軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

373 お友達 3

向こうの世界の、洋上に転移。

勿論、すぐに海面に落下しないよう、充分な高度を取って。

そして、連れてきた細菌と共に、地球の洋上へ。

細菌を残して、異世界を経由し、マンスリーマンションの自室へと帰還。

オールミッション・コンプリート。

肺に入って炎症を起こした細菌は、別に大したものじゃないだろう。

でも、念の為に、向こうの世界に置いてくるような危険は冒さない。

地球じゃありふれた菌だろうけど、ま、洋上に捨てておけば安心だろう。

……火山の火口上に転移して、というのも考えないでもなかったけれど、何か怖いので、洋上にした。

あまり低いところに転移して、熱気や火山性ガスにやられて落ちたら大変だし、充分に高度を取れば菌が火口に落ちずに拡散しちゃうだろうしね。

そもそも、熱気があるのだから、上昇気流で上空に運ばれて拡散するよね。火口に落ちるわけがないよ……。

とにかく、終わった終わった!

朝は一応いつもと同じ時間に起きて、サビーネちゃんとコレットちゃんを見送った後、寝直すとするか……。

* *

「「行ってきま〜す!」」

「行ってらっしゃ〜い!」

「行ってらっしゃいませ!」

私とカティに見送られて、サビ・コレコンビは学院へ。

普段は割とぞんざいな喋り方をするカティも、勤務中で、しかも私の前で王女殿下を見送るのに、おかしな言葉遣いをするわけがない。

この子も、馬鹿じゃないんだ。ちゃんとTPOは 弁(わきま) えてる。

すでに 任務が(ミッション・) 完了(コンプリート) したということは、ふたりには朝食時に伝えてある。

案の定、ついて行きたかったとか、私が戻るまで起きて待っていたかったとか言われたけれど、それを避けるために事後報告の形にしたのだからね。

まあ、ふたりには当然それくらいのことは分かっているだろうけど……。

今回の 任務(ミッション) は、目撃者さえいなければ、誰にもバレることはないはずだ。

ひとりのお年寄りが、病気から回復した。……ただ、それだけだ。

罹(かか) れば全員が死ぬというような病気じゃない。回復しても、別に何の不思議もないだろう。

そして、そこには奇跡や超常現象が起きたことを示すような痕跡は何もないし、私達との接点も皆無。お見舞いに行ったという記録すらない。

回復も、奇跡のポーションで一瞬のうちに、ってわけじゃない。

細菌はなくなっても、炎症を起こしていた肺胞が瞬間的に元に戻るってわけじゃない。だから、ゆっくり回復するだろうから、そんなに不自然じゃないだろう。

……と思う。

でも、今回は何とかなっても、誤嚥性肺炎は再発しやすいらしいからねぇ。

年齢や体力的に、誤嚥しやすくなっていて、そして細菌に対する抵抗力が弱くなってるってことだからね。

ふたりの留学期間は、3カ月。

それが過ぎれば、私達はこの街を去る……。

* *

「海月ちゃんの 曾祖母(ひいおばあさま) 、持ち直した、って……。順調に回復してるって、海月ちゃん、嬉しそうに話してたよ」

あれから数日後、帰宅したふたりが、嬉しそうにそう報告してきた。

「……うん、そりゃ良かった……」

勝算がなかったわけじゃないけど、駄目だった可能性もあった。

細菌がなくなっても、肺胞のダメージが大きくてそのまま回復できなかった場合。

また誤嚥するか、細菌が入り込んで再発した場合。

その他、失敗に終わる可能性は色々とあった。

「……もう、次は駄目だよ。

あ、ふたりの家族……、御両親と兄弟姉妹は別。いい?」

「……う、うん……」

「分かった。ごめん……」

私の様子から、本当に『これは、本当は駄目なやつだ』ということが分かったらしく、神妙な態度のサビーネちゃんとコレットちゃん。

家族や領民のためなら、少し無茶をしても構わない。

……でも、赤の他人、しかも向こうの世界ではなく地球で人命に関わることに手出しするのは、駄目だ。

