軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

227 真の支配者

「感謝する」

『ソサエティー』の 会合(おちゃかい) で、ネレーアちゃんがそんなことを言ってきた。

出奔未遂事件から一週間。その間に『船魂作戦』を遂行していたわけだけど、その前に、ちゃんとフォローしておいたのだ。

ネレーアちゃんがミッチェル侯爵邸から王宮へと戻ったすぐ後、手紙を書いて王宮へ届けさせたのである。宛名は、『ネレーア・ド・ウェクター女子爵』。

勿論、王宮で手紙の処理を担当している者たちは全員、王族やその他の王宮関係者達の別名義や複数爵位は完全に把握しているので、手紙はちゃんと第三王女へと届けられたはず。差出人がみっちゃん、つまり侯爵家御令嬢なんだから、無下に扱われるはずがない。

そして、無事届いたということは、今のネレーアちゃんの言葉で証明されたわけだ。

あの日、ネレーアちゃんが立ち去ると同時にみっちゃんと緊急会議、その場で手紙を書いて、みっちゃんちの者にすぐに届けさせたのだ。『大急ぎ』と赤ペンで記入して。

それが王宮でどれだけ考慮されるかは知らないけれど、少しでもネレーアちゃんが責められる時間が短くなれば、との、私達ふたりからの精一杯の心遣いだったんだけど……。

手紙の内容は、ネレーア・ド・ウェクター女子爵の家族構成の調査に不備があったこと、そのため、再調査の結果確認された女性家族、つまり母親と姉ふたりの分が購入割り当てに追加される、ということのお知らせである。

……これで、ネレーアちゃんの家庭問題は解決し、家出の必要はなくなるはずだ。

事実、ネレーアちゃんはそのまま王宮にいるらしいから、解決したのだろう。

実は、元々、王様一家をヤマノ子爵領からの輸入品販売先から締め出すつもりはなかったんだ。

そりゃ、ふざけた真似をしてくれた貴族連中は締め出したけど、結局王様は色々と手を回して入手するに決まってるから。

そして、その分、誰かが割を食うわけだ。

まぁ、そういうことをやっていれば王様の信望が落ちていくだろうけど、私は別に王家による支配体制を転覆させたいわけじゃない。

トップが代わっても、この国が軍事力で弱小国を侵略するという方向性が変わるわけじゃない。それどころか、簒奪やクーデターで無理矢理政権を奪取した場合、財界や軍部の機嫌取りや民衆の眼を逸らさせるために他国への侵略をますます進める可能性がある。

そして勿論、楽に搾取することができる新天地を求めての、探検船団の派遣とかも……。

廃艦寸前の老朽艦と乗員の命の喪失を何とも思わないのであれば。そして遺族に補償も何もしないのであれば、生還の確率が低い旅に海軍の兵士達を送り出すデメリットよりも、自分達の支持率が上がるというメリットの方が遥かに大きいだろう。……多分。

なので、コントロールしやすい状態、つまり安定した保守政権があって、そのトップが現状維持を望んでいる、というのが、私にとって都合がいいわけだ。

野心に燃えた成り上がり者がトップになった場合、このレベルの社会であれば、多分暴走する。そしてその結果は、地球の歴史書を読めば、大抵の予想は付く。

そういうわけで、王様一家は販売拒否リストに入れず、あの偽名……じゃないか、別爵位で名乗っている名前を拒否リストに入れただけだったんだ。そうすれば、王様は本来の名義で普通に買えるだろうと思って。

さすがに、あの別名義であるウォンレード伯爵とエフレッド子爵を拒否リストに入れないのは明らかに不自然だから、そこは外さざるを得なかったけど……。

そうしたら、各商店が気を回して、『ウォンレード伯爵とエフレッド子爵』である王様と王太子を自分達の拒否リストに加えちゃったんだよねぇ。その関係者も含めて……。

私達があのふたりの正体を知っていて拒否リストに入れたと思い、万一自分達が指示に違反していると判断されて拒否リストに加えられたら、と考えて、とてもそんな危険は冒せない、ってことになったのだろうけど……。

