作品タイトル不明
427 婚約破棄ざまぁ大作戦 1
「……ロリーザ様、どうかなさいましたの?」
ひとりの御令嬢が、暗い顔をして俯いている令嬢に、心配そうに声を掛けた。
うん、みんなすごく気になっていたんだけど、なかなか声を掛けられずにいたんだ。
……そういうプライベートなことにどこまで踏み込んでいいのかの判断って、難しいよね……。
ウェンナール男爵領(チェリリアちゃん) の時とは違うからね。
あの時は、理由が分かっていたし、計画遂行の一環だったからねぇ……。
ここは、新大陸のヴァネル王国、勝手知ったるみっちゃんちの小ホール。
つまり、『ソサエティー』のお茶会だ。
そして、悩める御令嬢がひとり。
うん、ここで相談に乗らずして、何のための『ソサエティー』か!
というわけで、話を聞いたところ……。
俯いていた女の子、ロリーザ・ド・ゴノラード伯爵令嬢の従姉妹である子爵家の少女が、婚約破棄されたそうなのだ。
それも人前で、婚約相手である伯爵家の三男から、やってもいないことを一方的にあげつらっての 弾劾(だんがい) で、反論を聞こうともせずに……。
そしてその場には、自分の友人達を呼んでいて、「そうだそうだ!」とか叫ぶサクラを仕込んでいたらしい。
さすがに、別の女性の腰に手を回して、ということはなかったそうだけど……。
とにかく、証拠もないのにサクラによる場の誘導で、一方的に悪者にされてしまったらしいのだ。
その子はふさぎ込んでいて、今もお手洗い以外は自分の部屋から出ようとしないらしい。
食事も、自室で摂っているそうだ。
そして男の方は、翌日から堂々と別の女性といちゃついているとか……。
「 清々(すがすが) しいほどの、完璧な『婚約破棄ざまぁ物』のテンプレだ……」
いや、私も、 流行(はや) りの小説くらい読むよ。
しかし、婚約破棄か……。
婚約を取りやめたいなら、何もわざわざ人前でやらなくても、両家の親同士が話し合って解消すれば済むのに……。
それならば、本人達の傷も、少しは浅くなる。
なのに……。
『婚約解消』は、双方が合意しての取りやめ。責任の有無とは別なので、解消に合意はしていても、金銭の支払いが発生する場合もある。
そして『婚約破棄』は、片方が一方的に婚約を取りやめると宣告するものだ。
同じく、それは責任の有無とは別問題なので、破棄をした方、された方、どちらが賠償金を支払うことになるかは分からない。
しかし、この場合は……。
「自分が浮気して有責なのに、相手を悪者に仕立てあげて賠償金を取り、社交界での評判も自分が有利に、というわけか……」
さすがに、私達『ソサエティー』のメンバーに対してそんな馬鹿な真似をする者はいないだろうけど、この世界じゃあ、男尊女卑が普通だからなぁ……。
このままだと、その女の子は、無実なのに二度と社交界には出られなくなり、次の婚約者を探すのも難しいだろう。
……つまり、馬鹿男のせいで、ひとりの少女が人生を台無しにされるわけだ。
「皆さん、どう思います?」
「「「「「「 有罪(ギルティ) !!」」」」」」
……まぁ、許せないよねぇ……。
女の敵。悪党。人間の屑。
「では、予定を変更して、今日の議題は『婚約破棄ざまぁ大作戦について』ということで如何でしょうか?」
「「「「「「異議なし!!」」」」」」
私の提案は、満場一致で可決された。
* *
勿論、当事者の片方からの説明だけで動いたりはしないよ。
ちゃんと、双方の本人と友人達、その場に居合わせた第三者からも事情を聞いて、確認している。
私が直接、ではなく、他のメンバー達が、自分の立場や事情は説明せずに、ただ面白がって興味本位で噂話を聞きたがっている、という 体裁(ていさい) を取って……。
『ソサエティー』のメンバーに話し掛けられて、喜ばない者は滅多にいないらしい。男女共に。
皆、できれば『ソサエティー』のメンバーと仲良くしたいと思っているし、女子は『ソサエティー』への加入を、そして男子はメンバーの誰かとお付き合いを、というのを狙っているのだとか……。
そう、調査活動はとても 捗(はかど) る、というわけだ。
* *
『ソサエティー』お茶会、臨時開催。
通常は月に2回だけど、必要がある場合には、臨時に開催されるのだ。今回のように……。
「というわけで、報告の通り、前回の定例お茶会でロリーザ様から御説明がございました件、確認が取れました。
