軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

197 ソサエティー 2

手招きして、コレットちゃんを側に呼び寄せた。そして……。

「私の妹の、コレットです。よろしくお願いします」

「コレットです、ドゾ、ヨロシク!」

「「「「「「…………」」」」」」

元気なコレットちゃんの挨拶に、返事は返ってこなかった。

別に、 無視(シカト) されているわけではない。皆の眼がコレットちゃんに集中してしまい、静まり返っているだけである。

……超美少女。

今までも、チラチラとコレットちゃんの方に視線を向ける者は多かった。しかし、こうして真正面からまともに見てしまうと……。

もちろん、コレットちゃんは元気で可愛いけれど、それはあくまでも『子供としての可愛さ』が第一であって、トップブリーダーの仕業により美少女が多い上級貴族の御令嬢達が見とれるような、天使や妖精というほどのものじゃない。それが、どうしてこうなっているかというと……。

うん、勿論、お化粧だ。

日本で、デパート1階の化粧品店群雄割拠のところで、お金を払ってプロにやってもらった、ナチュラルメイク。

お金は惜しまなかったし、素材がいいと美容部員のお姉さんが大喜びでノリノリ、その結果、地上の天使が出来上がってしまったのである。

その、コレットちゃんの顔をじっくりと拝ませておいて……。

「はい!」

私が渡した濡れタオルで、顔をごしごしと擦るコレットちゃん。水タイプのクレンジングを含ませた、コットンタオルである。そして、その結果……。

「「「「「「え……」」」」」」

そこにいるのは、確かに可愛いけれど、そう珍しくはない普通の少女。

それを見て、テーブルの上にある高級アイスクリームのような顔をした、少女達。

……うん、『 淑女呆然(レディーボーゼン) 』。

「この化粧品とお化粧の技術が、『ソサエティー』に入会すれば、皆さんのものに……」

うん、コレットちゃんにしてもらったような技術はないけれど、私も、化粧が全くできないわけじゃない。今まで1回しかやったことがないけれど。

うちは田舎町だから、高校卒業前に、業者が無料で講習会をやってくれるんだよね。

1時間半くらいなんだけど、男女に分かれて、男子はスーツの選び方やら、マナーやら。女子は、お化粧。

勿論、将来の顧客の囲い込みのためだから、無料ではあるけれどボランティアというわけじゃない。

初めて使った化粧品で、それを使った化粧のやり方を教わったなら、次に買うのも同じメーカーの、となる確率は高いもんね。

勿論都会に行く者も多いけれど、地元に残ったり、都会の大学を卒業してから戻ってくる者もいるから、未来の為の投資としては安上がりで効果抜群だろう。

就職組もいるから、学校側としても生徒のためになるとして、大歓迎。無料だしね。生徒も助かるから、Win-Winの関係だ。

そういうわけで、私も基本的なことは知っている。実際にやった経験は1回だけだけどね。

まぁ、今回の事に備えて、本やネットで調べまくったし、完成見本の画像もプリントアウトしているし、今、実物見本を見せて証明したわけだから、その効果を疑う者はいないだろう。

あとは、説明やら見本の写真やらを見て、自分で 研鑽(けんさん) してもらおう。

さて、宣伝の効果は……。

……やり過ぎた。

阿鼻(あび) 叫喚(きょうかん) の地獄になってしまったよ……。

そういうわけで、『ソサエティー』に入会するかどうかの意思確認を行ったわけだけど……。

うん、結果は聞くな。

そして最後に、入会希望者の、……つまり、全員の指のサイズを測らせてもらった。

説明はしないけれど、それが何のためか分からない者はいないだろう。

……そう、指輪を作るためだ。

クラブリングやカレッジリングなどの、仲間の結束と誇りを示すためのシンボル。

そして、それを着けた者は皆、同志であり、互いに助け合うべき仲間。

うん、いいねぇ……。

日本ではそういうのはあまり普及していないから、アメリカの業者に発注しよう。

普通の指輪と違って、それぞれ少しずつ違うたくさんの文字を刻印しなきゃならないし、たくさん作らなきゃならないから、作り慣れていてノウハウのあるところでないと高くついちゃうからね。製造技術だけなら、日本でも充分なんだけど……。

まぁ、日本で作らない一番の理由は、日本でお金を使ったら国外から送金して補充しなければならず、そのためには美術品を売ったことにしなければならず、すると膨大な税金が、ということだ。そりゃ、国外で発注するに決まってる。

ただ、彫り込む文字が特殊だから、文字ではなく模様扱いになって、かなり高くつく可能性がある。……くそっ!

