軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

187 反 撃 3

「なっ、何だとおおおおぉ~~っ! レフィリア貿易から盗み出した荷が、全て消え失せただとおおおおぉ~~っっ!!」

「は、はい……」

大番頭と警備担当者が朝一番で飛んできたかと思えば、到底信じられないような報告をしてきた。そしてその報告を受けた商会主は、顔を真っ赤にしてふたりを怒鳴りつけた。

「警備の者は何をしていた! そして、それはレフィリア貿易の奴らの仕業か? こちらが奪った荷を奪い返したとでも言うのか! このタイミングで、奴らから奪った荷が消え失せるなど、他に考えられん!」

商会主の怒鳴り声に、大番頭が、恐る恐る答えた。

「あ、あの、旦那様……。消え失せたのは、レフィリア貿易から奪った荷だけではなく、倉庫にあった全ての荷、つまり我が商会の在庫の全てでございます。奪った荷を保管しておりました3番倉庫だけでなく、全ての倉庫の、全ての荷が……」

「…………」

静かに黙り込んでいるわけではない。

商会主は何かを喋ろうとしているようであったが、ただ口がパクパクと開閉するだけであり、声になっていないだけであった。

* *

「あちらさんの様子はどう?」

「はい、被害届を出したようですが、その被害品目の中に、うちから奪われた荷は書かれていなかったそうです」

「あはは、そりゃ、書けないよねぇ……」

数日後、レフィリア貿易の事務所でレフィリアから状況を聞いたところ、予想通り、といったところ。勿論被害届は出すだろうし、連中はレフィリア貿易が怪しいと思っているだろうけれど、何の証拠もないし、そもそも、うちが怪しいという根拠が、『自分達がレフィリア貿易から荷を奪ったから、その仕返しに違いない!』なんて、警吏に説明できるわけがない。

なので、うちを襲った盗賊団の仕業、ということになって、連続強盗となれば調べもより厳しいものとなり、証拠も証言も全くない2件目よりも、色々な証言が得られる1件目、つまりレフィリア貿易の時の犯人を集中して調べることとなるだろう。

そして勿論、容疑者のひとつであったあの商会の自演の可能性も含めて、あそこが集中的に取り調べられるのは間違いないだろう。そして、『被害状況の調査』と称されれば、現場である倉庫の調査や、従業員達に対する事情聴取を 拒(こば) めるはずがない。

それを拒むのは明らかに不自然であり、疑惑を招くに決まっているからである。そして、拒む理由をしつこく追及されて、全ての調査があの商会に集中することになるだろう。

商会の上層部の者達はともかく、荷運び役を務めたであろう丁稚や手代、そして雇われたごろつき達が、厳しい取り調べに、全員口を割ることなく耐えられるかな。そういう専門教育や訓練を受けたわけでもない、『その方面』に関しては全くの素人の連中が、狡猾な『プロ』の誘導尋問や脅しすかしに耐えられるかな。

ここは、現代日本じゃないんだ。人の命は安く、人権は軽い世界だ。拷問上等、脅迫当然、って世界だからね。

ヤマノ子爵家と、その母国。レフィリア貿易。その両者が、どれくらい重要視されているか。それによって、調査の厳しさの度合いはかなり変わるだろう。

ま、後はこの国の司法機関にお任せだ。

「じゃ、明日早朝、うちからの荷を大量にレフィリア貿易の倉庫に運び込むよ。

夜のうちに王都近くの空き地に運んで集積しておくから、そこからここの倉庫まで、レフィリア貿易の旗とうちの紋章旗を立てた荷馬車でピストン輸送で運んでね。なるべく大勢の王都民の目に触れるように……」

うん、そうすることによって、レフィリア貿易は盗賊に襲われたくらいではビクともしない、ってことと、 ヤマノ子爵家(うち) との強固な繋がりを見せつけると共に、商品の取引再開の 狼煙(のろし) 代わりにするわけだ。貼り紙や声を 嗄(か) らしての宣伝より、遥かに効果的だろう。

「そこまで運んで戴けるなら、そのままミツハさんの手勢に王都内を練り歩いて戴き、ヤマノ子爵家の威容を示されては……」

「いやぁ、うちはまだ、あまり情報を開示したくないからね、あはは……」

うん、うちの領民には、転移でここに連れてきて街中を見せるのは、ハードルが高すぎる。ここは、レフィリア貿易に丸投げだ。

あ、念の為、集積場の警備に隊長さんのところの若い人を何人か借りよう。ウルフファングの人達ならば、それくらい問題ないからね。

今日はヤマノ領の倉庫で、取り返した品の袋詰めのやり直しだ。混ぜ物をされたものは、転移能力を使って綺麗に分離する。うん、そういう使い方もできるんだ。便利だねぇ、転移能力は。

よし、じゃ、行くか!

* *

「……嬢ちゃん、これだけで終わりかよ……」

「うん!」

護衛を4~5人、って頼んだら、眼の色変えた隊員達が群がってきた。

そして、隊長さんが4人選び、自分を加えた5人で来てくれたんだけど……。

「敵は! 魔物は! オーガは! ドラゴンはっっっ!!」

だから、いないっつーの!

