軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

429 婚約破棄ざまぁ大作戦 3

「あ……、あ……」

どうやら、とんでもない状況に立たされているらしいと悟り、蒼白の浮気相手。

……いや、ローレンツが既にロテリカと婚約破棄した今は、元浮気相手、現交際相手、と言うべきであろうか……。

そして、必死に頭を回転させている、ローレンツ。

(マズいマズいマズいマズいマズい……。

こんな話が広まれば……、いや、既に広まっているのか?

ここ数日、声を掛けても遊び仲間が集まらない。

皆、婚約者の御機嫌取りとかで色々と忙しいのだと思っていたが、まさか、俺が避けられて……。

いや、それよりも、ロテリカと結婚すれば男爵位、うまくすれば子爵位が手に入る?

家を出てから、軍に入って出世するくらいしか 途(みち) がないと思っていたのに、貴族家の当主になれる?)

実際には、女男爵の配偶者であるが、ローレンツは自分が当主になれるかのように思っているようであった。

しかし、そんなお花畑の考えも……。

「それらの途を、素晴らしい女性である長年の婚約者と共に投げ捨てて、出会ったばかりの女性を選ぶなんて、……余程の純愛なのでしょうかねぇ……。

まあ、いくら純愛でも、虚偽の弾劾で婚約者を陥れて御自分達の都合の良いように、という行動を取られた時点で、女神の祝福も何もあったもんじゃございませんわよね、ホホホ……」

「「…………」」

娘が家を継ぐなどということは、あまりない。

あるとすれば、その条件は、跡継ぎは男子が優先されるため、子供が女子ばかりであり、その長子であること、である。

正妻の他に、妾や愛人を作る貴族家当主に、男子がひとりも生まれず女子ばかりという確率は低い。

普通は、愛人の子は継承権がないとされるが、正妻や妾が生んだ女子よりも愛人が生んだ男子に、と考え、愛人の子を家に迎え入れる貴族もいる。

また、子が全くできないという場合は、親戚筋から養子を取るので、これもまた該当しない。

……つまり、貴族の家を継ぐ女性というのはとても少なく、また、そういう者には侯爵家や辺境伯家、羽振りのいい有力伯爵家とかの三男以下が食らい付く。

なので、幼馴染みで相思相愛だとか、どうしても家同士の繋がりが必要である政略的な場合等を除き、とても貧乏伯爵家の三男程度が入り込める隙間などない。

それが、まさかの該当者が、こんな身近にいようとは……。

おそらく、侯爵家とかの上位貴族にとっては、下級貴族家の出である母親のことなど気にするようなことではなく、爵位を持っているなどということは知られていなかったのであろう。

何しろ、婚約者であったローレンツでさえ知らなかったのであるから、それも無理はない。

……というか、おそらく、故意に隠されていたのであろう。爵位目当ての上位貴族からのゴリ押しや、厄介者を押し付けられたりするのを避けるために……。

なのでローレンツは、どうせ爵位が得られないのであれば、義実家は子爵家よりも伯爵家である方が箔が付くし支援も得られやすいと考えたのであろう。

そして、地味で貧相な体形のロテリカよりも、顔も体形も派手な女の方がいい、と……。

……確かに、その考え……の前半部分のみ……は、間違ってはいない。

ただ、そこに『婚約者を裏切った不貞男と、婚約者がいる男に手を出した不貞女』というレッテルが貼られた場合、それがどうなるかは分からない。

浮気相手の女性にしても、婚約者がいる男性に手を出すような女である。まともな婚約相手が捕まえられず、伯爵家の三男で妥協したのか……。

確かに、ロテリカよりはメリハリのある体つきと、派手な顔をしているので、男受けは良いのかもしれない。

……遊び相手としては。

今まで付き合った男達も、若い間の遊び相手としてはちやほやしても、結婚相手は貞淑な女性を選んだのであろうか……。

そう考えると、婚約破棄をしてまで自分を選んでくれたローレンツは、確かに『運命の人』と思えたのかもしれない。

とにかく、不貞コンビにとってマズい状況になりつつあるわけである。

そしてふたりも、今、それを自覚した。

……だがここで、ふたりにとって明るい未来への途が示された。

不貞女にとっては……。

(私、噂話の中では『浮気相手』とか『不貞相手』とか言われているだけで、固有名は出てこないですわ! ならば、このままそっとフェードアウトすれば、私の名は広まらないのでは……)

そして不貞男の方は……。

(ロテリカと結婚すれば、全て問題なくなる! 将来のことも、借財のことも!!)

しかし、あくまでもそれは、本人達の頭の中だけにある『明るい未来』であった。

この話は、ここにいる令嬢グループだけでなく、このパーティー会場内の他の場所でも、別働隊によって広められていた。

そして他の貴族家によるパーティー会場においても、多くの令嬢達が話題にしているのであった。

……それも、 些(いささ) か不自然な程の、大きな声で……。

そして若い女性の声は、よく通るのであった。

『ソサエティー』は、異常とも思える程の、情報拡散能力を有する組織なのであった。

「あ、『ソサエティー』の皆様ですわ!」

ひとりの令嬢の声に、皆が入り口の方に目を向けると……。

『ソサエティー』の主催者であるミッチェル侯爵家令嬢、ミシュリーヌ。

『ソサエティー』の影の支配者と言われている、王族であろうと噂されている異国の貴族、ヤマノ女子爵。

新入会員である、ロテリカ・ド・ウォリスバルト子爵令嬢。

そして彼女達を囲むようにして移動する、『ソサエティー』のメンバー達。

勿論、ロテリカ嬢の顔は、メンバー全員の技術の粋を極めた化粧技術により、完璧に仕上げられていた。

ゴテゴテと塗りたくるのではなく、素材の良さを引き立てた、 自然に見える(ナチュラル) メイクで……。

……ナチュラルメイクは、 自然に見える(・・・・・・) だけであって、別にすっぴんや手抜きメイクというわけではない。

自分の肌の美しさを生かした自然なメイクのことであって、下手な厚塗りメイクよりも時間もお金も掛かっている。しっかりと、様々な化粧品を使って、隅々まで化粧しまくっているのだ。

それを、軽く薄化粧しただけの、ほぼすっぴんに近いものだと思っている男達の、馬鹿さ加減よ……。

フィギュアの彩色で、派手な原色で塗りたくるより、自然な肌の質感が出るように彩色する方が、手間も技術も遥かに多く必要とするのと同じである。

少し考えれば、分かりそうなものである。

「え……?」

そして、自分が知っている、地味で冴えない小柄な少女であるはずの者が、 蛹(さなぎ) から 孵(かえ) った蝶のように。

……それもアゲハ蝶どころではなく、世界で一番美しいと言われているモルフォチョウに匹敵する、美しさに……。

「「なっ……」」

そして、ふたり揃って驚愕の声を漏らす、不貞コンビであった……。