軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

154 捜 索 2

『目標の 最終位置情報点(デイタム) 、オントップ、スタンバイ……、マークオントップ! 方形拡大捜索に移行する、各部、見張りを厳となせ!』

機長である、 戦術航空士(T A C C O) の下令で、 レーダー員(S S - 3) だけでなく、席に窓がある乗員全てが目視捜索に努める。……勿論、捜索中心点に達する前、既に捜索対象の存在圏内に入った時点でとっくにそうしているが、まぁ、気を引き締めるための定型句のようなものであるらしい。

ちなみに、対潜哨戒機では、先任 操縦士(パイロット) と 戦術航空士(T A C C O) のうち、階級・序列が上の方が機長になるらしい。帝国海軍でも、偵察員が機長を務めることがあったらしいから、これは普通のことなんだろうな、多分。

ま、普段は潜水艦の潜望鏡やシュノーケルを発見する連中だ、いくら帆やマストがないとはいえ、大きな帆船を見落とすようなことがあるはずがないから、安心だ。……与えられた目標の 最終位置情報点(デイタム) さえ、致命的な誤差がなければ……。

『レーダーコンタクト、326度63マイル』

『ホーミング!』

『右旋回、326度!』

レーダーが目標を探知し、誘導が始まった。すぐに 戦術航空士(TACCO) が戦術画面上で探知目標にマーキングして、パイロット席の表示画面にもそれが表示されているはずだ。

でも、まだ遭難船が発見されたわけじゃない。海には、多くの船が航行しており、漂流物、クジラ、その他様々な……

『目標、インサイト! 大型木造船らしいが、帆らしきものは視認できず!』

早いな、オイ!

『目標、資料にあった40門艦らしい。マストなし、漂泊中!』

かなり接近して、詳細情報が流された。

漂泊、つまり対水速度がゼロ、ってことだ。別にお泊まりしているわけじゃない。

そして、対水速度がゼロといっても、海流の分は流されている。

とにかく、間違いなさそうだ。

……考えてみれば、沿岸を離れて外洋を単独航行する船なんか、今のこの世界にはそんなにあるはずがないか。そしてこんな大型目標で、船の他に誤認するものなんか、クジラくらいしかないや。

よし、乗り込むか!

『フェイズ2に移行します! 緊急退避、及び緊急帰還に備え!』

私は、ふたつの事態に備えるよう警告した。緊急退避というのは、私が 咄嗟(とっさ) に機内に戻ってくること、そして緊急帰還は、私が機内に戻ることなく地球に転移する場合だ。

うん、高速で動いている航空機の中にうまく転移できなかった場合、私が機内に入ることなく、一緒に転移しなきゃならないからね。

どちらの場合も、別に危険も準備しておくこともないんだけど、びっくりしてパニックにならないように、一応、注意喚起だけはしておかないとね。

服装、ひらひらドレス、よし!

……今回は、フライトスーツじゃないよ。この後の都合上。

金髪の、変装用ウィッグ、よし!

無線機、よし!

肩掛け式拡声器、よし! ……風が吹いている甲板上で、全員に届くような大声を肉声で張り上げていたら、喉を潰しちゃうよ。

『行きます!』

ハンドマイクでそう言って、ヘッドセットを外した。

「 転送(beam up) !」

機内交話機じゃないから、近くの数人にしか聞こえていないだろうけど、一応、様式美なので、そう叫んでおく。そして、年配のおじさま達には『転移』や『ワープ』より受けがいいかと思って、今回は『 転送(beam up) 』にしてみた。

あれ?

甲板上に転移したけど、誰もいない。

……って、当たり前か。

帆柱も帆もないのに、甲板にいてもやることがないだろう。そして、水や食料を節約するためには、直射日光や風に晒されるのを避け、船内でじっとしていた方がいいに決まってる。

じゃ、呼び出すか。

ちょっと高くなっている所に、よじよじと登って、と。

拡声器のマイクを掴んで……。

『ヴァネル王国海軍、40門艦「イーラス」の皆さん! 女神様からのお使いで参りました!

ちょっとお話を聞いて戴けませんかあぁ!』

ありゃ、反応がないぞ。もしかして、既に全滅……

ばあぁん!

どたどたどたどたどた!

