軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

109 次なる国は 2

自宅に戻ってお風呂を済ませ、宿に戻り、夕食。

3人ではいると、結構長湯になる。私は元々、ひとりでも長湯なのに。

いや、ストレッチしたり筋トレしたりして湯船から出たり入ったりしていると、2時間くらいすぐ経つよね?

そういうわけで、早めに宿を取ったけど、すぐに夕食の時間となったわけだ。

今から外に出て食堂を探すのも面倒だし、この宿ならば食事も期待できるはず。高くても構わない。うん、経費で落とせるからね。後で王様に請求できるよう、ちゃんとメモを取ってある。

食事は、さすが高級な宿屋だけあって、かなり豪華。

だけど、豪華、イコール美味しい、ってわけじゃないんだよなぁ、これが……。

いや、別に 不味(まず) いというわけじゃないし、手抜きというわけでも、食材費をケチっているわけでもない。香辛料とかも、結構使ってある。でも、まぁ、現代地球の洗練された料理、手間暇かけた技法に較べる方が気の毒か。サビーネちゃんも、以前はこの世界での高級料理ばかり食べていて、それが普通、という感覚だったらしいけど、地球の料理をたっぷりと味わってしまった今では、この世界の料理では満足できなくなった様子。

コレットちゃんだけは、地球の料理もこの世界の料理も、充分幸せそうに食べている。うん、まぁ、あの村での食事に較べたらねぇ。文句を言っては罰が当たるか。

食後は、早めに就寝。明日から、王都見学だ。

……と思っていた時代が、私にもありました。

翌日、昼2の鐘(15時)の少し前にヤマノ領に転移して、無線機の前でスタンバイ。時間丁度に呼び出すと、王様と本隊の伯爵様の両方から応答があった。

私達が地球で時間を潰したから、もう明日の夕方には王都に到着するとか。

まぁ、別れた時には、最初の国、ダリスソン王国の王都マスリカを出てからかなり経っていたし、この辺りの国はあまり大きくないから、そんなもんか。まだ半日しか王都見物をしていないから、明日は夕方まで遊び回ろう。

泊まっている宿の名前を告げて、連絡終了。王様とは昨日色々と話したし、伯爵様とは明日会うのだから、今、無線で話す必要はない。

そしてサビーネちゃんとコレットちゃんは「ヤマノ家メイド少女隊」のみんなと遊び、私は首脳陣と話し合い。うう、私もリアちゃんと遊びたいよぉ……。

夕食は邸で摂ってから、ふたつめの訪問国、クールソス王国の王都サクオンへ帰還。

翌日は、昼過ぎまであちこちを見物して回った。勿論、食べ歩きを兼ねて。

そして、少し早めに宿に戻った。本隊が早めに到着するかもしれないので。

宿の1階、フロントの近くにあるテーブル席で 寛(くつろ) いでいると、顔見知りの文官さんが入ってきた。私達に気付くと、立ち止まって頭を下げ、その後、フロントへ。それを見ていたフロントマンは、当然、私の連れが到着したのだと判断しただろう。そして……。

「ゼグレイウス王国からの使節団だ。部屋を頼みたい」

「え……、は、はい、承りました。何名様でございましょうか。部屋割り等の御希望を伺いたく……」

うん、一瞬動揺したようだけど、持ち堪えた模様。さすが、一流店のフロントマン!

……しかし、今回は先触れを出していなかったのか、伯爵様。まぁ、サビーネちゃんが泊まっている宿に泊まると決まっているのだから、省略したのかな。というか、当然私達が予約して説明していると思った、とか? うわわ、マズったか?

そして、大所帯の使節団をひとりで捌けるはずがなく、呼ばれた応援部隊と支配人さん。

後は、前回とほぼ同じ。皆が部屋に落ち着くまでしばらくかかるだろうから、次の顔合わせは夕食の時かな。

夕食は、いつもと同じく、伯爵様やクラルジュ様、そしてその他の随行員の方々からの 攻撃(アプローチ) を 躱(かわ) し、食事に専念。時々サビーネちゃんやコレットちゃんと会話して、何とか逃げ切り。毎回、これが苦痛で仕方ない。うう、何か良い逃げ道はないものか……。

「では、明日の打ち合わせを始めようか」

というわけで、食事が終わった後、主要メンバーだけのお茶会兼作戦会議である。

「この国は、国王は健在、王太子殿下から第3王子まで、そして第1王女から第4王女までと後継者には不自由していない」

……それって、いいことのような、揉め事のタネになりそうな……。

「第4王女以外は成人済み、王太子殿下と第2王子、第2王女は正妃との子供であり、後継者争いの心配はない」

ありゃ、じゃあ、政情的には問題ないじゃない。

「なら、今回は普通にしていれば問題ありませんね」

私がそう言うと。

「うむ、この国の安定、という面に関しては、前のダリスソン王国のような心配をする必要はない。ただ、少し問題があってな……」

「問題?」

「ああ、国王の性格が非常に悪く、自国の利益のためならば身勝手な条件をゴリ押ししたり、汚い手も平気で使うのだ」

「それって、『少し』じゃないですよね、『少しの問題』じゃあ!」

何か、うまく行く気が欠片もしないよ……。

それから、みんなで色々と作戦会議。

勿論、伯爵様は国を出る前に王様と細かい打ち合わせを行っている。だから、許容できる範囲とか、落としどころとかについては、相手国ごとにしっかりと決められている。そして、想定外の事態においては、使節団長である伯爵様に、かなりの裁量権が与えられていた。

