軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

38 メイドさん

やって来ました、メイドさんの面接日。

従業員の推薦であっても、別に贔屓はしない。ただ、推薦者に書類を確認して貰って嘘がないかチェック出来ていることと、おかしなのを推薦したら自分の立場が悪くなるということを認識しているだろうからあまり変なのは混じっていないだろうな、と思うくらいで。

そして意外にも、現従業員の推薦はそれほど多くはなかった。

まぁ、知り合いにいい職場を紹介してあげたい、という思いはあるだろうけれど、もしその者が何かしでかしたら、推薦した者にも累が及ぶ可能性があるのだ。そして、そういうデメリットがあるのに、メリットは特にない。せいぜい、その知人に少し感謝される程度。

それに、下手をするとその知人に自分より序列が上になられる可能性もある。それはちょっと嫌だろう。

まぁ、推薦するとすれば、自分の妹くらいか……。

で、応募総数47。

子爵領全住民678名のうち、男性322名、女性356名。

女性の方が多いのは、男性の方が狩猟や事故で死ぬ数が多いから? 昔、戦争に駆り出された? それとも女性の方が強靱だとか、誤差の範囲内?

と、まぁ、ともかく領内全ての女性356名のうち、十代から三十代で結婚していない女性の大半が応募したんじゃないの、コレ?

17~18以上の大半が結婚しているとして、その他も殆どは仕事に就いているか、家業の手伝いをしているはず。それらは辞めていいのか……。

いや、それだけ魅力的なのか、子爵家で働けるということは。う~ん…。

これじゃ、従業員に推薦頼んだ意味があんまり無いなぁ。

とにかく、選考開始。

「ここで色々と学ばせて戴き、自らを磨きたいと思いまして……」

いや、一見向上心があって立派に聞こえるけど、別に従業員を勉強させて磨いてあげるために給金出すわけじゃないから。勉強も、コレットちゃんのように将来のためならばともかく、メイドの仕事を続けるのに雇用側からの未来投資は必要ないよねぇ…。うちで自分のスキル上げて、転職するつもり?

アピールするのは、自分が得たいものではなく、雇用側に与えられるもの、でしょうが。自分を雇えば、雇用側にはこんなメリットがありますよ、という……。

ここは別に職業訓練所や花嫁学校じゃないんだから。

「では、これで終わります。次の方…」

「お待ち下さい! これから少し、私の話を聞いて戴きたいのですが!」

いや、自己アピールは、面接官との質疑の間にするものだから。質問への回答の中でうまく表現してね。持ち時間が終わった後で、自分の言いたいことを一方的に喋る、というのは、反則。ルール違反。後出し。話が終わって結論が出た後で『いや、もう一度自分の話を聞いてくれ』なんて蒸し返す人は要らないよ。言いたいことは話が終わる前に言いなさいよ、ということで。

「私の意欲とやる気を是非知って戴きたく…」

いやいや、意欲もやる気もなく面接受けに来た人はいませんから! みんな雇って貰いたい気満々ですから! 自分だけ特別、とか勘違いしてるの?

「以前、王都の商家で重用されておりまして…」

「え、なのにどうして辞めたんですか? 重用してくれる所を辞めるような事情があるのなら、うちで働くのも難しいのでは?」

「え、いや、その……」

「伯爵家からもお声掛け戴いたことがあるんですよ、私!」

「あ~、じゃ、子爵家であるうちなんかより、そっちで雇って貰った方がいいですよね」

「あ、いえ、そちらは断りまして……」

「え、伯爵家でも御不満なら、子爵家であるうちなんかでは到底御満足戴けるような条件じゃないですよねぇ。それじゃ、侯爵家あたりからお声掛けがあることをお祈りしております。

次の方!」

なんか、期せずして領内女性のデータベースが出来そうだなぁ、『虚言癖あり』とか『信用できない人物』だとかの…。

メモも取ってるし、念のため録音もしてるんだよね、この面接。

「…26番、ノエルです」

コレットちゃんと同じくらい…って、年齢制限があるんだから、10歳以上なのか。8歳のコレットちゃんと同じか、やや小さく見えるけど。銀髪の、おとなしそうな女の子。

「ここを志望した理由は何ですか?」

私の問いに、少女、ノエルちゃんが答えた。

「…売られそうなので」

おおぅ、ヘビーだよ……。

面接を終えて、皆を帰した。結果は後日通知。

言っていたことが本当かどうかの裏を取らなきゃならないからね。

しかし、まるで誰かがメイド採用面接予備校でも開いてたんじゃないかと思うくらい、色々なテクニックを披露されたなぁ。『最後に私の話を聞いて戴けませんか法』とか、『私の意欲を見て下さい法』とか、『昔、○○をやっていました法』とか、『慈善活動をしていました法』とか、『もう今の仕事は辞めてきました法』とか、『向上心があるんですよアピール』とか……。

その技法を見せて戴くのは今日はあなたで6人目ですよ、とか教えてあげれば良かったかな。

小手先のテクニックなんか、他の者も当然思いつくし、何十人もの相手を面接する試験官が一度も目にしていないわけがない。

付け焼き刃のテクニックや駆け引き、借り物の言葉じゃなく、辿々しくても構わないから、自分の言葉で、誠実に答えて欲しいんだけどね、こっちとしては……。

建前の綺麗事を言われても、採用の参考にはならない。ということは、本音で選考の参考になることを言ってくれた者の方を採用するよねぇ。マイナスになることならまた別だけど。

