作品タイトル不明
200 ソサエティー 5
「な、ななななななな……」
呆然として立ち尽くす、美容部員のおねえさん。
うん、コレットちゃんのお化粧をする時に、素材の良さに舞い上がってノリノリになったお姉さんだ。トップブリーダーの仕業である、美少女揃いの7人を眼前にして、平静でいられるわけがない。
貴腐人店長のところで、依頼人であるシーレバート伯爵令嬢、カーレアちゃんに会った時もかなり興奮していたけれど、あの時はカーレアちゃんひとりだけだったし、自制心が働いていたらしいんだけど……。
「ふおおおおおぉっっ!!」
あ~、ジャンルは違えど、この人、貴腐人店長の同類だぁ……。
今回は、ナチュラルメイクであったコレットちゃんの時とは違い、本気での化粧をお願いしてある。なので、用意されたものも、それに応じた品々である。
そして、カーレアちゃん以外の6人がここにいるのは、依頼したことの報酬代わりとして化粧の様子を見学できる、という交換条件としての意味もあるが、もうひとつの役割として、お姉さんに『この世界における、少女達の化粧のレベルやその特徴』の見本となってもらう、という意味合いもある。
なので、お姉さんにその旨を伝え、まずは6人の化粧をじっくりと確認してもらった。
パーティー会場へは、ここからみんな一緒にミッチェル侯爵家の馬車で向かうから、時間的余裕は充分にある。
あ、私は行かないよ、パーティー。
私が行くと、私を中心としたゴタゴタが起きそうな気がするから、『ソサエティー』のメンバーの人生が懸かったこんな重要な日に、行けるわけがない。
そして、しばらく6人の化粧を丹念に調べていたお姉さんが、キラリと眼を光らせて言った。
「……始めます!」
よし、プロの腕、存分に振るってもらおうか!
* *
……神か悪魔か!!
正面の姿見に映った、天使の姿。
それを見て呆然としている、依頼者であるカーレアちゃん。
女神の御技に、愕然とした顔の6人の少女達。
そして、女神が口にされたお言葉を、私が通訳して少女達に伝えた。
「……まだ時間があるから、みんなのお化粧も軽く手直ししましょうか、って言ってるけど……」
そして、地獄が現出。
何か、最近、地獄を見る機会が多いなぁ……。
* *
女神の御帰還である。
持ってきた化粧関連のものは全て買い取るから、帰りは空になったショルダーバッグ2個だけなので、身軽である。
御令嬢達は皆、45度の最敬礼で女神をお見送り。
そして御令嬢達には席に着いたままで待つように言って、彼女達の視界から外れたドアの前で、再びお姉さんにアイマスクを渡す。
意味がよく分からないままに、なにかの儀式か拘りかお遊びか、とでも思ったのか、とにかくクライアントの意向に沿って、素直にアイマスクを受け取って装着してくれるお姉さん。そして……。
転移!
がちゃり
すたすた
ぱたん
部屋から出て、ドアを閉め、アイマスクを取ってもらう。
ただこれだけのために、ホテル代ががが!
いや、実費はカーレアちゃんから戴くから、自腹じゃないんだけどね、貧乏性の血が……。
「本日は、ありがとうございました。では、これが報酬金と、化粧品の代金です。
追加注文につきましては、今日のパーティーの結果次第、ということで……」
ホテルのエントランスで、そう言いながらお金が入った封筒を手渡す私に、にやりと笑うお姉さん。
うん、『手応えあり!』と思っているんだろうね、彼女達の反応を見て。
自分の腕に自信がある女性は、カッコいいなぁ。
そして、手早くお金を数えると、予め用意していたらしい領収書を渡してくれた。
勿論、化粧品と化粧用具の分だけで、お姉さん個人への報酬である10万円については、何も書かれていない。
……うん、副業は禁止なのかな。それとも、脱ぜ……、げふんげふん!
とにかく、あとは結果を待つばかり……。
貴腐人店長渾身の作である、ドレス。
美容部員のお姉さん渾身のお化粧技術。
そして、私が仕込んだ、酒屋のみっちゃん仕込みの必殺技、『あたしのために』シリーズ。
そう、『あたしのために、その1。 抉(えぐ) りこむようにして、男のハートを打つべし! 打つべし! 打つべし!!』というやつ、アレである。
……責任は持たない。
健闘を祈る!
『あたしのために』で、拳闘ネタだけに……、って、うるさいわ!
そして、再びみっちゃんちへ転移。私はパーティーには出ないけれど、ちゃんと最後までサポートしなきゃならないからね。もしもの時には、押し掛け参加も辞さないよ。
だって、女の子の一生が掛かっているんだから、手は抜けないし、私が恥を掻いたり少し名を落とすくらいのことは、気にしない。女の子の笑顔を守ることより重要なことなんて、そうそうあるもんじゃないよ。
みんなには、しっかりと教育を施した。
男の子のハートを掴む言動や仕草。『女子力』というものについて。その他諸々。
そして、主役以外の6人には、今日は主役であるカーレアちゃんのために全力でアシストすることを強く念押ししておいた。自分の事は後回しにしてお友達のために頑張る姿は、男性から見てどう思われると考えるか。他の令嬢を押し退けて自分が目立とうとする女性は、どう思われるか。そのあたりをしっかりと教えておいたから、大丈夫だろう。
それに、もし上手くいった場合、『仲間のために大きな働きをした』として功績ポイントが付く、と言っておいたし。
うん、『功績ポイント』だ。貯めると、そのポイントを使って非売品が入手できる。功績ポイントでしか購入できない、ポイント専用のカタログの中から。
とても大きな功績の場合は、小粒の合成宝石のアクセサリーとかを出すけれど、こういう個人的な助け合い程度なら、そこまでは出せないからね。ちょっとした便利アイテムとかならサービスしてもいいけど。
ま、上手くいくよう祈っていよう。
* *
ソルバイン伯爵家長男の、16歳の誕生パーティー。
誕生パーティーなので、デビュタント・ボールを済ませていない未成年の子供達も参加しており、派閥の違う者達も来ている。そして、招待された者達がほぼ集まったと思われた頃、やや遅めに来た少女達の一団が現れた。
「「「「「「…………」」」」」」
静まり返る、パーティー会場。
無理もない。
そこに現れたのは、7人の天使達であった。
その中でも特に美しく、可愛らしいひとりの少女を囲むようにした6人の少女達。
この年齢であれば、デビュタント・ボールはともかく、他家の誕生パーティーに一度も出ていないということなどあるはずがない。それも、7人もの天使のように美しい少女達、全員が。
しかし、大人達は皆、どこか見覚えがあるような気はするものの、この少女達のことをはっきりとは思い出せなかった。このような少女達を見たことがあったなら、決して忘れるはずがないというのに……。
(……どこの御令嬢達だ?)
(なぜ、あのような少女達が7人も揃っているのだ?)
あちこちで小声で交わされる、驚きに満ちた会話。
少女達、特にその中のカーレア・ド・シーレバート伯爵令嬢をガン見する男達の中には、勿論、本日の主役である少年も含まれていた。
そして、カーレアのアシスト役である6人の少女達は思った。
……これ、もう私達、何もする必要ないんじゃね、と。
しかし、何もしなかったのでは、たとえ結果的にうまくいったとしても、功績ポイントとか、後で購入を 斡旋(あっせん) してもらえることになっている、今回使用された化粧品や道具についての交渉に悪影響が出ることが予想される。なので、予定している計画はきっちりと遂行することにした、6人であった……。