軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

144 知らんがな

「ミツハ嬢、胸が無くて残念ですね!」

「「「「「「なっ…………」」」」」」

大きな声で私に掛けられた、その、あまりにもあんまりな言葉に、ホール中の人達が凍り付いた。

……勿論、私も。

これはもう、無礼、つまり『礼が無い』などという生易しいものではない。既に『礼に 非(あら) ず』、つまり非礼である。

「な、ななな!」

いきなり、イキリDQNコンビの若い方、16~17歳くらいの少年に暴言を吐かれた。

いや、ま、ここではこの年齢だと、少年じゃなくて立派な一人前の男性か。

しかし、突然、大勢の前で何を言ってくれちゃいますか、この男は!

周囲が、恐ろしいまでの静寂に包まれてるよ……。

まぁ、当たり前だろうけど。

なんだよ、この男は! 喧嘩売ってんのか、ゴルァ!!

ぎろり!

睨み殺さんばかりの、ありったけの怒りを込めて睨み付けてやったら、何か、途端に 狼狽(うろた) え始めたよ、コイツ……。

「え? あれ? あれ? こう言って慰めれば、喜んで国宝級の宝石をくれて、友達になってくれるって……」

どんな嘘情報かあああああぁっっ!!

これはもう、ボケとか突っ込みとかではなく、ただの侮辱行為だよ! ふざけんなっての!!

……いや、待てよ?

これを理由にして、気分を害したから帰る、というのはどうだろう?

誰もが納得する理由。そして主催者には責任がない。こんな客を招いた、ということ以外には。

うん、丸く収まりそうだ! よし……。

「……非常に不愉快です。帰ります!」

私は、 踵(きびす) を返して、さっさとその場を後に……しようとしたら、周りの人達に全力で引き留められた。

「ま、ままま、待って下さい! 待って下さいいいぃ~~!」

「ヤマノ子爵、そこを! そこを何とか、 堪(こら) えて戴きたい!!」

もう、周り中の人達から、必死の懇願。

「我が家秘伝の、豊胸のためのマッサージ法をお教え致しますから!」

うるさいわ! それくらいでどうにかなるものなら、とっくに少しは大きくなっとるわ!

それくらいのことを、今まで試したことがないとでも思っとるんか、ゴルァ!

マッサージ、体操、食事療法、怪しげな通販の薬、神への祈り、全部試したわっ!!

……あれ? 周囲が、また静まり返っているぞ?

「……ミツハ……」

あれ? ミッチェル侯爵様、どうしてそんなに悲痛そうな顔で私を見てるの?

「……ミツハ、声に出ていたぞ、今の、全部……」

あ、ソウデスカ……。

「ぎゃああああああぁ~~!!」

帰る!

誰が何と言おうと、今日はもう帰る!!

……そして、さすがに今度は私を引き留めようとする者はいなかった。

そこまで哀れむなよ、くそ!!

* *

「父上、ど、どうしましょう……」

「どうしましょうも何も、どうしようもあるまい。全て、お前の責任だ」

「やっぱり……」

ミツハがパーティー会場を去ったあとに残されたのは、困惑したイキリDQN親子……改め、ウォンレード伯爵とエフレッド子爵……改め、国王陛下と王太子殿下。及び、同じく困惑した様子で黙ってふたりを見守る他の出席者達であった。

「……すまん」

国王陛下……、いや、今はウォンレード伯爵……が、パーティーの主催者である伯爵に謝罪した。

国王陛下としては、そう簡単に貴族に頭を下げられるものではないが、今回は完全に自分の息子の不始末であるし、今の自分は『ウォンレード伯爵』なので、問題はない。

「せっかく伯爵達があの娘との繋がりを持てたかも知れぬ機会であったのに、うちの馬鹿息子のせいで……。この埋め合わせは、『私の知り合い』が、必ずする。それで容赦して貰いたい」

勿論、『私の知り合い』が、というのは、『ウォンレード伯爵』としての自分ではなく、国王としての自分が、という意味であり、パーティーの主催者である伯爵にとり、今回あの異国の少女との繋がりを得られなかったことへの代償としては、充分なものであった。

それに、別にパーティーの主催者として少女の不興を買ったというわけではないのだ。少女の方も、主催者には責のないことで腹を立てて中座したということは、非礼行為に当たる。次に顔を合わせた時にはそれなりの謝罪と譲歩が得られるであろうと思えば、そう悪くもあるまい。