ま、その後、王妃様と姉姫様ふたりが少々問題のあるやり方でレフィリア貿易に対して化粧品の販売を強要したというのはアレだけど、王妃と王女が貴族家の夫人や娘達に大きく後れを取る、しかも美貌において、というのは許容できなかったのであろう。

……その気持ちは、よく理解できる。少なくとも、情状酌量の余地がある、と考えるくらいには。

なので、ネレーアちゃんに送った手紙に、『王妃様達が反省するのであれば』という条件付きで、あの温情措置を取ってもいい、と書いておいたのだ。

そのあたりのこともあって、多分ネレーアちゃんがメチャクチャ恩着せがましく説明して反省を促したのだろう。

全ては自分のおかげである、とか吹きまくって。

……鬼やな。

「現在、貴族や軍部、その他の国民達も皆、とうさまには頭が上がらない」

うん、ネレーアちゃんがそんなことを言い出したけど、あなたの『とうさま』って国王陛下なんだから、当たり前だよね、それって……。

「で、とうさまは、かあさまには頭が上がらない」

お……、おぅ。まぁ、そういうことはよくあるよね、普通の家庭でも……。

「そして今、かあさまも姉様達も、私には頭が上がらない……」

え?

「そして今、私はミツハちゃんとミシュリーヌちゃんには頭が上がらない……」

ええ?

「そ、それって……」

「事実上、ミツハちゃんとミシュリーヌちゃんがこの国を支配しているということに……」

「「なるかああああぁ~~っっ!!」」

私と、隣で話を聞いていたみっちゃんの声が揃った。

「陛下が、家庭内でのヒエラルキーと国政をごっちゃにしたり、公私混同したりするもんですか!」

みっちゃん、激おこ。

まぁ、上級貴族家の子弟としては、王族にそんな認識でいられては堪ったもんじゃないか。

しかも、ネレーアちゃんは本気で言ってるのか冗談なのかが全然読めないというところが、タチが悪い。

そして、何となく本気で言っているような気がするのが、更に最悪だ。

とにかく、ちょっと釘を刺しておこう。

「ネレーアちゃん、あなたは『ウェクター女子爵』だからね。そして、母親と、ふたりのお姉さんがいる。もしその人達が、私達やレフィリア貿易に対して『別の家名を名乗った』場合、それはもうウェクター女子爵の家族ではなく別の家の人だから、優遇の対象外になるよ?

そして、『ソサエティー』の会員資格を持っているのは『ネレーア・ド・ウェクター女子爵』であって、第三王女殿下とかいう『私達の知らない人』じゃないからね?」

真面目な顔で私がそう言い放つと、ネレーアちゃんは焦った顔でこくこくと必死で頷いていた。

うん、ここでは自分はあくまでも『ネレーア・ド・ウェクター女子爵』であり、その他の身分を口にするとマズいことになる、ということを理解してくれたようだ。

少々変わり者で 傍若無人(ぼうじゃくぶじん) だけど、決して頭が悪いわけではなく、そして悪い人でもないのだろう。……ただ、少しアレなだけで……。

そして王家に、不和の種というのも生易しい、血の雨が降りそうな揉め事が起こるのを防ぐために女性陣には温情を掛けたが、さすがに男性陣に対しては、国王と王太子にも、そしてウォンレード伯爵とエフレッド子爵にも、そんな温情を掛けるつもりは全くない。

……別に、それが原因で家庭不和になるとかいう心配はないからね。

化粧品以外なら、そう無茶をして無理矢理手に入れようとすることもないだろう。

「……あの、弟用にスイーツと 折り畳み(フォールディング) ナイフを購入したいのですけど……」

何だか、やけに 下手(したて) に出て、そんなことを言い出したネレーアちゃん。

さすがに、変わり者ではあっても弟は可愛いか……。

「「承認!」」

私とみっちゃんの声が揃った。

みっちゃんも、『弟』という言葉には弱かったか……。

そして、ちょっと剣呑な会話が交わされていた私達を心配そうに眺めていた他のメンバー達も、話が纏まったらしいと判断したのか、それぞれ普通の会話を交わし始めた。

うん、ここは麗しき乙女達の社交場。

優雅にいこう、優雅にね!