軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

216 輸送商隊 2

「……な、何、を……」

ようやく、商人さんのひとりが再起動した。

しかし……。

「私は、輸送商隊がどのような行動をし、そして商隊の人達がどのような仕事を、どのような苦労を、そしてどのような生活をしているかを知り、改善すべきことがないかを考えるために、皆には煙たがられるのを承知で、今回の同行を父にねじ込んだのです。

なのに、特別扱いをされては、何の意味もないでしょう!

しかも、今回は行程を1日短縮するための試行として、今朝は夜明け前に出発したというのに、まさか私達にコース料理を食べさせるために時間を無駄にしたとかは言いませんよね?」

「あ……、う……」

蒼い顔の、商人さん。

うん、ベアトリスちゃんは、こういう子なんだ。

いつもは『ちょっと我が儘な、甘やかされて育った貴族のお嬢様』なんだけど、あのボーゼス伯爵様とイリス様の子供だよ? あのふたりと、優しく聡明なテオドール様、そして普段はお調子者だけど、いざという時にはカッコいい……、って、無し無し! 今の、無し!!

……アレクシス様達に囲まれて育ったんだ。そのあたりの、普通の我が儘お嬢様とは違うよ。

「じゃあ、私は、ええと……、そこの、あなた! あなたにお願いしますね。お皿とカップはそのままで、こちらへ!」

うへぇ、と、嫌そうな顔をしながらも、仕方ないか、というように、こっちへと歩いてきてくれた、34~35歳くらいの、渋いおじさま。

私は、別にコース料理でも良かったんだけど、この場面で、そういうわけにはいかないよねぇ。残念……。

「では、以後、私のために時間を無駄にしたり、余計なことはしないように。私も、皆と同じものを食べ、同じように生活しますので。

では……」

そう言って、さっさと先程の男性が置きっ放しにしている昼食のところへと歩いて行き、そこに座り込むベアトリスちゃん。

勿論、馬車での長旅に派手なドレスとかを着ているわけじゃなく、動きやすく丈夫な服なので、地面に座っても大丈夫だ。

私も、おじさまの分の昼食を回収して、ベアトリスちゃんのところへ。近くには、他の護衛の人達が呆気にとられたような顔をして座っている。

「さ、皆さん、食べましょう!」

そして、ベアトリスちゃんの言葉に、ようやくみんなが食事を始めたのだった……。

うん、さっき最初に商人さんが私達を呼んだ時、『ベアトリス様、どうぞこちらへ!』って言ってたよね。

そう、そういう扱いなんだ。

この商隊では、私より、ベアトリスちゃんの方が扱いが上。

いくら『雷の姫巫女様』とか女子爵様とか言ったって、所詮私は隣領の領主。

それに対してベアトリスちゃんは、彼らにとっては自領の領主様であり商隊の編成者であり積み荷の卸元であるボーゼス伯爵の、眼に入れても痛くないほど溺愛している娘なんだ。そして当然、この旅が終わった後、その詳細を伯爵様に報告することになる。

もしそこで、信頼できる誠実な商人として自分の名が挙げられれば。そして逆に、いけ好かない商人として、自分の名が語られれば。

……そりゃ、いくら機嫌を取っても銅貨1枚の得にもならない隣領の下級貴族なんか、優先順位が遥かに下になっても仕方ないだろう。

いや、勿論、無下に扱われているわけじゃない。私も一応、『救国の大英雄、雷の姫巫女様』なんだからね。

でも、先の条約締結のための大遠征とかで、私は馬車での旅には慣れていると思われているし、ベアトリスちゃんは、如何にもか弱そうな、ふわふわのお嬢様だから、みんなが必死で世話を焼こうとするのは仕方ない、うん。……私もお世話してあげたいし。

そういうわけで、護衛の男性ふたりと共に、憮然とした顔で席に着いていたふたりの商人も、仕方なく食事を始めた。

ま、可愛いベアトリスちゃんと歓談しながら楽しく食事をして、自分を売り込もうと思っていたのに、護衛のおじさま達との会食になっちゃったんじゃあ、ガッカリもするよね。ドンマイ!

