軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13 雑貨屋『ミツハ』

遂にお店が開店した。

改装工事も無事終わり、作り付けの棚も揃い、カーテン、照明器具、その他も完成。防犯設備は営業時間帯はオフになっている。棚には商品が並び、説明文と値札が付けられている。

居住部分や電気、ガス関連も完成済み。ソーラー発電の業者は設置工事も請け負いたいとしつこかったが、遠い離島に設置すると言って設置方法を何度も説明させて済ませた。

浴室は思ったより簡単であった。調理場には元々排水溝があったのが大きく、浴槽は単に置くだけ。給湯設備の固定とガスの配管も、クンツとその弟子達に手伝って貰えばそう難しくはなかった。全く知らない設備なのに、ミツハの説明と指示でなんとかしてしまうとは、職人恐るべし!

全ての準備を終えたミツハは、向こう3軒と両隣りに粗品のタオルセットを持って挨拶に行き、若いのに感心、と褒められた。タオルのふかふかさにも驚かれた。うちで売ってますよと宣伝も忘れない。

また、家のパソコンで作ったチラシを数十枚出力して行きつけの食堂やルッツさんの店の軒先等あちこちに貼らせて貰った。文字はマウスでの手書きなので少々乱れているが、ご愛嬌である。

それら万全の態勢をもって遂に本日の開店にこぎ着けたのであった。

ミツハは張り切って入り口近くの店内が見渡せる会計台に座っていた。

この雑貨屋ミツハ、開店時間は午前10時。閉店は16時である。昼休みはなし。開店前に朝昼兼用のブランチを摂り、夜は少し早めにガッツリ食べる。あまり夕食が遅いと太りやすい。ミツハはもっと肉を付けるべきなのだが。

従業員がひとりなので、トイレとかの時は客が途切れたタイミングを見て一時的にドアの外に休憩中の札を下げてカギをかける。途切れなかったら…、耐えるのだ。

11時。客の姿はまだない。まぁ、初日だし、店の存在も知られていない。人々も勤務時間中だし。お昼になれば食事に出た人が寄ってくれるかも。

13時。客の姿はまだない。

15時。客の姿はまだない。

16時。客の姿はまだない。

閉店時間である。

ミツハはがっくりと会計台に突っ伏した。

まぁ、まだ初日だし。新聞に折り込み広告入れる日本のスーパーの開店セールとは違うのだよ、開店セールとは! 赤く塗っちゃろか!

開店2日目。

11時。客の姿はまだない。

13時。客の姿はまだない。

15時。客の姿はまだない。

16時。客の姿はまだない。

閉店時間である。

ミツハはがっくりと会計台に突っ伏した。

みんなの仕事が終わる帰宅時間帯まで店を開けておくべきだろうか。

いや、それには大きな問題がある。

『私が働く時間が長くなる』という大問題が!

それは絶対に許容できない。

どうする? どうする?

う~ん、初っぱなからの大ピンチ!

とりあえず、明日もダメならいよいよ何か考えよう……。

開店3日目。

11時。客の姿はまだない。

13時。客の姿はまだない。

15時。客の姿はまだない。

神様ぁ~!

チリリン

来たあぁぁ~~~!!!

「いらっしゃいませェ~~!」

そこには、質素ながらもきちんと洗濯されているらしい服を着た、3人の少女の姿があった。

「このお店って、できたばかりよね?」

3人の少女のうちのひとりが訊ねる。

「はい、一昨日開店したばかりです! どうぞ、ごゆっくりご覧下さい」

あまりしつこくするのは逆効果だ。ミツハは少女達が陳列棚をゆっくりと見て廻るのをドキドキしながら見ていた。少女達は実用品コーナーから見ているようだ。

「…え、何これ? 『鱗取り器』?」

少女のひとりが戸惑ったような声をあげた。

「はい、魚の鱗が簡単に取れて、魚の調理にはとっても便利ですよ」

ミツハはすかさず言葉をかける。が……。

「さ、魚の調理?」

「鱗を取るぅ?」

…え? 何か変なの?

しばし顔を見合わせた少女達は次の棚へと移動する。

調理器具。懐中電灯。置き時計。文具。様々な実用品コーナーの商品を興味深そうに眺めながらも、購入する気配は全くない。次の小物コーナー、ファンシーコーナー……、くっ、そこもダメか。あとは……。

少女達の足が止まった。

「洗髪薬……?」

キター!!

「はい、それは髪の汚れを落とし痛んだ髪に潤いを与える、女性のための魔法の薬!」

この世界にも一応石鹸はある。しかし原始的で効果の低いものであり、臭いも良くない。それでも高価で、貴族かある程度裕福な者しか使っていないのだ。洗髪においてもその石鹸を溶かして使うのが精一杯、とても庶民が使えるようなものではない。

そこに、このポンプ式容器にはいった液体洗髪料である! しかもお徳用サイズ!!