いくら無線で連絡が取れるとはいえ、会議の途中でお伺いを立てるわけにもいかず、また、王様に確認したと言っても信じて貰えるはずもなく、そして無線機のことをべらべらと喋るつもりもない。情報伝達の早さは、ある意味、銃に匹敵するようなアドバンテージなのであるから。

「じゃあ、交渉が決裂しても構わない、と?」

「うむ。強気に出てゴネれば自分達の言い分が通る、などと思われては、多くの国々との調整などできるはずがない。2国間の話し合いならばともかく、多国間協定でひとつの国だけを優遇するわけには行かんし、それを通せば、纏まるものも纏まらんだろう。

なに、儂らはあくまでも『協定のための、事前説明役』に過ぎん。協定を結ぶ、結ばぬというのは儂らの仕事ではないのだ。だから、説明を聞かぬと言うなら、そうですか、と言って立ち去れば良いだけのこと。

まぁ、向こうも馬鹿ではないのだから、ゴリ押しが通用せぬ、却って逆効果で国の損失を招くと悟れば、条約締結のための使節団に対しては少しは考えるだろう」

「なるほど……」

そして、向こうが強気で来るならばこちらも同じ態度でお返ししようという、 攻撃反射(カウンター) 作戦が決定されたのであった。

「この度は、会談の場を設けて戴き、ありがとうございます」

翌日の昼過ぎ。謁見の間での儀礼的な挨拶を終え、場所を会議室に移しての、会談の始まりである。

まずは、伯爵様から、今回の使節団訪問の目的と、事態の詳細についての説明が行われた。

「……そういうわけで、正式な協定の締結のための会談に先立ちまして、状況説明のための使節として我々が派遣されたわけであります」

「「「…………」」」

むっつりとした顔で黙りこくったままの、国王、第1王子、そして第2王子。第3王子は、側室との子であり継承順位も低いからか、少し他人事のような冷めた眼で見ている。他の列席者である大臣や重臣達は、国王の反応を見守っている。

「……では、その協定に参加する国の取り纏め役、我が国が引き受けてやろう。そして、とりあえずはその『銃』とかいうものの見本品を上納して貰おうか」

そう言って私が背負っているケースを指差す、あまりにも傲慢な国王の言い様に、あからさまに顔を 顰(しか) める伯爵様。

伯爵様も、年配の遣り手貴族である。普通であれば、いくら不快に思っても、他国の国王に対してそのような顔を見せるはずがない。……つまり、わざとである。そう、そういうことであった。

「……とのことだが、どうなさるかな、姫巫女殿?」

「ん、お話になりませんね。では、クールソス王国は協定には不参加、ということで。では、次の国へ参りましょう」

「うむ、心得た。では、国王陛下、この度は謁見及び会談の場をお与え戴き、ありがとうございました。この件ではこれ以上お手を 煩(わずら) わせることのないよう、本会議のための使節団は来ぬよう手配しておきますので、御安心を。では、これにてお 暇(いとま) 致します。陛下とクールソス王国に女神の祝福を賜らんことを……」

そう言って、席を立つ伯爵様と、それに続く私達、そして随行員の方々。

「「「え…………」」」

きょとんとした顔でそれを見る、クールソス王国の国王、王子、そして重臣達。

当たり前である。何も、本気で先程の条件が通るなどと思っていたわけではない。最初に過大な条件を提示して、それから少し譲ってやり、という、交渉術のひとつに過ぎない。そういうつもりで出した条件であるし、当然相手側もそれくらい理解しているはずであった。なのに、この反応は、全くの予想外のことであった。

そして、先程聞いた説明から、この協定に加入しないということは、国にとっては自殺行為である。そんなことは、馬鹿でなければ、いや、相当の馬鹿であっても分かる。

「ま、待て! いったい何を……」

焦って、思わず腰を浮かせながらそう言う王様に、伯爵様が感情の籠もっていない平坦な声で説明した。

「いえ、陛下がこちらの許容範囲を超えた条件を御提示なさいましたので、姫巫女殿がこれ以上の説明の必要はないと判断されました。なので、陛下や重臣の方々に無駄な時間を費やして戴くのは申し訳ないので、これにて辞去させて戴こうと……」

「な、何を言っておる! 今から交渉が始まるのであろうが!」

そう叫ぶ国王から視線を外し、私の方を見る伯爵様。うん、選手交代だね。