作品タイトル不明
126 敵地視察 1
「おかあさんに、知らない人とお話ししちゃ駄目、って言われてるの……」
必殺、『子供の振り』!
久し振りだな、これ使うの……。
「え……」
うん、困ってる困ってる! ここの人から見れば、私はせいぜい12~13歳にしか見えないからね! ……全然嬉しくはないけど。
私に声を掛けてきたのは、20歳過ぎくらいの、まだ若い軍人さん。階級章を見ると、地球の軍隊だと上等兵相当の階級。このあたりは、ちゃんと捕虜の皆さんの階級章を見て覚えてきてる。
「あ、いや、怪しい者じゃないよ!」
「怪しい人は、みんなそう言うって、おかあさんが……」
「うっ……」
よし、困ってる困ってる!
……って、あんまり苛めちゃ可哀想か。むこうもお仕事、悪気があるわけじゃないんだから。
「お父さんが帰ってこないから、待ってるの。カリアード号に乗って出港してから、もうかなり経つのに……」
カリアード号というのは、例の3隻の拿捕船のうちの1隻だ。
「う……」
軍人さんは、言葉に詰まってる。
そりゃまぁ、探検船団なんか、博打と同じだ。成果がないだけならばともかく、無事帰ってくるとは限らない。いや、帰ってくる可能性はそんなに高くないだろう。……事実、帰ってこないしね。
しかし、女の子に『無事帰ってくる可能性は低い』なんて言えないよね。
「何か、御存じじゃないですか?」
「あ、いや、その、わ、私は部署が違うから、よく分からないんだ、ごめんね。じゃ……」
そう言って、そそくさと立ち去る、軍人さん。
よし、勝った!
多分、さっきの軍人さんは、警備の人なんだろう。
ここは別に軍の敷地内じゃないし、軍船の外観が秘匿されているわけでもないから、ここから船を見ていても、全く問題はない。他にも、見物している人はいる。なのにわざわざ私に声を掛けたのは、ただ単に女の子がこんなところでひとりでずっと座っているから、心配してくれただけなんだろう。
……それとも、まさか、ナンパ? ナンパなのか?
いやいやいやいや、ないわ~……。ここじゃ、私は12~13歳くらいに見えるはずなんだからねぇ。14~15歳の男の子ならばともかく……。
「君、ひとり? カフェで紅茶でも飲まないかい?」
ぎゃあああ!
14~15歳の男の子に声を掛けられたあぁ!
うん、 言(こと) 霊(だま) 、恐るべし!!
ぺーぺーの、新人水兵さんらしき服装。
そうだよねぇ、ここの成人年齢は15歳なんだから、多くの若者を採用する軍隊なら、当然その年齢の者は採用するよねぇ……。下手したら、もっと下の年齢の者も、幼年兵だとか、軍の幼年学校とかで採用しているかも知れないし。
雑用係や船内の伝令役、見張り、そして士官の身の回りの世話等、子供にもできる仕事はいくらでもある。
そして軍人のお休みは、交代で出すだろう。基地の全員が同時に休むなんてことはないだろうから。それに、夜勤直の明けとか、色々あるだろう。なので、若手が平日に休みでも、全然不思議はない。そして、この時代だと、軍隊には地上施設の事務員か売店のおばちゃんくらいしか、女性はいないだろう。特に、10代の女の子となると……。
そりゃ、食い付くわ! こんなところで、軍船に興味がありそうな女の子がひとりで 佇(たたず) んでいたら……。
普通であれば、勿論、即答でお断りする。
でも、今回の私の使命は、『情報収集』である! うん、口の軽そうな情報源は貴重だよねぇ。
新兵さんが知っている程度のことならば捕虜のみんなからも聞いているけれど、彼らがここを出てから時間が経っている。
下っ端さんと高級士官の情報量の差と同じくらい、この、情報の鮮度の差というものは大きい。初歩的なことは、士官から重要な情報を聞き出す前に、下っ端さんから聞いておいた方がいいだろう。その方が効率的だし、疑いを招く確率が下がる。
なので、少し俯いて、恥ずかしそうにもじもじして見せて、こう答えた。
「……う、うん……」
私だって、男の子に声を掛けられたことくらいあるのだ! そして、男の子が喜びそうな態度くらいできるのだだだ!!
声を掛けられたのは高校2年の時で、相手は中学1年だったけどね!
その場で断ったよ、チキショーがあああぁっっ!!
あと、ひとつ上の先輩からお付き合いを申し込まれたこともある。
……女の先輩だったけどね! 『私の、プティ・スールになって欲しい』って、何ですかあぁ!
チキショーめっっ!!
はぁはぁ……。
いや、それは置いといて!
