軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

133 ギャラリーカフェ 2

今日は、カフェの方の準備。

そのうち貴族や手の者が新大陸の物産店へ調査に来るだろうけど、さすがに翌日すぐに、ということはないだろう。まだ 開店(オープン) 前だし。

それに、怪しい者や侵入しようとする者がいたら警備隊の皆さんが何とかしてくれるだろうし、あそこには、盗まれて困るものは置いていない。

いや、金銭的な被害は勿論あるけれど、私の正体に係わるものやオーパーツは置いていない、ということね。

なので、朝イチでドレスをクリーニングに出して、貴腐人店長(よく考えたら、あの年齢で、腐『女子』は無いよねぇ。『貴腐人』って、何かワインみたいだけど、それはまぁいいや)にドレスを数着作って貰うよう依頼。予算は、前回より大幅アップ。必要経費だ、仕方ない。

その後は連続転移で某国、私の2等級クリプトにして、ファウンデーションである、ギャラリーカフェ(準備中)へ。今日は、採用通知を出した従業員を呼んであるのだ。

* *

「では、この陣容で、ギャラリーカフェ『Gold coin』の運営チームを編成します」

内装工事や器材の搬入が終わった店内で、私の宣言に、こくりと頷くふたりの少女。

そして、ふたりに改めて労働条件を提示した。

「募集要項に書いた通り、これで考えています。でも、私はあくまでもオーナーであって、ここで働くわけじゃないですから、もし変えた方がいい部分があれば、遠慮なく言って下さい。3人で合意すれば、変えられますから」

そう言って、この国の文字で書かれた紙を差し出した。

「何か、意見や希望はありますか?」

ルディナ 13歳 店長兼料理人兼経理 住み込み 週給620ドル、プラス喫茶部純利益の1割

シルア 17歳 ウェイトレス兼雑用 通い 週給420ドル、プラス喫茶部純利益の1割

完全週休2日制、社会保険完備、労働保険あり。

勤務時間、10:00~18:00 昼食は賄いあり。

ふたりのうちどちらかが病気その他の理由により休む場合は、店は臨時休業とする。ひとりで開店しようとしてはならない。

私は、この店の利益で暮らそうというわけじゃない。合法的に日本での『山野光波』の収入になるように画策するギャラリー部分が主目的であり、普通に売れるわけのないギャラリーのみを店員を置いて経営するのは無理があるから、カフェ部分を付けているだけだ。

だから、家賃、光熱費、人件費、材料費、消耗品費、その他諸々が回収できてトントンであれば御の字、というつもりである。なので、営業時間とかはゆるゆるである。……ここで、税金免除、というのが、非常にありがたい。

まぁ、転移能力を失い、日本にも住めなくなった時には、ここに腰を落ち着ける可能性もないわけじゃないけど、その時には私が店長として働くし、絶対黒字になるようにテコ入れすればいい。

ふたりは、紙を見つめながらしばらく考えていたが……。

「この、週休2日、というのは、何曜日ですか?」

ルディナが、そう聞いてきた。

「それは、ふたりが都合の良い日でいいよ」

顔合わせは終わったから、もう、堅苦しい喋り方じゃなくていいよね。

「では、定休日は土、日にしたいと思います。席数が少ないこの店では、休日にのんびり長居されては儲かりません。なので、平日に、出勤時と退勤時、そして昼食時に軽い食事を摂る客を狙いたいと思います。

そして、そのためには、この営業時間じゃ駄目です。0700~1400、それから 午睡(シエスタ) を取って、1700~2000としなければ……」

何か、とんでもないことを言い出したよ、この子……。

面接の時は、もっと気弱そうだったじゃん!

「でも、それだと10時間勤務になっちゃうよ?」

「え、それが何か?」

「え……」

どうやら、この国では、それが普通らしい。

「シルアさんも、それでいいですか?」

そう尋ねながら、テーブルの上に置かれた紙の、ある部分を指で指し示すルディナ。

私とシルアが、顔を寄せてその指先の文字を読んでみると。

『プラス喫茶部純利益の1割』

こくこくこく!

激しく頷くシルア。

どうやらふたりとも、楽ちんな勤務より、実入り重視らしかった。

でも、営業時間を延ばしたからといって、黒字になるとは限らないよ?