私は、神様じゃない……。

* *

「もう、ふたりの留学生活も1カ月近く経ったなぁ……。

何か事件が起きたりして、とか考えて、かなり気を張っていたんだけど、何事もなく終わりそうだなぁ……」

マンスリーマンションで仕事をしながら、そんなことを呟いた。

独り言じゃない。出張番であるロレーナが一緒にいる。

今日はノートパソコンを使っての仕事なので、どこでやろうと変わらない。

なので、そういう仕事をする時には、なるべくマンスリーマンションでやることにしているのである。

その方が、万一サビ・コレコンビに何かあった時に早く反応できるし、昼間はひとりで退屈であろうロレーナとカティの話し相手になってやれるからである。

腕時計型の通信機による救助要請に備えて外出ができないメイド達が退屈を持て余しているだろうと、善意でやっているのである。

……メイド達が、ひとりでのんびりできるのと、雇い主である貴族がずっと一緒にいるのの、どちらが気が休まるかということは考えない。

「ミツハ様、『 言霊(ことだま) 』という言葉をご存じですか?」

そして、ロレーナに、そう返された。

「……あるんだ、向こうのせか……国にも、そういう概念……」

* *

今日は、うちの町……日本の、実家がある町……で、ひとりでお買い物。

いや、実家で暮らしているというアピールをしなきゃならないから、食料品とか色々なものを買って回らなきゃならないんだよね、近くのスーパーとか商店街とかで……。

まぁ、買ったものはマンスリーマンションに持って行くから、向こうで自分で料理したり、カティとロレーナに渡して料理に使ってもらったりするから、4人で食べればすぐになくなる。

他にも、夕方に転移してきて灯りをつけ、23時頃には消しに来る、というようなアリバイ工作をやったりしている。

ここに住んでいますよ、孤独死なんかしていませんよ、ということをアピールしておかないと、予告もなく長期間不在にすると、心配したご近所さんが警官を連れて突入しかねないからねぇ。

ご近所さんに気に掛けてもらえるというのは、ありがたくもあり、面倒でもある。

……まぁ、贅沢な悩み、ってやつだね、うん。

日本にさえいれば、サビ・コレコンビに何かあっても、本人達、もしくはマンスリーマンションに詰めているカティかロレーナからの連絡が受けられるから、問題ない……、って、スマホに連絡、キタ~!

これは、隊長さんや学者先生との連絡用のやつじゃない。いつでもカティ達からの連絡が受けられるようにと、新たに契約したやつだ。

……勿論、山野光波名義ではなく、別の名義で。

だから、これにかかってくる電話は、サビ・コレコンビかカテ・ロレコンビからのみ。他の者からかかってくることはない。

おかしな勧誘電話とか、若い女性からの間違い電話を装った詐欺電話とかを除いて。

……などと考えながらも、私の手は自動的にスマホを取りだし、通話ボタンを押している。

「緊急事態の概要を述べよ!」

うん、サビーネちゃんとコレットちゃんが私と一緒にいる時には、カティとロレーナが大したことのない用件で連絡してきてもいいと言ってあるけれど、 そうじゃない時(・・・・・・・) には、緊急度4以上の場合のみ、って言ってある。

そしてサビーネちゃんとコレットちゃんには、学院からの電話はお昼休みと放課後以外は緊急時のみ、と言ってある。

そして今は、授業時間中である。

……つまり、緊急事態、ってことだ。

『SSA! 繰り返す、SSA!』

スマホから聞こえてくるのは、ロレーナの声。

少々おっちょこちょいであるカティではなく、しっかりしたロレーナからのSSA宣言。

対象重要度、S。……サビーネちゃんかコレットちゃん、もしくはその両方。

危険度、S。……生命の危険あり。

切迫度、A。……数分の余裕はあると思われるが、いつ状況が急変するか不明。

周囲を確認。

人の姿はあるが、こちらを注視している者はいない。

危険度や切迫度から考えて、安全マージンは捨てる。

転移!