そしてベアトリスちゃんは、護衛の人達に話し掛けて色々と質問をしている。ま、私とは馬車の中でずっと話せるから、今は私を無視して商隊の人達から色々な話を聞くことの方が優先されて当然だ。

確かにベアトリスちゃんは自分の楽しみのためもあってこの旅を希望したのだろうけど、決してただそれだけじゃない。きちんと、自分がやるべきことは弁えている。これは、ベアトリスちゃんに任された『重要な仕事』に関係することなのだから。

そして、『旅の間で一番辛いこと、面倒なことは何か』、『何か、改善して欲しいことはないか』、『護衛の数や人選について、どれくらいが適切だと思うか』というようなことを、あまり堅苦しい言い方ではなく、何も知らない少女の素朴な疑問、というような形で上手く聞き出すベアトリスちゃん。

……思っていたより、更に遣り手だったよ……。

「やっぱり、いくら安全そうだとは言っても、『万一』ってことがあるから、護衛はあんまり減らしたり経験の浅い者を安く雇うわけにもいかないかぁ……」

昼食後、出発した馬車の中でそんなことを言って考え込んでいるベアトリスちゃん。

「まぁ、少しの費用をケチったために大損、ってのは、よくあることだからね。しかも、それに取り返しの付かない『人の命』が含まれている場合は、安全係数は高めに取っておくべきだよね」

「う~ん、やっぱり、そうかぁ……」

私の返事に、色々と考え込んでるベアトリスちゃん。この子、こんなにしっかりしてたんだ……。

今まで私とは、仕事とは関係のない世間話や遊び、食べ歩きとかの話しかしなかったから、しっかりした子だとは知っていたけれど、ここまでとは思っていなかったよ。

私が14歳の時って、どうだった? 中学2年か3年の頃?

……完敗だぁ!

「そういえば……」

「ん、何?」

ベアトリスちゃんが、何やら話を振ってきた。

「来年の、私のデビュタント・ボール、ちゃんと計画してくれてるよね?」

ぎくり!

「確か、天空に咲く炎の華、ぴかぴか光る 山車(だし) によるパレード、出店や屋台、その他諸々を……」

ぎゃあああああ! 全然忘れてくれていない! それどころか、どうしてそんなに正確に覚えているのおおおおぉ!!

絶対に忘れてくれると思って、一時凌ぎで適当なことを言ったのにいいぃ……。

いかん、あと1年の間に、何とかしなきゃ。

* *

『サンダー軍曹、こちらホームワン、オーバー!』

ありゃ、無線呼び出しだ。

うん、勿論、10日近く領地を空けるんだから、緊急時のための準備はしてある。

特製馬車に 遠距離用(H F) 無線機とバッテリーを積み、屋根にはソーラーパネル。アンテナはモービル用広帯域アンテナ。科学の進歩は目覚ましいねぇ……。

もしバッテリーが切れたら、こっそり転移して日本の自宅に置いてある予備と交換する。

一応は緊急時に備えてのものだけど、別に緊急時以外は使っちゃ駄目、というわけじゃない。それに、呼び出しのコレットちゃんの声は落ち着いているから、緊急事態というわけじゃなさそうだ。

多分、ただの御機嫌伺いの類いだろうな。

「はい、こちらサンダー軍曹」

側面に引っ掛けてあったハンドマイクを取って、返事すると……。

『ミツハ、コールサインとか、面倒だよ! ミツハ、こちらコレット、でいいじゃん!』

いや、そこは様式美として、譲れない。

「駄目。まぁ、呼び出しの時以外は普通でいいけど……」

そのあたりは、譲歩しよう。

「で、用件は何?」

『ただの御機嫌伺いだよ。どうしてるかな、と思って……』

やっぱり。でも、自分で言っちゃ駄目だよ、『御機嫌伺いだ』なんて……。

ま、私のことを『ミツハ』って呼んだ時点で、お仕事モードじゃなくてマブダチモードだって分かってたけどね。

多分、私がベアトリスちゃんとふたりで旅をするというので、ほら、アレだ、ちょっと寂しくなって拗ねてるんだろう。

お仕事だし、商隊の一員なんだけど、特製馬車にベアトリスちゃんとふたり乗り、というのは、以前の条約締結根回しの旅の、ビッグ・ローリーでの3人旅を思い起こさせたんだろうな。最近は新大陸で行動する時は一緒に連れていってるというのに、しょうがないなぁ……。

「うん、こっちは……」

がしぃ!

「な、何?」

突然、怖い顔をしたベアトリスちゃんに肩を掴まれた。いったい、何事!

「……なに、ソレ」

え?

「コレットの声がした! 何よ、ソレ!」

あ……。

「教えてなかったっけ?」

「……教えて貰っていないわね……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。

いかん、雷が落ちる!

私、一応『雷の姫巫女』なのに……。