そして最終的に、4名を採用した。

ノエル10歳、ニネット12歳、ポーレット17歳、ラシェル27歳。

十代が多いのは当然。17歳以上は既婚者が多く、応募者の大半が十代だからである。

本当は、当初予定を大きく上回る、5人に採用通知を出す予定だった。いい人材は確保したかったので。

しかしそのうち1名は、採用前調査の結果、申告内容に虚偽があることが判明し急遽採用取り止め。虚偽内容そのものは、別に正直に言ってくれれば許容できるものだったのに、雇用主を騙そうとした、という点で失格。

ノエルちゃんについては、同情心が無かったとは言わないけれど、勿論それだけじゃない。ちゃんと、充分な能力があることを確認した上で採用を決めた。同情だけなら、領主としてノエルちゃんの件に介入すれば済むことだし。

ノエルちゃんは利発で頭の回転が速く、理解力、記憶力も優れている。きっと良いメイドになってくれるし、近い年齢の者がいないコレットちゃんの良いお友達になってくれれば、との考えもある。

あ、ノエルちゃんの『売られる』発言だけど、領内で人身売買か、と焦ってよく確認してみると、奴隷として売られるのではなく、少し離れた伯爵領の商店に奉公に出されるというものだった。20年分の給金を先払いで親に渡しての。

いや、それ、奴隷と変わらないから。

ノエルちゃんが『売られる』と言ったのも当たり前。頭の良い子だからね。

ヤマノ子爵領では、たとえ子供であっても自分の身体は自分のものであり、その労働力を売れるのは自分だけ。親であっても子供を売ることは出来ない。だから、奉公の契約を結んだならば、その代金は親ではなくノエルちゃん自身のものとなる。それを取り上げるならば、強盗罪で逮捕。

そう丁寧に説明してあげると、なぜかノエルちゃんの奉公の件は無くなった模様。まぁ、商店での奉公で得られるお金より子爵家で働く方がずっと稼ぎが多いんだけどね。

ただ、ノエルちゃんがそれを親に渡すかどうかは別問題。自分を売ろうとした親に、ノエルちゃんが自分で稼いだお金を渡すかねぇ? うちの使用人には、利子付きの預金制度があるよ。

勿論、ノエルちゃんから無理に給金を巻き上げようとしたら、ヤマノ子爵家警備兵の出番となる予定。

金髪のニネットちゃんは、12歳の年齢相当の外見。と言うことは、日本で15歳前後、ここでは10~12歳に見られる私と同じか、それより少し上に見えるということ。身長も、胸も。ぐぬぬ……。

ニネットちゃんは使用人の中で唯一の漁村出身者なので、これからテコ入れを考えている漁村改革にも協力して貰おう。現場の人の意見は大切だからね、やはり。

あと、コレットちゃん、ノエルちゃんと3人で仲良くしてくれないかな…。

17歳のポーレットは山村出身。山村と言っても全員が猟師や林業に従事しているわけではなく、父親が猟師、母親とポーレット、そして弟妹は畑仕事を行っているらしい。

しかし適齢期となっても住民数の少ない村の中にはポーレットのお気に召す相手はおらず、町に出て仕事とお相手を探すか、と思っていたところに、子爵家の使用人募集。勿論飛び付いた、というわけらしい。

うん、まぁ、今時の若い娘さん、って感じ。山村テコ入れの時には意見を聞こう。

最後のラシェルさん、27歳。町の住人で、未亡人。

旦那さんを病気で亡くし、4歳の娘さんを抱えて困っていたところに、この求人を知ったらしい。娘さんは両親に預けて働くとのこと。

この人を採ろうと思ったのは、その経歴から。そこそこの町の中規模商店の三女とかで、子供の頃から店の手伝いをし、そこそこの年齢になってから結婚するまでは店の経理や事務、仕入れの交渉とかも手伝っていたらしいのだ。これは使える!

しかし幼い娘さんと引き離すのは忍びないので、子連れで住み込むことを提案してみたところ、ラシェルさん呆然。泣かれてしまったよ。

同情? 贔屓? いいんだよ、私は自分がやりたいようにやるんだから。

で、ラシェルさんに、娘さんは使用人の子供として、つまり非従業員として扱うか、僅かながらも給金を貰ってのメイド見習いとして扱うか、どちらを希望するか聞いてみたところ、しばし考え込んだ後に『メイド見習いでお願いします』との返事。

うん、その方が勤務中も母娘一緒に居られるし、将来も安泰だからね。成人後に転職するにしても、4歳から子爵家で育った15歳のベテランメイド、とかなら王都の伯爵家あたりでも採用されるよ、多分。それも、『あの、ミツハ・フォン・ヤマノ子爵家出身』ともなれば…。

紹介状とかも書いてあげるよ、勿論。嫁入りにも効果は抜群だと思うよ。

これで、以前からの使用人12名、コレットちゃんや領主軍関係、プラチドゥスさん方面やラシェルさんの娘さんも含めた新規雇用勢が13名で、私を含めて26名。あと、ネットによるアドバイザーの皆さん。

よし、この陣容で、ヤマノ子爵領はチートな発展を目指す!

……なんか、安泰な老後を目指す、っていうのからだいぶ路線が変わってきたような気がするけど、まぁ、この世界で老後を過ごすなら『引退した子爵領前領主として、安泰な老後を過ごす』ということでいいか。

そのためには、領内が順調に発展して、裕福で安定した領にならないと。

あ、思ったより領主邸の人数が増えてきたから、やっぱり料理人をもうひとり追加するかな。

考えてみたら、料理人ひとりだと休日が取れないじゃん! 病気になっても休めない。……どんなブラック企業だよ!

メイド勢にも、花嫁修業の一環として、ローテーション組んで料理の手伝いをさせよう。それならば、料理人も交代で休みを取れるだろうし。

ヤマノ料理が作れるメイドとか、引く手あまたなんじゃないかな?

いや、引き抜かれたら困るんだけどね。