作品タイトル不明
458 迎 撃 5
みっちゃんが、『ソサエティー』のメンバーや父親のミッチェル侯爵に頼んでくれて、エンルードという男についての情報が集められた。
そして、さすが上位貴族の令嬢達と侯爵家当主。割と早く、調査結果が私の元に届けられた。
エンルード・ド・シュトルベルク。地方の男爵家の四男。
兄が3人もいるため、爵位を継げる可能性は、ほぼない。
そのため、隣領であるクルバリッヒ伯爵家の三男であるキイディスの取り巻きとなり、将来はクルバリッヒ領で領軍の士官として雇ってもらったり、どこかの子爵家か男爵家の娘を紹介してもらったりできないかと期待しているようである。
……取り巻きになるならば、勿論三男であるキイディスではなく長男の方が良いのではあるが、クルバリッヒ伯爵家の長男と次男はエンルードとは年齢が離れており、取り巻きになれる相手はキイディスしかいなかったのである。
これは、他の3人の取り巻き達も、同じであった。
なぜ、そんな大事な自分の将来のための伝手を、こんなことに巻き込んだのか。
今回の調査では、そこまでは分からなかった。
……しかし、『ソサエティー』のメンバーのひとりから、気になる情報がもたらされたのである。
『エンルードの姉のひとりが、ミレイシャ嬢の母国であるノーヴェス王国に留学していたことがある。そして、予定よりかなり早く帰国したらしい』
「姉様、そこに絞って、再調査よ!」
「 合点承知(がってんしょうち) の 助(すけ) !!」
サビーネちゃんからの指示に、元気よくそう答えた、私であった……。
* *
「ふむふむ。お姉さんは、貴族とは名ばかりの貧乏男爵家の娘である自分が、どこかの貴族家の跡取り息子と結婚できるチャンスに懸けて、ノーヴェス王国に留学した、と……。
実家の爵位は違うけれど、目的としてはミレイシャちゃんと同じか……」
「ノーヴェス王国の貴族の間で名を売って、未来の領主や領主夫人達に気に入られておけば、あの国との取引が多いこの国の男爵家や子爵家へ縁談を持ち込みやすくなるからね。
それに、この国との縁を深めたいと考えている、向こうの貴族家の嫁に、ということもあるしね」
「なる程……」
サビーネちゃんが言う通り、そっちの目もあるか……。
まあ、それは本人がこっちの国で大勢の友人を持っていた場合には、だろうけどね。
「そして、なぜか1年も経たないうちに、帰国。
その後、婚活中のまま、現在に至る……。
うちのメンバーが自分達のお姉さんに聞いてくれたところ、彼女のことを知っている者のほぼ全員が、『あの女には関わるな』と……」
「あ~……」
サビーネちゃんが、全てを悟ったかのような顔をした。
「 ノーヴェス王国(むこう) で、留学中の姉に何があったか。
再度、調査に行くよ」
「うん!」
嬉しそうだな、サビーネちゃん……。
まあ、ノーヴェス王国へ行く理由とは関係なく、私との旅行、ということ自体が嬉しいのだろうね。
泊まり掛けになるだろうから、王様に外泊許可を貰ってきてね。
* *
再びやって来ました、ミレイシャちゃんの母国、ノーヴェス王国。
今回は、ミレイシャちゃんの関係者ではなく、数年前のヴァネル王国からの留学生について知っていそうな人達からの、聞き取り調査だ。
だから、前回の聞き取り調査の時と被る人もいないわけじゃないけれど、大半は新規の人だ。
調査対象が、ミレイシャちゃんより数年年上の世代だからね。
他国からの留学生についての噂話を、別の国の者である私に簡単に喋ってくれるかどうか……。
ミレイシャちゃんの情報の時は、本人の留学先での友人だと名乗っていたし、本人の楽しい話、頑張っているという良い話ばかりだったから問題なかったけれど、今回は面識のない者に関する、あまり良くない話になりそうだからなぁ……。
この国の貴族のことではなく、他国の貴族に関することだから、大丈夫かな?
一応、地球産のお酒や珍味、お菓子とかを色々持ってきたので、これで口が 緩(ゆる) むといいのだけどなあ……。
まあ、今日はサビーネちゃんと一緒に買い物と食べ歩きをして、お仕事は明日から。
アレだ、アレ!
スペイン語で言うところの、『 明日で間に合うニャ(アスタマニャーナ) !』ってやつ……。
* *
「当時の関係者を捜すのには少し時間が掛かったけど、聞き取り調査自体は割と簡単だったよね」
「う、うん……」
それは、サビーネちゃんの話術のおかげだよ……。
……それと、日本産のお酒とおつまみの威力。
お土産として渡したのとは別に、お話し中の飲食物として提供した品々。
年配の男性には、強い蒸留酒を。
若い女性には、甘くてジュースのように飲みやすく、しかしアルコール分が強いカクテル系のを。
これは、お土産ではなく、飲み残した分はちゃんと片付けて、私達が持ち帰る分だ。
……つまり、今たくさん飲んでおかなきゃ損、というやつ。
そして、どんどん飲ませて、サビーネちゃんが色々なことを聞き出す、という仕組みだ。
勿論、みんな馬鹿じゃないから、これが国の施策だとか、この国の貴族に関するスキャンダルだとかであれば、いくら私達が未成年……に見える……の小娘であっても、口が緩むことはなかっただろう。
……でも、他国の、しかも下級貴族の娘のことなど、自分が知っていることを『噂話として聞いただけ』として多少喋ったところで、何の問題もないと考えたのだろうな、多分……。
数年前の話だし、本人は既にこの国にはいないから、文句を言われることもない。
ならば、旨い酒と珍味、そして可愛い少女との会話を楽しみ、隣国の最新情報を聞かせてくれることに対する代価としては、それくらい教えてもただ同然、……いや、事実、ただなんだからね。
まあ、それでも他国の貴族の話をするのはちょっと、という慎み深い人達もいたけれど、それは、大勢に聞いて廻れば済むことだ。
慎み深い人よりも、ぺらぺら喋ってくれる人の方が圧倒的に多かったけどね。
そういうわけで、目的の情報は、サビーネちゃんが言った通り、割と簡単に集まったというわけだ。
そして、その、集まった情報というのが……。
……噂通り。
いや、ヴァネル王国において、貴族家息女の間に流されていた、ミレイシャちゃんに関するデマ情報と、そっくりだったんだよ。隣国から留学に来た貴族家の娘のやらかし、という内容が……。
違うのは、人物がミレイシャちゃんではなく、あのエンルードという男の姉であることと、それが悪意に満ちたデマではなく、 本当のこと(・・・・・) だった、という、2点だ。
「……何となく、事情が分かったような気がするんだけど……」
「うん、私もだよ!」
力のない私の呟きに、そう返してきたサビーネちゃん。
うん、まぁ、そういうコトか……。
「じゃあ、あとはあの男のお姉さんの現状を確認しようか……。
この街で遊ぶのは、明日1日だけでいい?」
「うん!」
そう、元気に返事する、サビーネちゃん。
今回は、さっさと進めるために、コレットちゃんもベアトリスちゃんも連れてきていないからね。
私とふたりで異国の街を歩くのは楽しいみたいだけど、ふたりに抜け駆けしているみたいで、ちょっと罪悪感があるのかな?
この件が全部片付いたら、また、みんなで日本のどこかに旅行しようかな。
ベアトリスちゃんが喋れる旧大陸以外の言葉は、 片言(かたこと) の日本語だけだからなぁ……。