証拠多数、証言多数。従姉妹様が誠実な方であることは疑いなく、全て 冤罪(えんざい) であることが確認されました。
また、男性側の不貞行為、虚偽の発言、借財等も確認済み。
よって、本件はケースC-A-Cと判定いたします」
みっちゃんが、少し顔を赤くして、口の端をヒクヒクさせながら、皆に対してそう報告した。
……うん、怒りを必死に抑えているのだろうな、アレは……。
同じ貴族の少女として、そりゃ許せるはずがないよなぁ。
真面目で誠実な少女が、馬鹿に 嵌(は) められて、人生を台無しにされる。
いつ、自分にも降りかかってくるか分からない悲劇。
こんな 成功体験(・・・・) を広められて、同じようなことを企む男が増えたりすれば、女性達にとっては堪ったもんじゃない。
絶対に叩き潰し、そういうことは 絶対にやっては(・・・・・・・) ならないこと(・・・・・・) だと思い知らせねば……。
奴の敗因は、元婚約者の従姉妹が『ソサエティー』のメンバーであることを知らなかったということ。
そして、『ソサエティー』が守るのは、仲間達だけではなく、仲間にとって大切な人達も含まれるということを知らなかったこと。
更に、我が『ソサエティー』のメンバー達は、たとえそれが見ず知らずの者であっても、理不尽な行為による被害者を見過ごすことができるような者達ではなかったということだ。
……特に、それが女性や子供であった場合には。
みっちゃんが宣言した、判定C-A-C……勿論、私にはそう聞こえるけれど、みっちゃんが口にしたのはこの国の文字……が意味するのは。
対象区分、C。Aはメンバー本人、Bはその家族、Cは親族や友人達。
重要度、A。……絶対に 看過(かんか) できない、悪質かつ重要案件。
緊急度、C。数日間程度の時間的余裕がある。
……そう。重要度がAである限り、 ソサエティー(わたしたち) の行動は止まらない。
たとえ貴族や国王が、……そして、神が立ち塞がろうとも!
そして、みっちゃんに続き、私からも……。
「我が『ソサエティー』の新たなる戦いの始まりを、ここに宣言します!
これはこの国の、全ての女性達のための戦いです!!」
「「「「「「おおおおおおお〜〜!!」」」」」」
よし、掴みはバッチリだ!
みんな、久し振りの、我が『ソサエティー』の全力を挙げた戦いの始まりに、やる気満々だ。
……というか、何だかすごく楽しそうだね、キミタチ……。
「ロリーザ様、従姉妹様とそのお父様に、お手紙を届けてください。
今はまず、従姉妹様の心の平安と、早まった真似をなさらないよう周りの者達によるサポートが必要です」
「は、はいっ!」
「そして、皆様には後で、私からのいくつかの提案を認めていただけるかどうかの採決を。
また、作戦自体の遂行は既に決定しておりますが、その実施においては、皆様は御自分の名において行動してください。
……つまり、貴族家令嬢、そして我が『ソサエティー』のメンバーとしての御自分の立場や影響力を行使したり、お友達や他の貴族家の御当主等に働きかけたりするのは構いませんが、それはあくまでも皆さんの個人的な行動であり、決して『ソサエティー』としての活動ではないこと。
頭を下げての頼み事ではなく、あくまでも世間話としての情報提供により、 先方が勝手に(・・・・・・) 、 自発的に行動した(・・・・・・・・) 、という形にすること。
御自分の両親や親族に対しても、同じです。
我が『ソサエティー』のメンバーとして頼み事をすれば、後日、『ソサエティー』に対して何らかの形で 借りを返せ(・・・・・) 、ということを要求されかねませんから……。
皆様は、あくまでも世間話の一環として友人や知り合いの方々とお話しして、その中に、たまたま今回の件が含まれていただけ。
向こうが、皆様の歓心を買うために自発的に色々と教えてくれたり、皆様から聞いたことをあちこちでお話しになられるだけ。
……『ソサエティー』としての立場で頼み事をしたり、何らかの要請をしたり、ということは、一切ないようにお願いします」
私からの説明に、こくりと頷くメンバー達。
そう。護らなきゃならない。
私達の『ソサエティー』と、女性達の尊厳を。
馬鹿な男共に、こんなことの実績を、成功体験を味わわせて、調子に乗らせて堪るもんか!
「よし! 婚約破棄ざまぁ大作戦、 作戦開始(オペレーション・スタート) です!」
「「「「「「おおおおおおおおお〜〜っっ!!」」」」」」