……まぁ、普通、あの状況で本気で少女の中座を責められるような非情な者はいるまいが。

このパーティーに出席した用件が終わった……、いや、『終わってしまった』ウォンレード伯爵一行は護衛達と共に引き揚げ、他の招待客達はパーティーを再開した。勿論、交わされる会話の大半は、先程の件に関してである。

いったい、どうすればあのような勘違いをすることが可能なのか。

あんな調子で、王太子殿下のお妃様選びは大丈夫なのか。

……そして、女心が全く理解できていない様子のあの王太子殿下なら、自分の娘を言いくるめて差し出せば……。

斯(か) くして、貴族の 仕事の場(パーティー) の夜は 更(ふ) けてゆく……。

* *

「全く、ふざけやがって……」

これ程までに『ぷんぷん』、という擬音が似合いそうな顔も、滅多にあるまい。それくらい、機嫌を 損(そこ) ねた様子のミツハは、いつものように、待たせていた貸し切り馬車に乗って、この国での拠点たる物産店へと向かっていた。

どうせすぐに日本の自宅へ転移するのであるが、ちゃんと帰った、ということにしておかないといけないので、面倒だしお金の無駄であるけれど、仕方ない。さすがに、ここにヤマノ家の専用馬車と馬を用意するつもりはない。

「しかし、あんな 狼藉者(ろうぜきもの) を誰も止めずに放置して、か弱い女の子を庇おうともしないとは……。呆れ果てたぞ、ヴァネル王国の陸軍派閥の貴族共!」

ミツハ、お怒りである。

「よし、これを理由にして、1カ月くらいは陸軍派閥のパーティーには行かないことにしよう! そうすれば、出席するパーティーの数が減って、お腹の脂肪も何とかなる! ぜったい、何とかなるに違いない!!」

* *

「何? しばらく陸軍派閥のパーティーには出ないだと? いったいどうして……」

「私が変なのに目を付けられて困っているのに気付いていながら、誰も助けようとしてくれなかったからですよ! 1カ月くらいは、海軍派閥の方だけにしますから。あ、その分、海軍派閥との回数を増やしたりはしませんよ。陸軍派閥のをスケジュールから抜くだけですから。

あ、それと、あの私に絡んできたふたりの名前を教えて下さい」

「う……、あ、あぁ……」

ミツハにそう言われ、事情を説明したいミッチェル侯爵であったが、国王から『最初はただの貴族として接触し、話をしたい。私達のことは教えないように』と言われているため、どうしようもなかった。先日のパーティーの時も、事前に出席者達にそのように指示されていたため、他の貴族達も上手くフォローできなかったのである。

……教えざるを得ない。しかし、どうせ次に会った時に話の最初に名乗るであろうから、別に名を教えることに不都合はあるまい。そう考えて、侯爵はふたりの名を告げた。

「ウォンレード伯爵とエフレッド子爵だ……」

その名を聞いたミツハは、あれ、という風に首を傾げた。

「親子かと思ってた……」

「い、いや、親子は親子だぞ。ただ単に、複数の爵位を持っているから代替わりするまでは長男に第二爵位を名乗らせているだけだ。……というか、ミツハ、お前も実家が持つ複数爵位のうちのひとつを貰っているのであろうが」

「あ、あはは……」

ミツハはお家の御当主様本人であるが、そんなことを言うと余計な混乱を招くだけであるから、笑って誤魔化した。日本人お得意の、『曖昧な笑いで流す』というやつである。

(1カ月間、陸軍派閥のパーティーには出ない、か……。少し困るが、仕方ないか。

うむ、この前のアレは、さすがに少し酷かったからな。多感な年頃の少女にとって、大勢の前でのアレはかなり傷付いたことであろう。全く、殿下はいったい何を考えてあのようなことを……)

陸軍派閥の自分としては少し困るが、派閥の多くの者達があの現場に居合わせたのであるから、文句は出るまい。もし文句を言えば、それは王太子殿下の失態を責めることとなり、そして傷心の少女に無理強いをすることとなる。それがいったい、どのような結果を招くこととなるか……。

自分の責任においてそのような危険を冒す者がいるとは到底思えない。

(1カ月など、すぐに経つ。それに、最近少しパーティーを詰め込み過ぎていたからな。ミツハのお腹が少し……、いかんいかん、いくら子供とはいえ、女性に対してそのようなことを考えては失礼に……)

ミッチェル侯爵は、無意識のうちにミツハのお腹のあたりに視線を向けていた。

そして、勿論ミツハはそれに気が付いた。

「ぎ……」

「ぎ?」

「ぎゃあああああああ!!」