「私、言ったよね? ひと晩、物資を守るだけだって!」

「いや、そうは言っても、やっぱり期待するだろうが! あのドラゴン退治と、オーガ退治に続く3回目なんだからさ……」

知らんがな!

何やら、勝手に期待して盛り上がっていたらしいけれど、私はちゃんと最初に言ったからね、『ひと晩の、集積物資の警備』、って!

え、わざわざ私が現代武器を持ったウルフファングを警備に呼ぶくらいだから、絶対に襲われると思った?

いや、だから、知らんがな、そんな勝手な思い込みで文句を言われても……。

とにかく、無事、何事もなく朝を迎え、レフィリアが用意した輸送員と護衛達が荷馬車と共にやってきた。勿論、レフィリア本人も一緒。

隊長さん達に、何も喋るな、銃はよく見えないように身体の後ろにして隠せ、と指示して、レフィリアに荷を引き渡した。

あとは、レフィリアが連れてきた護衛達の半分が集積地に残って警備、残り半分が、何度も往復する荷馬車の護衛に就く。商会の倉庫での荷下ろしは向こうにいる者達が行うから、積み込みの人夫達はここに残る。荷馬車と一緒に往復するのは、御者と、護衛の半数と、そしてレフィリア本人だけだ。

レフィリアには、先頭の荷馬車の御者台に乗って、宣伝に努めて貰わなきゃならない。

ま、全ての荷馬車には、レフィリア貿易の商会旗と、 ヤマノ子爵領(うち) の領旗が派手に翻っているから、既に充分目立ってはいるんだけどね。

朝の、王都の人達が大勢屋外にいる時間帯を選んでの、大量の荷の搬入。

店の前に荷を 下(お) ろした荷馬車は、そのまま集積所へと引き返し、次の荷を運んでくる。

レフィリアは、後の輸送指揮は配下の者に任せて、自分は店の前で腕を組んで立ち、次々とやってくる荷を眺めている。

これで、レフィリア貿易に膨大な量の商品が『ヤマノ子爵領から届き』、入荷したということが、王都中の者達の眼に触れ、確認されたわけである。

荷が失われても、すぐにヤマノ子爵領から補充物資が届けられること。

商品が販売され、取引が完了するまでの間、商品の所有権はヤマノ子爵家が持ったままであり、その間に受けた損害は、全てヤマノ子爵家の損害となること。

……そして、ヤマノ子爵家は、そのことに関してレフィリア貿易の責を問うことは一切なく、その怒りと追及は、全て『ヤマノ子爵家に対して、悪意を持って攻撃を行った者』に対して向けられること。

そう、もしレフィリア貿易に何らかの手出しをして、それがバレた場合。

多くの貴族や王族、大規模商家がヤマノ子爵と接触し、取り込もうと 躍起(やっき) になっている今、それは致命傷であった。

そして、既に貴族や商人達の間に、ある噂が流れ始めていた。

……とある馬鹿な商家が、レフィリア貿易とヤマノ子爵に喧嘩を売ったらしい。

しかも、押し込み強盗という、非合法と言うのも 生温(なまぬる) い、完全な凶悪犯罪という最低最悪の手段によって。

更に、捜査の眼をごまかすために、自分達も被害者である振りをしようと、狂言を働いたという。

そんな馬鹿なことをやりそうな商家。

レフィリア貿易と同じような被害者であるという狂言。

最近、それに合致するようなことがあった商家といえば……。

皆の頭に浮かぶ心当たりは、とあるひとつの商家の名しかなかった。

「購入した商品を、直ちに納入して貰いたい」

「先日納めた商品の代金を、すぐに支払って貰いたい」

「融資している金を、全額、直ちに返済するよう要求する!」

「支払いは、もう少し待って貰えませんかねぇ……」

沈む船に、道連れにされてはかなわない。

その商会と取引した商品をまだ受け取っていないところ。

その商会に売った商品の代金をまだ受け取っていないところ。

その商会に融資しているところ。

そして、その商会への支払いがまだ終わっていないところ。

全てが、商品や代金、融資金等を取りっぱぐれないように。

そして借金がある者は、もう少し返済を引き延ばせば、店が潰れて借金のことがうやむやにできるのではないかと期待して。

皆、一斉にお金や現物の流れの方向を固定したのであった。

そう、その商会から自分達の方へと流れるものは、その量と期限を早め。自分達から商会へと流れるものは、その全てを停止し、遮断した。

そしてその商会の倉庫には、取引相手に引き渡すべき商品が、エール一樽も、そして小麦一粒さえ無いのであった。

「……絞まってるかな?」

「絞まってますねぇ……」

にっこり。

優雅に午後の お茶の時間(ティータイム) を楽しむ、3人の少女。

「ミツハを怒らせるって、いったい何を考えていたのかなぁ、その商人……」

コレットちゃんが不思議そうにそう言うが、それは仕方ない。

何せ、この国の者達は、『雷の姫巫女様』のことを知らないのだから。

……まだ、今のところは……。