作品タイトル不明
131 岩窟王女改め、ポンコツ王女 1
「ヤマノ子爵は、見聞を広めるために我が国に来られ、併せて祖国の物産を我が国に紹介し交流を進めようという崇高な目的をお持ちだとか。そしてそのために、中心街にそれらの物産を紹介するための店を構えられたとか……」
来客達の眼がギラつきを増している。多分、その『物産』とやらの中に、真珠や宝石、そしてその他の儲かりそうなものが含まれているのでは、とでも考えているんだろうな。ポンポンと簡単に人にやるということは、大量の宝石を産出し、それが安価で出回っている国、とか考えて……。
「では、ヤマノ子爵、来賓の皆様に御挨拶をお願いします!」
うわぁ、急に振るなあぁ!
……でも、まぁ、それは仕方ないか。ここで私からの言葉がないというのは、あり得ない。
よし、適当に誤魔化すか……。
「皆様、只今御紹介に 与(あずか) りました、ミツハ・フォン・ヤマノ子爵です。あまり皆様が御存じない遠くの国から参りました。我が国につきましては、また機会がございましたら……。
本日は、お招き戴きました初めてのパーティーで御紹介戴き、深く感謝致します。
では、以後、よろしくお見知りおきを……」
必要最小限の簡単な挨拶に留め、母国のことは国名すら言わず、煙に巻く。うんうん、上出来だ。
後は、私にとって価値のある人を選別して、それなりに交流して……。
と思っていたら、一礼してみっちゃんのところへ戻ろうとした私の周りを大勢が取り囲み、一斉に話し掛けてきた。
「私、セゴール子爵と申します。国は違えど、同じ子爵位の者同士、是非これからの御親交を……」
「ラルト伯爵と申す。異国の美しき御令嬢に、是非我が伯爵家にお立ち寄り戴き、互いの国の交流についての話などを……」
「ビーンヴィクト伯爵です。是非、我がビーンヴィクト家と交易のお話を……」
更に、次々と話し掛けてくる、人、人、人……。
わたしゃ、聖徳太子か!
「ミッチェル侯爵だ。娘が世話になったようですな……」
……って、みっちゃんのお父さん?
ああっ、眼が笑っていない! おかしな派閥に巻き込んだから、怒ってる?
ヤバい!
そう思ったら、身長差のために下から見上げるような体勢のまま、私の口から無意識のうちに言葉が漏れていた。
「…… 苛(いじ) める?」
あああ、何口走ってるかな、私いぃ! それは、昔読んだ漫画の、小動物の台詞だあぁ!!
「…………」
ぽかん。呆然。愕然。
どう表現したら良いのか分からない、何とも言えない表情のまま、固まってしまったみっちゃんのお父さん。周囲の人達も凍り付いたようになって、静寂が拡がっている。
……どうしよう。
たっぷり10秒くらい経って、ようやく世界が音を取り戻した。
いや、こういう時の10秒って、長いからね! もう、メチャクチャ長いからね! 永遠にも匹敵する、無限の長さだからね!!
で、まぁ、とにかく、みっちゃんのお父さんが再起動。
「……い、苛めないが……」
だから、なんでここで、せっかく解凍した周りを、わざわざまた凍り付かせるかな!
そして、ようやく再び解凍されて、会話が再開された。なぜか皆が私達の会話に耳を傾けているため、周囲の会話によるざわざわというような 雑音(ノイズ) は全くない。
「すみません、何だか、みっちゃんを変な立場にしちゃったみたいで……」
「みっちゃん? それは娘のミシュリーヌのことなのか?」
あ……。そういえば、ミッチェル侯爵も、『みっちゃん』だ。
だ、駄目だ、耐えろ! 我慢するんだ、私いぃ!
この、 厳(いか) つい髭面で、みっ、みっちゃん。みっちゃん……。
だ、駄目、駄目ええええぇ!
「ぶはは、ぶわははははは!」
無理! 無理いいいいィ!!
噴き出してしまった私をぽかんと見ていたみっちゃんのお父さんは、どうやら私の様子から、私の思考経路を推察したらしい。次第に顔を赤くさせて……。
「うわははははははは!」
そして、横から聞こえる、淑女らしからぬ笑い声。
「あは、あはは! み、みっちゃ、あはははははは!」
どうやら、みっちゃんも、私が噴き出した理由を察した模様。
この中で、私のことを理解してくれているのは、みっちゃんと、みっちゃんのお父さんだけだ。
思考パターンが似ている。笑いのツボが同じ。
……いや、それって、どうなんだ?
