軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

416 招 待 5

あの後、待機室に置き手紙をして帰った。

……日本邸へ。

馬車とシルバーは、連続転移で孤児院に預けておいた。

そして入浴後、夕食を食べながら3人で作戦会議。

「このまま国へ帰るのは、ちょっと早すぎるよね。どこかで時間潰しでもする?」

私の提案に、サビーネちゃんとコレットちゃんはしばらく考えたあと……。

「せっかくだから、あの国の王都を少し見物しない? 今なら、私達がいてもおかしくないし」

「あ、なる程……」

この大陸も、空軍機で飛んでもらって、かなりの部分を上空から視界に収めることができた。

だから、この国にも大まかに適当な場所を選んで転移することはできる。

しかし、今回王都をじっくりと見ておけば、今後は王都のどこへでも、一発で正確に転移できるようになる。

人目に付かず、安全に発着できる転移用ポートを何カ所か確保しておくというのは、後々、何かの役に立つかも。

……でも、私達がこっそりとここへ来た時には、私達がこの国に、そして王都にいるということはバレるわけにはいかないし、滞在したという事実そのものも隠さなきゃならない。

転移能力……『渡り』を観光旅行程度のことで簡単に使っている、ってことがバレないようにするためにはね。

だから、私達がいることがバレても問題がない今、ちょっと観光するのもいいかもしれない。

さすがサビーネちゃん、いいところに気が付くなぁ……。

いや、多分私の転移のこととは関係なく、ただ単に観光したいだけなのだろうけどね。

「……採用!」

しかし、あの国の国王、まさかゼグレイウス王国の第三王女が同行していたとは思ってもいないだろうなぁ……。

聞かれなかったから、こちらからは教えていないからねぇ。

招待を受けたのはあくまでも私であって、サビーネちゃんはただの付き添いだから。

でも、いくら格下の国だとはいえ、一方的に呼び出しを受けた自国の女貴族……それも、年若い少女……を心配して、王女殿下が同行したのだ。

それを、何時間も放置して、会うこともせずに追い返した。

そういう話が周辺国に広まれば、この国の国王の評判が悪くなるだろうし、以後、うちの国の誰かに同じような 御招待(・・・) が来ても、『いえ、長旅をして訪問しましても、会ってもいただけず追い返されるのでは……。招待された姫巫女様や、それに同行した王女殿下ですらそういう扱いを受けるのであれば、私など、国境辺りで追い返されるかもしれませんからな、はっはっは!』とか言って、皮肉たっぷりに断れるだろう。

第三王女が同行しているなどということは知らなかった、とか、追い返したりはしていない、とか言い訳をしても、無駄だ。

私とサビーネちゃんがこの国に来て王城に行き夕方まで滞在したこと、そして国王に会うことなく帰ったことは、客観的事実だ。

そして、第三王女殿下と、子爵家当主にして雷の姫巫女という、ふたりの身分ある者の証言。

それに、噂話というものは、より面白い方が広まりやすい。

私達の話と、そんなことはしていないという王宮側の正式声明。

どちらが面白おかしく脚色されて、尾ひれが付いて広まるかというと……。

しかも、王宮には、門番さんやメイドさん達を始め、私達が訪問したことを知っている人はかなり多いし、そして私達が国王と会ったことを証言できる者はひとりもいない。

……うん、まぁ、そういうことだ……。

* *

「……何? ゼグレイウス王国の雷の姫巫女が来ただと?

どうしてこんなに早いのだ? まだ、招待状が届いたばかりの頃であろう?

それに、なぜお前がそれを報告するのだ?」

国王がそれを疑問に思うのも、無理はなかった。

本来は、このようなことは接遇係の者が直接国王に報告することではない。

担当の大臣を介して、報告が上がるはずであった。

「来訪が早かった理由は、分かりません。

そして私が越権的なことをいたしましたのは、……その、私の報告が上に届いておらず、姫巫女様が待機室で長時間放置されてしまったということを知りまして……」

「何だと! どういうことだ? そのような報告が、途中で止まるはずがないであろう!」

思わぬ報告に、声を荒らげる国王。

しかし、この者がそれに答えられるはずがない。

なので、それに気付いた国王は、すぐに大臣のひとりに視線を向けた。

それを受けて、すぐに退室する大臣。

勿論、誰が、なぜ報告を止めたかを調べるためである。

「……それで、どれくらい待たせておる!」

「……3~4時間くらいかと……」

その接遇係の返事に、少し慌てたかのような素振りを見せる国王。

「すぐに会う! 謁見の間……、いや、応接の間に通せ!」

国王がそう指示するが……。

「いえ、姫巫女様は今日はもう陛下にお会いできないと判断されたらしく、既にお帰りになられましたので……」

「…………」

これが、向こうから押し掛けて訪問してきたのであればともかく、こちらから招待しておいての放置である。

しかも、他国の貴族である少女で、おまけに、自称とは言え女神の御寵愛を受けし姫巫女。

いくら相手が下級貴族であっても、これでは勝手に帰ったことを非礼であると責めるわけには行くまい。明らかに、非があるのはこちら側である。

それに、招待したのであるから、王宮の客室に宿泊させるのが当然である。

最低でも、王都で一番の宿の、最上級の部屋を提供すべきであろう。

なのに、こちらの不手際により自分達で宿を取らせてしまった。

これは大失態であるが、既に宿で休んでいるであろう今、これから宿替えをさせるなど、恥の上塗りであり、更に非礼を重ねることになる。

今日のところは、このままにするしかなかった。

「……明日、登城してきたらすぐに会う。他の予定があっても、割り込ませろ。

そして明日以降は、王宮の客室を与えよ」

「はっ!」

国王の指示に、宰相が了解の意を示した。

これで、今日のようなことが繰り返される心配はなくなった。

* *

「どうなっておる!」

翌日。

昼になっても、ヤマノ子爵登城の知らせが来ない。

そのため、宰相を呼び付けた国王。

「他の予定があっても割り込ませろ、と言ったであろう! なのに、なぜ取り次がん!!」

そう言って、宰相を怒鳴りつける国王であるが……。

「は。しかし、ヤマノ子爵が 未(いま) だ登城しておりませんので……」

「な、何?」

「昨日のことから、陛下が御多忙であろうと考え、午後一番か、夕方頃にでも登城するつもりなのではないかと……」

「……う、うむ、そうであるか。確かに、昨日は少し待たせすぎたな。

良い。別に気分を害してはおらぬ」

さすがに、昨日は少し悪いことをしたと思い反省したのか、宰相の返事に少し気まずそうな顔をして、不機嫌そうな様子は引っ込めた国王。

しかし、そう返事をした宰相は、嫌な予感が湧き上がるのを抑えることができなかった。

……この歳になるまで何度も自らを窮地から救ってくれた、頼りになるその『予感』を……。