軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26 ならば戦争だ!

「戦争だ」

サビーネ便でミツハを呼び出した王様は、いきなりそう言った。

何を唐突に……。

「だから、サビーネを連れて他国に避難して欲しい」

あぁ、そういうことか。

「だが断る!」

王様と宰相さま、口をあんぐり。

「だって、せっかく大金を投じて苦労して作り上げたお店ですよ。捨てるのは最後の最後の手段です」

「いや、念のための避難であって、戦争が終わればすぐに戻れるのだ」

「そうならない可能性があるからの避難なんでしょ?」

ミツハの言葉に、王様は黙り込む。

「とにかく、店は自分で守ります。いざとなったら、店ごと自爆です」

「自爆? 何だそれは」

あ、爆弾がないから、自爆って通じないか。自滅とは違うし。

自爆って言っても、自殺する気はないよ。店ごといったん地球の無人地帯にでも転移して、こっちのどこかの国で土地を入手して再転移、とか。

出来るよ、店ごとの転移くらい。簡単だよ。それを、店ごと消滅して死んだように見せかけるだけだよ。だから、ぎりぎりまで粘っても大丈夫。情報が伝わるのがすごく遅いし写真もないし、遠くの国で別の名前使えばバレないよ、多分。

数年も経てば、もうとっくに成長してると思われて年齢が合わないから安全圏。残念でした、これ以上成長しませんよ、もう18歳だから。

結局、断って帰った。戦争とかには関わりたくない。

うん、でも万一の時はサビーネちゃんは何とかしよう。順応力の高いサビーネちゃんならどこででもやって行けるだろう。他国でも、地球でも。

お店に戻り、色々と考えた。お客さんは来ない。既に戦争の話が流れているのだろう。秘密にすることは出来ないし、意味もない。なにせ大勢の常備兵を動かしたり、非常備兵に招集をかけたり、食料を始め様々な軍需物資を集めたりと、隠せるはずがない。

しばらく前に社交シーズンは終わり、貴族の多くは領地へと戻っている。ベアトリスちゃんも、嫌々ながら伯爵様たちと一緒に戻って行った。領の経営を息子や部下等に任せている貴族や、領地がない法衣貴族等は王都に定住しているが。そして兵力の招集には時間がかかる。

王様の話によると、きな臭いと思ってはいたがまさかそんなに早く隣国が行動に移すとは思ってもいなかったそうである。兵力的にも財政的にも、まだあと数年は現状が続くと見込んでいたらしい。互いにそう困窮したり切羽詰まっていたわけでもなかった。充分な勝算も無く、いったいどういうつもりで、と疑問に思っていたとのこと。

しかし、そこにもたらされた驚くべき情報。隣国は、なんと魔物を兵力の一部に加えているらしい。そして、国境付近に領地を持つ貴族数名の裏切り。本来ならば敵を食い止めて時間を稼ぎ自国の兵の招集を助けるはずの国境近くの領主が裏切ったため敵兵は抵抗に会うことなく僅かな時間で進軍、その後事前情報もなく突然攻め込まれてろくに抵抗もできない地方領主軍を蹴散らしつつ急速に王都に迫って来ているらしい。

馬も人間も次々に取り替えての急使便で各地に命令書を送っているが、ごく近くの領主軍が敵の前方に立ち塞がるのが精一杯、王都を守備するための軍は間に合いそうになかった。裏切りはともかく、意思の疎通もできない魔物がなぜ隣国の軍と行動を共にしているかは理解不能、とのこと。

う~ん、絶望的なのでは? 詰んでるよね、もう。ツンデレならまだしも。

あ、ボーゼス伯爵領は敵軍の進行とは反対側。国の一番端の海に面したところだから、一応安全というか、間に合わないというか…。

軍の進行速度は乗合馬車よりずっと遅いけど、それでも敵軍は王都まであと少しらしい。まぁ、監視員からの情報が来るのにも時間がかかるから仕方ないのか。う~ん………。

よし、決めた。王宮に行こう。何かあれば地球経由の転移ですぐに戻って来れるし。とにかく情報が大事。それにサビーネちゃんの側についていてあげたいし。完全装備で行くよ。

防刃ベストに銃3丁。ナイフに短剣、予備弾倉。お店の防犯システムは絶対防衛モードに設定。誰かが建物にはいったら狼煙や花火が上がって、私が王都中のどこにいてもすぐに判るよ。よし、出発!

王宮に着いたら、なんか簡単に入れて貰えた。え、そんなんでいいの?

