軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35 オフ会 ・・・少し先のお話

『残念! それは私の黄銅鉱さんだ! というわけで、金鉱石ではありません。金の鉱石なら1個、銀の鉱石なら5個集めると、お餅屋の缶詰が貰えないよ!』

『鉱業相談』の「金鉱石っぽいの見つけた!」に残念なお知らせを書き込んだ。うん、鉱石と木材の事なら任せとけ!

しかし、このおかしなブログ、『みんな助けて! 子爵領経営記』を見つけてもうだいぶ経つよなぁ。

最初は女の子っぽい文章で『突然子爵になって領地経営をしなくちゃならなくなりました。皆さん、助けて下さい!』ってのから始まって、稲を植えたい、海産物で儲けたい、貴金属はどこで採れる、と、まぁ、厨二病の夢いっぱいの架空経営譚だったんだよな。

で、ネタが結構よく考えられてて、妙にリアルで。みんな面白がって、専門家とかがアドバイスすると、その結果報告がまた、専門家が感心するほどリアルで、その道のプロの人が『あ~、そこ勘違いしたかぁ! ああ、素人ならそう間違うこともあるか、確かに!』って驚くくらい、まるで本当に試したかのような報告。添付される写真も凄い出来で、CG加工のプロが絶賛してたくらい。もう今ではみんな子爵領が本当にあるものとして書き込んでる。

緊急イベントもある。「病気の女の子を助けて!」とか、「助けて! 稲に害虫が!!」とか。いや、多才な人だよな、子爵様。

と、そのブログの常連としてよく書き込んでいたら、招待された。

『いつも、チートな発展を目指す子爵領を助けて戴きありがとうございます。この度、2週間後の3連休に、小規模オフ会として特によくアドバイスを戴きます4名の方を我が子爵領に御招待したいと思います。領地をその眼で直接見ることにより以後のアドバイスの参考として戴ければ幸いです。

なお、2泊3日を予定しております。準備物件は、洗面具と期間中の替え下着のみで結構です。その他は全て当方で用意致します。衣服の準備の都合上、概略の衣服のサイズをお教え下さいますようお願い致します。

集合:土曜1300 解散:月曜1300』

なにコレ~!

勿論行くよ。

子爵領うんぬんはともかく、全部向こう持ちで2泊3日の遊びに連れて行ってくれるっていうんだから。温泉旅行とかかな。引退した金持ちが過疎の村で小さな田畑やってるとか。それで、我が領地、とか。

それに、ハンドルネームしか知らない常連さん3人と、あの子爵様に会えるなら、それだけでも行く価値はある。

本人含めて5人分の2泊3日全て負担とか、かなり裕福な人なのかな、やっぱり。まぁ、あのCG加工見ただけでカネの掛け具合が分かるよなぁ。そんなカネかけてる楽しみをつまらないことで台無しにはしたくないだろうから、すっぽかされて放置、なんてことはまずないだろう。

年配の女性か、定年後の時間とお金に余裕のある初老の男性か…。どんな人が子爵様なのやら……。

土曜1255 某デパート屋上 遊戯ランド

そこには4人の男女が集まっていた。

マッコイ 初老の男性 『病気相談』常駐

ヤマ王 26歳男性 『鉱業相談』、『林業相談』常駐

ヒモノ 27歳女性 『海産相談』常駐

エンドウ 23歳女性 『農業相談』常駐

何となく、4人ともが『あ、この人たちが参加者だ』と察して自然に集まってきたのである。

最初はこの中の誰かが子爵様かと思ったが、どうやら全員招待客らしかった。そして1259 50秒

「皆さん、ようこそお集まり戴きました。ミツハ・フォン・ヤマノ子爵です」

「「「美少女、キタ~~~!!」」」

面識のある、マッコイこと、医師の西村修平以外の3人が奇声をあげた。

「ここにお集まり戴いた理由は、いつも人が殆どいないこと、そして大型遊具で視界が遮られる空間が多いということです」

そう言って、ミツハはみんなを遊具の陰へと誘導する。マッコイだけはこれから起こることが予想出来ていたが、他の3人は意味が分からず半信半疑でミツハの後に続く。そして皆の姿が遊具の陰に完全に隠れた時。