まぁ、赤字になったからといって、赤字分の1割を負担、とかは言わないけどさ。

「あの……」

今度は、シルアから発言が。

「その勤務時間になるなら、朝食と夕食も賄いになりませんか?」

結構、しっかりしてやがる……。

そして、ルディナに店の鍵を渡し、数日後の 開店(オープン) までに全ての準備を完了するよう指示して、準備に必要なだけのお金を渡した。現時点をもって店長に任命、シルアに対する業務上の指導権限を付与。メニューは、作るのに必要な時間や原材料の原価等も考慮して、自分達で決めるように指示。そして、給料は今日から発生する、と告げた。

「明日、引っ越します」

うん、ルディナはここに住み込みだからね。

……って、家賃、光熱費、店にある食材費等が無料で、あの給料。

いかん、多過ぎた……。これじゃ、シルアとの差が大きくなり過ぎだ。

かといって、今更減らすわけにもいかないし。

そのうち、シルアの給料を増やすしかないか……。失敗した!

* *

そして、お馴染み、『雑貨屋ミツハ』へ。転移した3階の自室から1階へ下りて、ドアを開いて久し振りに店を開けると……。

「姉さま、私を放置して、いったいどこへ行ってたの!」

サビーネちゃんの、怒りの怒鳴り声が。

知らんがな……。

どうやらサビーネちゃんは、配下の『姉さま見張り隊』から私の姿が全くないとの報告が数日間続いた時点で、心配になって毎日『雑貨屋ミツハ』に様子を見に来たり、無線機で呼び掛けたりしていたらしい。

……知らんがな。

まぁ、今まで、長期間不在にする時には、サビーネちゃんにちゃんと言っていたからねぇ。そりゃ、心配するか……。

ていうか、何、その『姉さま見張り隊』とかいう、怪しい連中は!

これか! 私が王都に来ると、毎回サビーネちゃんがお店の前で待ち受けている理由は!

「い、いや、ちょっと領地で用事が……」

「嘘だっっ!」

あああ、面倒臭えぇ~~!

……まてよ?

サビーネちゃんがこうだということは……。

まずい!!

「きゃっ!」

とりあえず、サビーネちゃんを店内に引き込んで、と。

ドアに鍵を掛けて、カーテン閉めて、サビーネちゃんと一緒に連続転移! 行き先は、勿論……。

「ミツハ! サビーネちゃんとふたりで、どこへ行ってたの! どうして私を放置するのよおぉ!」

あああ、やっぱりいぃィ!!

あれだ、あれ! 昔やったことのあるゲーム!

こまめに複数の女の子の機嫌を取り続けないと、女の子の爆弾マークがだんだん大きくなっていき、爆発すると大惨事になる恋愛シミュレーションゲーム!

面倒臭ええぇ~~!!

「ふたり共、まだほんの数日しか経ってないじゃない! 前は、長い間、ずっと会わなくても平気だったでしょ!」

「「…………」」

いや、予想はついてるんだけどね。

あの、同盟勧誘の旅だ。あの旅の間、ずっと一緒だったから、それに慣れちゃったんだ。

いつも一緒。ずっと一緒。横を見れば、いつでもふたりがいる。そんな生活が、3カ月弱も続いたからなぁ、その反動が出るのも仕方ないか。何せ、ふたりはまだ、9歳と10歳だ。

そして特にコレットちゃんは、家族や馴染みの村人達と離れての、ヤマノ子爵家領地邸での生活だ。寂しがるのも無理はない。

しかし、新大陸、ヴァネル王国での活動は、誰にも、そう、王様にも話していない、極秘作戦だ。見せ金を含めた経費も、王様に事情は説明せずに借りている。

これは、王様に話すと、どうしても王様の指示や判断を無視するわけにはいかなくなること、ヴァネル王国の技術情報その他を要求されるであろうこと、私の転移能力についての今までの誤魔化しがバレること等もあるが、一番の理由は、『私の身に何かあれば、全てがパーになる』ということだ。

ただでさえ、そういう事態になれば船や新式大砲の製造に大きな支障が出るというのに、裏工作まで全てパー、というのでは、ダメージが大き過ぎる。変に期待させていたら、尚更だ。なので、こっちは駄目元ということで、自腹でこっそりと進める予定なんだから。

それに、そもそも、サビーネちゃんとコレットちゃんは、ヴァネル王国の言葉が喋れないしね。

……と言っても、説明なしじゃあ、納得しそうにないなぁ。

困った……。