そして、第0回お茶会、終了。

参加した御令嬢達には、お土産としてお菓子、シャンプー&リンスの旅行用ミニボトル、ブランデーの300ml瓶、そして練習用に化粧品一通りを。これで各自練習して、気に入ったら購入を申し込んでね、というわけだ。

クラブリングを含め、かなりの出費となるけれど、それくらいはレフィリア貿易の方で充分稼がせてもらっているから、問題ない。

では、解散!

* *

「ミツハ、『ソサエティー』に加入してくださった御令嬢方の、半数以上が泣き付いてきましたわよ……」

「えええ! 打診の段階で加入を断ってきた人達ではなく、加入した人達が? い、いったいどうして……」

あれから3日後、みっちゃんのところへ顔を出したら、とんでもないことを言われた。

いったい、何事が……。

「持ち帰った化粧品で練習していたら、母親や姉に奪い取られて、返してもらえないとか……」

あ~……。

「すぐに補充品を発注します……」

そりゃ、仕方ないか。『姉より優れた妹など存在しない!』とか、『母親より優れた娘など存在しない!』とかいうやつだ。

「それと、肖像画……、あなたが『姿絵』と言っているやつね、それの注文が、全員分。あなたが金額も言わなかったのに……。言い値でいい、ってことかしらね。どれくらい吹っ掛けるつもりなの?」

あ、やっぱり。

そして、旧大陸では『肖像画』という単語がなかったから、わざわざ『姿絵』って言っていたけど、こっちでは『肖像画』って言えばよかったのか……。

「そして、爆発的に拡がった『ソサエティー』の噂を聞いて、入会申し込みが殺到!」

うんうん、まぁ、当たり前だよねぇ……。

「そしてその中に、王女殿下の名前が……」

「パス!」

「やっぱりね……」

みっちゃんも、私が王女殿下の加入は断るだろうと予想していたらしい。

当たり前だ。王女殿下がいたら、その言葉を否定したり逆らったりすることができず、結果的に、『ソサエティー』が王女殿下の、つまり王様の思い通りに利用されることとなる。そりゃ、マズいに決まってる。

しかし、こんなこともあろうかと、そのためにあの規約が作られているのだ。『無記名投票で全会一致でないと加入が認められない』というやつ……。

誰が反対したのか分からないけれど、全会一致じゃなかったから、ざ~んね~ん、というやつ。

権力者のゴリ押し対策は、万全だ。

それに、もし相手が強硬策に出たならば、私が退会し、みっちゃんが引責辞任して引退、その後で別の親睦会を立ち上げればいい。『ゴルゴム』とか、『ブラックゴースト』とかいう新団体名で。

メリットの全てが消失し、権力者のゴリ押しの場となった組織に、果たして何人が残るか。

そしてそこに、数々のメリットをそのまま引き継いだ新団体が誕生したら?

そう、『ソサエティー』という組織そのものがヤマノ子爵家の存在無くしては成立しないという時点で、何の心配もない。つまり、『ソサエティー』の乗っ取りは、事実上不可能、ということだ。

みっちゃんも、『ソサエティー』の実権を握ろうなどと考えそうな性格や、それが可能な立場の者達は初期メンバーから外している。あまり年齢が上の者とかも。当然、それくらいは考えている。

……まぁ、誰が何を企もうと、私が退会した時点で全てはパーだけどね。

「次回、第1回お茶会で投票だね。……まぁ、確実に2票は反対票が入るから、結果は分かっているんだけど……」

そう言う私に、少し口の端を吊り上げるみっちゃん。

うん、全て承知している、ってことだね。さすが、上級貴族の娘だねぇ……。『私はミシュリーヌだ。ミッチェルをやっておる』って感じかな?

「とりあえず、化粧品を急ぎで。でないと、次のお茶会でメンバー間に大きな差が出ると、下手をすると大変なことに……」

みっちゃんが言う通りだ。貴族の娘にとって、これはかなりの大問題だろう。下手をすると、本当に血の雨が降るかもしれない。

「アイアイ、マム!」

それ以外に、返す言葉がないよ……。