軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

282 掃 除 5

「ミツハ様、街におかしな噂が流れています……」

翌日の昼過ぎにラルシア貿易に顔を出すと、ラルシアがそんなことを言ってきた。

「……おかしな噂?」

出された紅茶に口を付け、そう問い返すと……。

「はい。何でも、昨夜警備隊本部に魔物が現れたとかで……」

ぶふううぅ~っ!

げほげほげほ!!

「だ、大丈夫ですか、ミツハ様!」

「あ、いや、ごめん……」

思い切り紅茶を吹き出して、ラルシアにモロに浴びせかけた。

なのに文句も言わずに、咳き込む私の心配をしてくれている。

ええ子やぁ……。

しかし、ほんの一瞬で姿を消したから、見間違いだとか寝惚けていたとか思って、上へは報告しないと思っていたんだけどなあ……。

証拠もないし、嘘吐き扱いされたり、サボって寝ていたんだろうとか、正気を疑われたりするだけだと思って、自分の心の中にしまっておくだろうと思ったんだけどな。クソ真面目な者に当たっちゃったか……。

「それで、その魔物は11~12歳くらいの男の子の体形で、眼が大きく突き出ていたとか……」

「え?」

今、何か聞き捨てならない単語があったような気が……。

「ど、どんな体形だって?」

思わず聞き返してしまった。

そして、ラルシアの返事は……。

「はい、11~12歳くらいの男の子みたいだったそうです。

魔物を発見した警備兵は、ゆっくり観察する暇もなく即座に剣を抜いて斬り掛かったため上半身しか眼に入らなかったそうですけど、服は着ておらず、乾いた土のような色の裸だったとのことで、間違いないとか……」

「……」

「あれ? どうかされましたか?」

「…………」

「あの……、ミツハ様?」

「………………」

「ど、どどど、どうかなさいましたか?」

「……潰す」

あ、いや、勿論、警備隊の全員が悪党だとは思っていない。賄賂を貰っていい思いをしているのは、一部の上級者だけだろう。大半の者は、王都民のために安月給で危険な任務に励んでいる、尊敬すべき人達なのだろうとは思う。

だから、潰すのは悪い奴だけで、真面目に働いている者には累が及ばないようにするつもりだったのだ。

……しかし、私のレオタード姿を見て『裸の男の子』と報告した奴。てめーは駄目だ!!

* *

結局、警備隊本部への録音器設置は、あのままにした。

予定より2個ほど設置数が少ないけれど、いいネタが期待できそうなところには設置済みだから、それでいいことにしたのだ。

昨日のことがあるから、もしかすると警戒されているかもしれないし、罠が仕掛けられている可能性もある。床下や天井裏、衣装ダンスの中とかに人を忍ばせていたり……。

重要度が低いところ2カ所に録音器を追加することによるメリットと較べると、費用対効果、リスク&リターンが悪すぎる。ここは、このまま放置一択だ。

仕掛けた録音器が見つかる確率は低いだろう。

多分、重要書類を納めた金庫の中身とかは大慌てで確認しただろうけど、怪しい者が侵入して何かを盗んでいくならばともかく、まさか 土産(みやげ) を置いていくなどとは思いもしないだろうから、見つかりにくいところに貼り付けられた超小型録音器には気付かないだろう。

ま、もし見つかったとしても、問題はないけどね。たかが1個5000円弱だ。

……あ、外部マイク付きのやつは、もう少し高くつくけど……。

しかし、見つかったのが警備隊本部だったのは、不幸中の幸いか……。

もしこれがどこかの商家だったなら、全ての商家が危機感を覚えて警戒し、不寝番とか警備員による夜間の巡回とかを始めた可能性もある。

でも、事件が起こったのが警備隊本部なら、商家は関係ない。なので特に警備が強化されることもないだろう。

だから、やりにくくなった警備隊は録音器の回収を後回しにして長時間録音、その間に商家の方の調査を進めよう。

うん、安全第一。

今は、同定作業を行う段階だ。相手にバレないように……。

誰が敵で、誰が味方か。

横への広がり。

上への伸び。

そして全てを把握した時、……アレが悪人共の元へと現れるのだ。

『悪い子は居ねが~!』

悪事を 諌(いさ) め、災いを 祓(はら) いにやってくる来訪神。

ひとつ、この世界にもお出ましいただこう。

* *

「……というわけで、お願いね!」

「またなの?」

「前回より増えてるじゃないの!」

商家から回収してきた録音器の山を、コレットちゃんとサビーネちゃんの方へ、ずいっと押しやったところ、文句を言われた。

うん、まあ、前回より大幅に増えてるからねぇ……。

「大丈夫、1個当たりの録音期間は増えてるから」

「「どこが『大丈夫』なのよっ!!」」

うむうむ、息があってきたね!

「まだ、あと数回ある予定なので、安心だよ」

「「だから、どこが『安心』なのよっ!!」」

よしよし、もはやふたりは一心同体!

「コレットちゃんを(心の中が)ホワイト、サビーネちゃんを(腹の中が)ブラックと名付けよう!」

「うるさいわよっ!」

「あ、コレットちゃんとのシンクロが乱れた……」

「誤魔化そうとしても駄目! 仕方ないから仕事は引き受けるけど、報酬はちゃんと貰うからね!」

うん、サビーネちゃんは、何やかや言っても、私が本当に困っている時には助けてくれる。

勿論、コレットちゃんも。

……そして、きっちりと報酬は要求する。いつものように……。

「あ、あの、前回渡したやつで……」

「駄目! あれは、あの時の分! 今回は新規の依頼でしょう?」

「ぐっ……」

マズい……。

コレットちゃんの『我が儘を1回通してもらえる券』はともかく、これ以上サビーネちゃんに『指定したミツハの母国の便利道具をひとつ貰える券』を与えるわけにはいかない。

しかも、録音内容確認の仕事は、あと数回は続きそうなんだよねぇ……。

しかし、お金やそれに類する報酬は絶対に受け取らないからなぁ、このふたり……。

何か、いい報酬はないかなぁ。

商家関係は今回で終了して、あとは警備隊と『その上』だけに絞るかなぁ……。