あ、あちこちのドアやハッチが開いて、ぞろぞろと出てきた……。

『皆さんに、女神様からの伝言が……』

「「「「「「遂に、お迎えが来やがったあああああぁ!!」」」」」」

いや、確かにもうすぐ迎えが来るんだけど、そういう意味の言葉じゃないよね、それ……。

「いや、でも、女神様の使いということは、俺達、天国へ行けるってことじゃねぇか! この俺達が、てっ、天国だぞ、天国! 美人の女神様や、美少女の天使様が大勢いる……。

色々と悪さもしたけど、女神様は、俺達をお見捨てにはならなかったんだあああぁっっ!!」

「「「「「おおおおおおお~~っっ!!」」」」」

いや、ちょっと待ってよ。話を聞いてよ。

それに、ここの天使って、中性じゃなくて、美少女なのかっ!

「「「「「ばんざ~い! ばんざ~い! 女神様、ばんざ~い!!」」」」」

『おまえら、話を聞けよおおおおおぉ~~っっ!!』

きいいいいいぃん……

ボリュームいっぱいにして怒鳴ったら、ハウリング起こして、えらいことになった……。

そして、甲板上は、やっと静かになっていた。

……うむ。

『皆さんには、残念なお知らせと、良いお知らせがあります。まず、残念なお知らせですが……』

不安そうな、乗員の皆さん。

『今回は、皆さんの天国行きは、見送りとなりました!』

「「「「「えええええええ!!」」」」」

絶望に包まれた、乗員の皆さん。でも、まぁ、次のお知らせを聞けば、喜んでくれるだろう。

『次に、良いお知らせですが……、救助船がこちらへ向かっています。私がその船を誘導しますので、最短距離で、確実にここへ到着するでしょう。すみませんね、今回は天国にお連れできなくて……』

え、というような顔をして、きょとんとする乗員の皆さん。……多分、今聞いた言葉の意味が、まだ脳みそに染み込んでいないのだろう。

そして、しばらく経った後。

「「「「「うおおおおおぉ~~!!」」」」」

あ~、しばらくは私の話を聞いて貰えそうにないか……。

* *

『では、水と食料は、まだ当分は大丈夫。そして船体も、再び嵐に出くわしでもしない限り、すぐにどうこう、という心配はない、ということですね?』

「はい、その通りでございます、御使い様!」

いくら変装しているとはいえ、ウィッグくらいじゃ気休め程度だ。だから、あまり乗員達には近付かないよう、最初に陣取った高いところから降りず、乗員達があまり近付くのも許さなかった。

そして艦長と、少し離れた状態で、必要な情報を交換した。

こっちは拡声器があるけど、向こうは肉声だから大変かも。声が 嗄(か) れて……、って、そんなの慣れてるか。海の男を何十年もやっていたら。

きっと、甲板から海に向かって叫ぶ『号令調整』とか、隊歌訓練とかがあるに違いない!

うん、自衛隊の広報ビデオで見たよ!

『では、私は救助船に方位を知らせに参ります。気を緩めることなく、海の男として、恥じることのない行動をし、規律を保ちなさい。では、さらばじゃ!』

そして、上空で旋回している対潜哨戒機に意識を集中して……、転移!

「もがっ!」

そして、いきなり口の中に何かを突っ込まれた。

「あがががががが!」

私が、混乱してあうあうしていると、学者さんが、慌ててそれを口の中から抜いてくれた。

「す、すみません! 転移された場所に、何か特別な反応がないかと……」

ああ、放射線の痕跡とか、重力波の歪みとか、そういうものが検出されないかと思って、転移した時に私が座っていた座席を色々な検知器具で調べていたわけか。

そしてそこに私が、転移した瞬間に機体の動きに追従できずにコケるのを避けるために、座っていた座席に出現して、突き出されたセンサー部分をまともに口で受けた、と……。

いや、そんなに必死に謝らなくてもいいよ。お仕事なんだから、仕方ないでしょ。

私、真面目に仕事をしている人には、結構寛容なんだよ。いや、ホント。

……あれ、検知器具の、私の口に突っ込んだ先端部分を取り外して、ビニール袋に入れて機内の小型冷蔵庫に入れてる。精密部品を駄目にさせちゃったかなぁ。

ごめん。