あ、私の顔を覚えているし、王様から私が来たら通すよう指示が出てますか、そうですか。ありがたく素通りさせて貰い、中へ。

いや、王様のところへは行かないよ。さっき会ってからあまり時間が経っていないし、忙しくて大変だろうから。

とりあえずサビーネちゃんを探す。と言っても見つからないよね、誰かに聞かないと。王宮でうろうろして王女様の居場所を探すなんて、不審者以外の何者でもないね、うん。聞きづらいよ。

うろうろしていたら、宰相さんに捕まった。

やっぱり王様は忙しいらしい。サビーネちゃんのところに案内して貰おうと思ったのに、なにやらの会議に出てみないかと言われて無理矢理どこかへ連行された。それって『出てみないか』じゃないよね、『出ろ』だよね! で、私が出て面白い会議ってなに? 商売関係? 物資の購入とかかな。

軍事会議ですか、そうですか。

連れて来られた会議室。二十数人が前の方を向いて簡易椅子に座っており、前の方には長テーブル置いてこちら向きに座った偉い人が数人。え、そんな前に引っ張って行くの? 一番後ろでいいって! ほら、偉い人がガン見してるよ。

「宰相、その少女は?」

ほら。

「この子が、あのミツハ殿です」

「ああ、あの…」

いや、『あの』ってなに、『あの』って。いったい何を聞いてるの?

「ミツハ!」

突然立ち上がり駆け寄って来る男。がばっと両腕を開いて…、抱きつかせないよ!

どすっ!

うん、まともにはいったね。隊長さんの御指導の賜物。

腹にボディブローを喰らい崩れ落ちる男…って、あれ、アレクシス様だよ。

「ひ、酷い……」

列席者に笑われながら、涙目で抗議するアレクシス様。

いつ人前で抱き合うような仲になったっていうの? いや、人前でなくてもだけど。

何でも、急使便を受け取ったボーゼス伯爵は直ちに兵の準備にかかり、長男のアレクシス様を情報収集と連絡要員として領主代行の肩書きをつけて先に王都へ向かわせたらしい。おお、責任重大だ。だからこんな会議に出てるのか。それもかなりの前の方の席。伯爵領の代表だものね。

移動は早馬を乗り継ぎ僅か3日、着いた時はへろへろだったとか。伯爵率いる本隊はあと7日はかかる予定。まぁ、重装備での徒歩移動だものね、それでも早いほうか。俗に言うところの『強行軍』ってやつかな。かなり無理するやつ。

結局、かなり前の方に座らされ、会議が始まった。いや、流石に中央付近じゃなく端っこの方だよ。

現状報告、最新情報の摺り合わせ、敵の動向予測等、次々と議題が進んでいく。敵は明日の夜には王都に到着。その後休息を取り、明後日の夜明けと共に王都攻略を開始すると思われた。

敵兵約2万。うち3千がゴブリン、オーク、オーガ、その他の『魔物』。味方は約2千。時間稼ぎのため出撃した兵力はもう数には数えられないだろう。

やはり作戦は籠城。各地から領主軍が駆けつけるまで王都軍と衛兵隊、親衛隊、傭兵達で王都を守り抜く。総指揮官は前にいるお偉いさん達の真ん中、アイブリンガー侯爵。

初老に近い年齢だが歴戦の勇士、父親から爵位を受け継ぐまでは最前線で大きな両手剣を振り回していたという武闘派で皆の信頼も厚く、他の指揮官は考えられないとまで言われているらしい。

具体的な配置を割り振っている時、かなり疲れた様子の兵士が警備の兵に案内されて室内に通された。鉄の鎧で左腰にはショートソード。

「伝令です! 敵軍の状況を報告致します!」

大声で申告し、肩から提げた大きめの皮鞄をあけて手を入れる。

ミツハの身体が勝手に動いた。椅子から立ち上がり、アイブリンガー侯爵の前へ飛び出す。まずは身体が動き思考はあとからついて来る。

『変だおかしい長距離伝令なら軽装の皮鎧報告書なら身につけて邪魔な荷物はなしに偉い人の前で緊張にしては血走り過ぎた眼大きすぎる鞄持ち難いのに固い皮の視線が獲物を見る眼銃撃ったら後ろの人にあたるああ馬鹿自分が死んじゃうでも侯爵死んだら混乱止めなきゃ防刃じゃなく防弾ケブラーだったか痛恨のああぁ』

ハンドボールのキーパーのように自らの身体で全てを受け止める態勢をとったミツハ。

勝手に動いた身体だが、後悔はなかった。多分、ゆっくり考えても結果は同じだっただろうから。だって、自分はミツハ。山野光波なのだから!

伝令兵が鞄から取り出した小型の連装弓、ボウガンに似た形状で5本の矢を一度に発射できる特殊な造りのそれを構え発射する寸前、ミツハの前に誰かが飛び出した。

ドンっ!