* *
ようやく笑いが治まった3人で、会場の隅っこで歓談。
「いやぁ、笑った。久し振りに、死ぬかと思う程笑った……。それに、ミシュリーヌの本気笑いなど、いつ以来であろうか……」
何だか、侯爵様は、みっちゃんが大笑いしたことが一番嬉しかったみたいだ。
侯爵家の御令嬢が、大勢の貴族達の前で大口開けて大笑いしてもいいの? 普通は、扇子とかで口元を隠して、おほほ、とかいって笑うものなんじゃあ?
……って、私も一応、貴族だったあぁ! しかも、爵位持ちの!
まぁいい、深くは考えまい。
現在、侯爵様が私を独占している形だけれど、ここにはミッチェル侯爵以上の身分の人はいないみたいだ。パーティーの主催者が伯爵だし、銀行の頭取さんも、比較的気軽に情報を提供できるのはせいぜい伯爵あたりまでで、それ以上の身分の人には、そうそう簡単に繋ぎが取れるわけではないらしい。
ミッチェル侯爵は、たまたま娘さんと年齢が近い御令嬢の誕生パーティーがあると知り、友人が少ないらしい娘さんを案じていた侯爵様が、友人ができる切っ掛けにでもなればと、あまり気が進まないらしかったみっちゃんを半ば強引に連れてきた、というのが、今日の真相らしい。
それに、侯爵様だけでなく、みっちゃんが一緒であることが、他の貴族が私達の会話に割り込んで来られない理由であろう。せっかく仲良くなりかけている子供達の間に割って入るなど、貴族としてどころか、大人としての良識を疑われるだろうからね。
でも、さすがにそれも、そろそろ限界らしい。どうやら貴族達が子供をミサイルに仕立てて打ち込んでこようとしている模様。
「ヤマノ子爵様、御機嫌麗しゅうございます……」
来た来た……。
この子達が伯爵家の子か男爵家の子かは知らないけれど、現在は爵位を持たない、ただの『貴族の子女』だ。それに対して、私は自身が子爵位を名乗っており、皆は私の親が伯爵以上の身分であろうと勝手に想像している。そして私が子爵を名乗っているのは、伯爵以上の家の後継者だからか、それとも親の第2、第3爵位のひとつを譲り受けたからなのかも分かっていない。
それは私がその手のことを何も喋らなかったせいだけど、本人が喋りたがらないことを根掘り葉掘り聞くのははしたないこととされているし、私が親のことを喋らないのは、親の威光を笠に着るのではなく自分の力でやりたいのだろうと、微笑ましく受け取られているらしい。今は、ありがたくその勘違いに乗っからせて貰おう。
そもそも、私の母国が女性にも爵位継承権を認めているかどうかも知らないんだからね、ここの人達は。
……いや、認められてるけどね、うちの国では。子供の中に男子がいない場合や、その男子が廃嫡された場合は、って但し書きが付くけれど。
あ、何か、気が付くと『雑貨屋ミツハ』があるあの国、ゼグレイウス王国のことを、自然に『うちの国』って考えてる。
そうか、もう、あそこは日本に続く『私の国』なんだ。爵位を貰ったから、とかいう理由じゃなくて、私にとって大事な人達が住む、大事な、私の国……。
でも、じゃあ、この国は?
お人好しの軍人くん、頭取さん、みっちゃん、みっちゃんのおとうさん、その他の、今までに出会い、会話し、お世話になった人達……。
……敵国?
いや、確かに我が国にとっては、現在表向きは『戦争中の、敵国』だ。この国の人達はその事実を全く知らないけれど。
でも、本当の戦争、本格的な戦いにならないようにできれば、友好的な関係に持ち込める可能性はある。……あまり高くない『可能性』ではあるけれど。
まぁ、新たな大陸、新たな領地、大量の奴隷要員、そして金銀財宝と、宝の山を眼の前にした貴族や政治家、商人達が、自分達が楽に勝てて簡単に占領支配できる相手を対等に扱うわけがないか。
軍人達も、手柄を挙げて栄達を重ねる絶好の機会を逃すはずがない。積極的に戦闘による侵略を進言するに決まってる。
結局、武力侵攻に備えるしかないよね。そしてその前に、うちの国、いや、うちの大陸の存在が露見するのをできる限り遅らせて、時間を稼ぎ、その間に準備を整える。それしかないか……。
「ミツハ様、ミシュリーヌ様、私、エリブルグ伯爵家のエイミアと申します!」
「私、ジェラム男爵家の……」
うん、次々とやってくる、少女達と少年達。
ミッチェル侯爵様は、子供達の親睦を邪魔するわけにはいかず、そっと離れていった。
こういうのが苦手らしいみっちゃんも、同じくそっと離れようとしたけれど、私がその腕をがっしり掴んで離さない。
……逃がさないよ!