちゃん、ベアトリスちゃんの3人に対して 貸し(・・) ができるのだ。お金ではなく、心情的な貸しが……。

それは、貴族家にとってはある程度のメリットがあるだろう。

勿論、直接政治的にどうこう、というわけではないけれど、少しくらいは……。

もし文句を言われれば、勿論、私が即座に出資分を返金する。

まあ、そんなことを言い出す者はいないだろうけど……。

そして、事業が失敗する確率は、かなり低い。

何せ、子供達に作らせる予定の商品は、 地球産のもの(・・・・・・) なのだから……。

材料は全てこの世界のものを使うし、工具も製造技術も、全てこの世界のレベル内。

ただ、商品のアイディアだけを地球からパク……、オマージュとリスペクト、引用と参照、左右反転するだけだ。

権利会社も特許庁も、 異世界(ここ) までは目が届かないだろう、うむうむ!

構造が単純で作るのが比較的簡単だけど、現代、もしくは過去の地球で人気があったもの。

軍部や貴族、金持ちとかに目を付けられない、そんなに高価でも貴重でもないもの。

すぐにパクリ商品やモドキ商品が出る可能性はあるけれど、人件費やら大量生産体制やらで、孤児工場に勝てるところは少ないだろう。

もしパクられても、次々と新製品を出せるし……。

それに、そもそも王女殿下と大聖女と救国の英雄が、貴族の令嬢達と共に始めた孤児救済のための事業を妨害しようという勇気がある者が、そう大勢いるとは思えない。

何せここは、女神の実在が信じられている世界であり、王宮や貴族、そして神殿に目を付けられれば、簡単に破滅を迎える世界なのだから……。