そこには誰もおらず、ただ弱い風が吹くのみであった。

「ようこそ、我がヤマノ子爵領へ!」

「「「えええええええ~~~っ!」」」

まさかの本当の子爵領行きに大騒ぎの3人であったが、次第に落ち着き、ミツハに訊ねた。

「も、もしかして、私がアドバイスして計画されたあれ、あの新方式の水田と畑、本当にここにあるんですか! 報告の通りの状況で、CG写真のままの姿で!」

「写真はCGじゃなく普通のデジカメで撮ったやつですけど、ええ、山側の平野部に……」

「ふ、フネ! 小型万能網漁船は!」

「試作中ですけど、漁村の仮設造船場に。ちょっと行き詰まってまして……」

「何が問題なの! フネはどこ! どこにあるのよ!!」

興奮につばを飛ばしてミツハに掴みかかる女性陣。それに対し、男性陣は。

「はは……。僕の担当の方は、鉱山があるわけじゃなし、木材加工も大きな機械がないと難しいし……」

ヤマ王、こと青木智也の肩をぽんぽんと叩いてやるマッコイ、西村修平。

その時、遅れる母親を置いて駆け寄ってきた幼い少女が、マッコイの足に飛びついてぎゅっとしがみついた。

「え? 何を…」

驚くマッコイに、ミツハが微笑みながら告げた。

「マルグリットちゃん。あなたが救った命ですよ、ドクター・マッコイ」

ようやく追いついた母親が、マッコイに何度も頭を下げた。

「ああ……」

マッコイの顔が上方を向く。

「あああ………」

その頬に、涙が伝い。

「あああああああ!」

しゃがみこみ、少女を抱き締める。

娘。助けられなかった、私の娘………

マッコイの嗚咽が続く。

「え? 何もないの、僕だけ?」

落ち込むヤマ王。

「ヤマ王さん、今から山へ行って、鉱石探査と木材調査をお願いします」

「ええ!」

「炭焼き小屋とたたら製鉄とかができないか、も」

「えええ!」

「玉鋼、ってのも」

「えええええ!」

遠方の者のことを考えて昼過ぎ集合、昼過ぎ解散で計画したため、夕暮れになるのは早かった。田畑を走り回って問題点を調べるエンドウ、造船が頓挫している新型船を前にミツハの通訳で怒鳴りまくるヒモノ、あの体重120キロの肉屋のボリスのところへ通訳のミツハを連れて殴り込むマッコイ。ヒモノにはまだ海産物加工の確認と貝類、海藻類で見込みのありそうなものを見て貰わなければならない。そしてヤマ王は山へ。

もう完全に真っ暗になった頃、ようやく5人は子爵邸へと帰還した。

風呂にはいり、出された衣服に着替えると、懇親会が始まった。お酒を口にするミツハを見て皆が止めようとするが、ミツハは『ここでは15で成人ですよ』と主張して引かないのでやむなく引き下がった。この様子ではどうせいつも飲んでいるのだろう、と。

領地を直に目にした面々は燃えていた。今日の調査結果について激論を交わし、笑い、そのうち酔いが回って潰れていく。飲んで騒ぐからである。

その中で、マッコイは何か考え込むような顔で静かに杯を重ねていた。

マッコイが考え事をしているのは分かっていたが、ミツハはこの機会に是非医師に聞いておきたい事があったためマッコイに近付き話しかけた。

「ドクター、ちょっといいですか」

「ああ、何かな」

マッコイはミツハの方に向き直る。

「あの、もしも『あらゆる傷が、ゆっくりだけど絶対に完全に治る。部位欠損も治る』ってことがあったら、それって、ただ怪我が治ると言うこと以外に何か意味があるんでしょうか?」

実は、ミツハには最近気になることがあったのだ。

マッコイは少し酔いが回った頭で考えた。いつもと違い、酔った頭は突拍子もないことを考える。

「う~ん、何でも完全に治る? それって、酸素による劣化も、DNA転写のコピー劣化も、テロメアの長さの欠損も、全部、なんでも? それって、老化しないということかな? 首切っても身体生えてくるのかな? はは……」

ぱたり、とミツハは倒れた。

「子供がお酒を呑むから……」

マッコイはあきれた目で倒れたミツハを眺めていた。

うなされるように呟くミツハ。

「う~ん、老後の資金、8万枚じゃ足りないかも……」

え、ショックなの、そこ? そこだけなの?

それに、『老後』なの、それって……

ミツハは、しばらく前から『自分が全く成長していないのではないか』と思い始めていた。

いくら18歳で身長等がもう成長望み薄、とは言っても、まだ多少は伸びてもいいはず。また、多少は成長が期待できるところもあったはずである。胸とか、胸とか、胸とか…。

それが、全く、1ミリも成長する気配がない。嫌な予感がしてマッコイに聞いてみたところ、あの回答である。

いや、あれはただの推測に過ぎない。まだだ! まだ、慌てるような時間じゃない!