「この時間でも開いている店があるんだ。そこへ行こう!」
ダメ元で声を掛けたら成功してしまったのか、声を掛けてきた男の子が、信じられない、というような顔をして、慌ててそう 捲(まく) し立ててきた。うむうむ、ここはひとつ、お姉様がリードしてあげねば……。
「うん、分かった!」
そしてやってきました、さっきの場所から歩いてすぐの、1軒のカフェ。
席は、テラス席ではなく、店内のテーブル席。
このあたりでは、何と、同じ店の同じメニューであっても、席によって値段が違うらしいのだ。
一番高いのがテラス席で、一番安いのがカウンターと立ち飲み席。店内テーブル席はその中間。テラス席とカウンター席は、値段が2~3倍くらい違うらしい。
ぺーぺーの、私から見ると少年としか思えない年齢の子にあまりお金を使わせたくないから、カウンターか立ち飲み席でもいいと言ったのだけど、男の子として、それは許容できなかったらしい。
本当は、恰好をつけてテラス席にしたかったみたいだけど、どうやら、お金以前の問題があったらしい。……うん、それは、『ここが、海軍基地の 直(す) ぐ近く』だってことだ。
大きな基地なのだから、今日が休みの軍人さんは、それなりの人数である。そして勿論、その中にはこの軍人さんの同僚、先輩、上官とかもいるわけで、その多くは奥さんも彼女もいない。
そして、テラス席は目立つ。
うん、まぁ、そういうことだ。
「カフェを」
「私は、カフェ・アロンジェをお願いします」
ウェイターに飲み物を注文し、 暫(しば) しの歓談をば。
あ、軍人さんは基地の食堂で無料の朝食を食べてから外出しているから、お腹は空いていないらしい。私も、宿で朝食を摂ったから、飲み物だけ。カフェ、と注文するとエスプレッソが出てくるらしいから、普通のやつ、つまりCafé allongé(コーヒー、薄め)を注文した。
軍人さんは……、って、15歳くらいの少年に『軍人さん』というのも少し違和感があるけれど、ここでは立派な成人であり、一人前の社会人なのだから、『少年』というのも悪いし、私から見ると、18~19歳くらいに見えるんだよねぇ……。
『兵隊さん』だと、何となく陸軍みたいなイメージだし、『水兵さん』というのも、士官や下士官ではない『下級兵』と言っているみたいで、もし相手が下士官だったら失礼に当たるから避けたいし……。そうなると、やはり『軍人さん』が無難なのかなぁ……
まぁ、とにかく会話だ!
いや、私も、男の子との会話くらいできるよ。
「お誘い、ありがとう! あなたは船乗りなの? それとも、陸上勤務?」
まずは、相手の所属からだ。それによって、聞き出す情報の方向性が変わるし、信頼性も変わる。女の子に聞かれて『知らない』とは言いづらいから、この年齢の男の子は、絶対、知ったかぶりして適当なことを言うに決まってる。だから、信憑性はこっちで判断しなきゃね。
「ふ、船乗りだよ! 新鋭の64門搭載艦、『リヴァイアサン』に乗ってるんだ、凄いだろ!」
よっしゃあ、当たり!!
陸上員でも、いい情報は取れる。でもそれは、ある程度以上の階級で、上の情報に携わる配置の者でないと駄目だ。でも、船乗りならば、下の者でもある程度の情報は持っている。艦の性能とか、搭載兵器とか、行動予定とか……。
そして、若い船乗りは自尊心が高い者が多い。
海軍は、船乗りだけで廻っているわけではない。陸上勤務の者達によって船の運航が支えられており、そこに業種の貴賤はない。しかし、若い者はどうしても、船に乗って戦場へ行く自分達が偉い、と思いがちであり、そこを煽てられると口が軽くなる。しかも、捕虜達の話や港に停泊している船の様子から、64門艦というのは、最新鋭の船らしい。拿捕艦は40門だったし。
軍人さん……、いや、明らかに年下なのに、この呼び方はやっぱり違和感バリバリだ。もう、『軍人くん』でいいや!
で、この軍人くんは、多分私のことを『ちょっと裕福な、移民系の家の娘』くらいに思っているのだろう。12~13歳に見える私がスパイとは思わないだろうし、スパイならわざわざ異国風の顔立ちの者は使わないだろう。それに、わざわざ下級兵を相手にするはずがない。
……いや、そこまでは考えないか。まだ15歳前後の若者だからなぁ……。
私の服装も、見る者が見れば高価なものだと分かるけれど、普通の男の子から見れば、『庶民の女の子が、精一杯頑張っておしゃれした服』くらいにしか見えないだろうし。
男の子ってのは、女の子の服装にどれだけお金が掛かるかとか、美容やお化粧にかかる手間やお金のことは全然知らないんだよ! ……いや、私は手間もお金も掛けてないけどね。酒屋のみっちゃんがいつもそう言って愚痴を溢してたよ。
とにかく、情報戦、開始。
レディ、ファイッ!