左肩に走る灼熱感と衝撃に、ミツハは後ろに倒れ込んだ。そしてその身体に倒れかかる男。その男の右肩と腹部に突き刺さった小型の矢弾。

矢弾が標的に届かなかったと知った暗殺者は、ショートソードを抜き放って侯爵に向かって一直線に走り寄る。城内であり狭い会議室の簡易椅子ということもあって剣を外している者が多く、また誰も咄嗟に反応できなかった。

ミツハは右手で93Rを抜き、震える左手を添えて前に突き出す。左肩には激しい灼熱感があるが、アドレナリンかドーパミンかが脳内でドパドパ溢れているのか痛みは感じない。ただ左腕の震えは止まらない。床に仰向けに倒れたミツハ。ショートソードを振りかぶり走り寄る暗殺者。角度的に、外れた銃弾は天井に当たる。大丈夫!

パパパン、パパパン、パパパン!

3連射の銃声が3回続き、暗殺者の身体が後ろへ倒れた。

静まり返る室内。誰も喋らず、誰も動かない。

「……ミツハ、キミの、騎士として、ご、合格かな………」

「アレクシスさま!!」

弱々しく喋るアレクシス。

「……駄目ですね。ダメダメです!」

「「「「「えええええ!!」」」」」

部屋中の男達が心の中で突っ込んだ。

((((あれでダメなのぉ!!))))

「ほら、これ! 私の左肩に1本刺さってるじゃないですか。不合格です」

「はは…」

力なく項垂れるアレクシス。

「でも、ま、努力は認めます。不合格であって、失格じゃないですから。次回に期待しましょう」

「次回、か……」

「はい、次回、ですね」

(((そう持ってくるか!!!)))

みんなが感心する。

しかし、ベテラン達には判っていた。次回はないということを。

右肩はいい。しかし、あの腹の傷。今は大丈夫でも、あの腹の傷は腐る。あの勇気ある若者は、数日後には苦しみながら死んでゆくのだと。実に惜しいことだ…。

若者は、痛みのためか、眼を閉じた。

「あは」

「あは、あはははははははははは!」

突然笑い出したミツハに、皆がぎょっとする。

(恐怖と悲しみのあまり、狂ったか!)

「自重したんだよ。私、自重してたんだ」

何を言っている?

「この世界の進歩を狂わせないように。真面目な人が割を喰わないように。そりゃ、少しはやり過ぎたりもしたけれど、一応は結構自重してたんだよ。その結果が、これか……。死にそうになって、身近な人も守れず、これか……」

言っていることは意味がよく分からないが、後悔しているのか?

「やめた。もうやめた~! もう、自重するのやめた~~!!

私の本気を、見せてやる!」

「アイブリンガー侯爵、明後日の夜明けまでには戻ります。明日の夜以降、中庭には物を置かず、人も立ち入らせないようお願いします」

「あ、ああ、それは別に構わないが……。一体何をするつもりかね?」

侯爵の問いに、ミツハは答えた。

「用意します、無敵の軍勢を。そして明後日の夜明け、敵軍の兵士達は知ることになるでしょう」

ミツハはにたりと笑った。

「恐怖と絶望という言葉の、本当の意味を。そして、地獄はこの世にあるのだということを」

次の瞬間、ミツハの姿が消えた。勇気ある若者と共に。

どん!

傭兵団ウルフファングのホームベース。このあたりは土地代が安いため、かなりの広さがある。その端に建てられた2階建ての建物の一室、娯楽室。紙巻きタバコを咥えビリヤードに興じていた隊長は、キューを構えた姿勢のまま眼を見開いて硬直していた。

突然ビリヤード台の数十センチ上の空中に現れ、そのまま台に落下してのたうち回る、若い男を抱き締めた、最近のお得意様のお嬢ちゃんの血塗れの姿を見て。

「いだ、いだだだだだ! 球が! 球が食い込んでえぇ!」

そうか、その、肩に刺さってるやつより痛かったか……。

「医者を。私の盾となったの、死なせないで」

若いヤツにアゴで合図する。すぐに医者の手配を始めるヤツ、応急処置で止血するヤツと、手分けして動く。矢は抜くと出血するから抜かない。鏃がどうなっているかも判らないしな。まぁ、身体張って嬢ちゃんの命を守ったってんなら何とかしてやるさ。みんなもそう思ってるだろうしな。

ただ、1本通したってのは戴けねぇ。嬢ちゃんに怪我させやがって。あとでシメるか。

他の奴らも集まってきた。

「隊長さん。しばらく大きな仕事ははいってないって言ってたよね」

「ああ」

嬢ちゃんは不敵な笑みを浮かべて言った。

「傭兵団ウルフファング全員を雇いたいと思います。出撃は明後日の夜明け前。敵は約2万、魔物を含みます。支払いは最低保障金貨4万枚、場合によっては上積みあり。受けて戴けますか?」

がちゃん

誰かグラスを落としやがった。肝のちいせぇヤツだ。

渇く喉を潤そうとしたら、手の中に何もない。

なんだ、落としたの、オレかよ。

「んで、何だ、嬢ちゃん」

「うん、何?」

「まずは、病院行ってその矢を抜こうな」