まぁ、本当は、もう成長しないかな、と17で身長止まった時に覚悟したから、あんまり気にはならない。逆に、ずっと若さが続くなら、別にいいよね。永久に死ねない、なんてことはないんだから。多分、首を落とせば死ぬし、心臓を突いても死ぬし、溶鉱炉に落ちても死ぬだろう。

深く考えても仕方無い。生きるのに飽きるまで、楽しくやろう。

それに、そのうち『それ』も会いに来るかも知れないし。

朝。

みんな、頭が痛く、気持ち悪い。ミツハ以外。

二日酔いも回復の対象? 病気もかな。

2日目は昼過ぎに王都へ行く予定。それまでに、みんなそれぞれここでやっておくこと、済ませておくように。

1300

支給した『王都で目立たない服』に着替え、王都のお店に転移。

いや、とっくに営業再開してるよ! 開店日は少ないけど。

昼食はまだ食べてない。あそこへ行くからね。

ということで、やって来ました『楽園亭』。

ミツハの母国から友人達が遊びに来ると聞いて、本場の人に自分のヤマノ料理が通用するか挑みたいと、アネル君、アリーナさん、ベルントさんに加え、マルセルさんまでもが参加しての、貸し切り営業。

みんなは『え~、せっかく異世界に来たのに普通の地球の料理?』とご不満のようだけど、まぁ1食くらいいいでしょ。夕食はこちらの料理にするから。

で、なぜ居る、サビーネちゃん。ボーゼス家総員。王様と宰相。そして一の姫様。特に最後の人!

仕方無く、一応みんなに紹介した。

「ミツハちゃん、子爵よね? なんか、伯爵様一家が家族扱いしてたり、お姫様とタメ口っぽく話したりしてるような気がするんだけど。それと、王様とかが……」

「お願い、聞かないで……」

農業担当のエンドウの不思議そうな言葉に、ミツハは頭を抱えた。

料理は、みんなから合格点を貰い、料理人一同嬉し泣きしていた。

王都見物。これはただの観光なんだけど、もしカネ儲けのネタに気付いたらすぐに申告するよう言ってある。

「ねぇ、どうして街のみんながミツハちゃんにキラキラした眼で手を振ったり叫んで来たりするの? アレ、何て言ってるの?」

「お願い、聞かないで……」

正直言って、王都にはあまり見るべきものはない。目玉は王宮だが、王宮にはいるわけには行かないし、他には地球の名所を写真やテレビ、ネット等で見慣れている我々にとっては、西欧にありがちな古い石畳、古いレンガ造りの建物でしかない。ま、防壁くらいかなぁ。

…と思っていたら、『いいぞ。王宮、案内してやろう』って、王族ぅ~!

夕食は、再び『楽園亭』で、今度はギンギンの王国料理。

と言っても、あまり珍しいものでもなく……。漫画みたいに、ドラゴンのステーキとか……、って、今なら地球の方が食べられる可能性高いのでは。冷凍保存してるよね、多分。

また酔いが回った頃、今度はマッコイさんが私のところに来た。なにやら真剣な顔。

「子爵様、私がこの世界にずっと住む、ということは可能だろうか」

う~ん、何やら考え込んでいると思えば…。

「うん、可能か不可能か、といえば、可能。でも、私がいつ死ぬか、いつ転移の力を失うか分からないよ。もしこの世界にひとり取り残されたら? 医術で人々を、って思っても、医療設備も薬も何も無い状態で何が出来るの?

言葉もこれから覚えなきゃならないし、高度なことは該当する言葉がこちらにないから話が伝わらないよ。ドクター、中世の人に言葉だけでCTスキャンの説明ができる? その人が知っていて理解できる言葉しか使わずに」

マッコイさんはまた考え込みつつ私から離れて行った。

うん、意地悪だったかな。私がマッコイさんより早く死ぬという確率は低いし、多分転移の力は無くなることはない。

でも、可能性はゼロではないし、人生設計の全てを私の存在とその転移能力をアテにして立てられても困る。私自身でさえ、転移を失うという万一の事態をも考慮して安全策を立てているのだ。それが『金貨8万枚貯めて老後を安泰に暮らそう計画』なのだから。

酔った足でみんなでお店に戻り、連続転移で子爵邸に戻った。

いや、宿なんか取らないし、お店の3階はプライベートスペースだからね。

あ、王都に着いた時はすぐにお店から出たけど、帰りにお店の売り場をじっくり見られた。

『高けぇ~!』、『何と言う暴利!!』、『狂気の値付け』、『品揃えの悪魔』、って、ボロカス言われた。

う、うるさいわ!!

翌朝は、みんなかなり遅くまで寝てた。まぁ、あとは帰るだけだから。

来た時の服は、王都に行っている間に綺麗に洗濯してあった。それに着替えて、遅めのブランチ、朝食兼昼食を摂る。あとはみんなぎりぎりまで最後の追い込み。

フネが~ たんぼが~ 残念!これは私の黄鉄鉱さまだ!

まっこい、ぎゅ~!

月曜1300 某デパート屋上 遊戯ランド

旅は終わった。

人々は、元の世界、元の生活へと戻る。