「銀貨8枚、って…」

うん、普通の宿が朝夕の食事付きで銀貨4~5枚。庶民のお小遣いの使い道としては決して安くはない。しかし、市販の石鹸に較べるとその費用対効果は比較にならないはずだ。何しろ、ブヨブヨですぐ無くなるのだ、ここの石鹸は。伯爵邸でベアトリスがブツブツ愚痴を溢していた。あ、今度プレゼントしてあげよう。

「お客様、それは超お勧めです。それ1本で何十回も使え、美しい髪が手に入るというお買い得品です」

「え、何十回も!」

多分少女達はどこかの使用人か何かであろう。自分の身支度にそうそう時間はかけられず、かと言って身嗜みには厳しい。そのため髪にかける時間を節約するためかあまり長髪の者はいなかった。これなら結構の回数使えるはずだ。溶かした石けん水のようにじゃぶじゃぶ使う必要はないのだから。

「はい、この店の信用にかけまして!」

少女達はどうする、どうすると相談していたが、そのうちに手にしていた洗髪料をそっと棚に……って、あぁぁぁぁ~!

「ま、待って下さい! 証明してみせます! どなたかおひとり、無料でお試し戴きますからッ!」

少女達は互いの目を見合わす。

「どうする?」

「気になるけど、時間もあんまり…」

「うん、今日はせっかくの半休だから何か美味しいもの食べようって決めてたもんね…」

あぁ、ああぁぁぁ~~っ!

せっかくの客が! 初めてのお客様がァァっ!!

ミツハはテンパっていた。何故か、この客を逃すと全てが終わるかのように追い込まれていた。

初めての客、逃がしちゃダメだ、逃がしちゃダメだ………。

「わ、分かりました! 美味しいモノ出します! 出しますからァ! 絶対に美味しいと保証します。食堂より美味しいです。タダです、無料です! だから試していってくださいィ!!」

ミツハのあまりの必死さに少し憐れみを覚えたのか、断りづらくなってきた少女達はどうしよう、どうしようと困り顔。そして遂に。

「……分かりました。じゃ、お願いします」

やった! 今回ばかりは子供に見える外見に感謝である。

「では、こちらへどうぞ」

ドアに閉店の札を下げカギをかけたミツハは少女達を調理場の奥へと案内する。そして体験者に名乗り出た少女に衣服を脱ぐように言い、自分も下着姿になって給湯システムの起動スイッチを入れた。シャワーのレバーを操作しお湯の温度を確認する。

「え、何々、何これ! 細い水、いや、お湯? なにコレぇ!」

裸になって浴室にはいってきた少女が驚愕の声をあげた。残りのふたりも浴室を覗き込む。

「さ、どうぞここにお座り下さい」

驚きながらもミツハの指示通りに風呂椅子に腰掛ける少女。

「ひゃっ!」

突然頭にお湯をかけられ驚くが、次第に気持ちよくなってゆく。

庶民にとっては風呂など贅沢品、洗面器のぬるま湯に浸したタオルで身体を拭き、その後絞ったタオルで髪を拭う程度。だから髪は皮脂でべとべとしている。こんなに贅沢にお湯を使うなんて……。

そして驚く間もなく、次の洗礼が待っていた。

シャンプー。今回はリンス入りである。分けてするのが面倒だったし、ミツハも元々リンスインシャンプーを使っているので。

しゃかしゃかしゃかしゃか。

う、まずい。あまりに汚れているから泡立たない。

ざぱー。

しゃかしゃかしゃかしゃか。

ああっ、まだ!

ざぱー。

しゃかしゃかしゃかしゃか。

よっしゃあ!

ざぱー

「すいません。普通は1回でいいんですけど、汚れがあんまり酷かったので3回になっちゃいました……」

酷い! と、汚物呼ばわりされた女の子は涙目である。

「ああ、す、すいません! お詫びに、ボディシャンプーもサービスしますから!」

ミツハはあわてて少女の身体にシャワーをかけてボディシャンプーを差し出した。流石にソープランドごっこは勘弁して欲しい。掌に適量を押し出してやり、体中に延ばして洗うよう指導する。

「わ、うわわ…。凄いこれ。いい香りがするし…」

無事デモンストレーションを終えて浴室から出ると、被検体の少女Aにバスタオルを渡し、自分も簡単に水気を取り、ミツハはドライヤーを用意した。

うわ、なにこれフカフカ、とまた騒いでいる少女Aにドライヤー攻撃!

「ぎゃあああ!」

悲鳴をあげる少女Aであったが、すぐに危険はないと分かるとドライヤーを楽しみだした。

「ホント、何なのよここ。凄すぎる……」

興味津々で様子を見ていた少女B、少女Cも呆然としていた。

売り場に戻った3人は悩みまくっていた。

洗髪薬は絶対欲しい! でも、洗身薬も欲しい。それぞれ銀貨8枚。今日はそれぞれの巾着袋の中には銀貨12枚、9枚、10枚。みんな、どちらか片方しか買えない。う~ん……。

悩みの理由を察したミツハが解決策を提案する。

「ではみなさん、銀貨8枚ずつ出し合って、それで洗髪薬と洗身薬を1つずつお買いになって3人で共用されては如何でしょうか」

「え? それだと8枚多くない?」

少女Bの言葉に、ミツハはにっこりと微笑みながら30センチ四方くらいの綺麗なビロード張りの箱を差し出した。中にあるのは綺麗に輝く数々の指輪、腕輪、ネックレスにブローチ達……。

「全て、1つ銀貨8枚です」