軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

91 護岸工事②

広げられた地図は、以前見たものよりもバージョンアップされていた。

貯水槽の設置場所の調整がそろそろ終わるということだったけど、それはつまり、領内の主だった農業エリアを踏破したということだ。

彼らは訪れたエリアのマップを、すぐさま最新のものにアップグレードしてくれていたみたい!

もう、本当に優秀! ますます返したくない。

キーファーが真剣な顔で説明してくれる。

「ここの蛇行している辺りで度々水害が発生しています。数年に一度の割合で越水が生じていました。二十年ほど前の記録的な豪雨の際には濁流が一帯を襲い、亡くなった方も出たようです。最初に手を付けるとしたらここになるかと思います」

キーファーが指差した箇所は、一目でヤバそうとわかるほど、急角度の『く』の字にへこんでいた。これじゃあ勢いがついたら曲がりきれない。

「蛇行なんてものじゃないわね。激しい水流がぶつかったら耐えられないでしょうね。ここは真っ直ぐ流れるようにすればいいのかしら?」

「はい。直線であれば勢いがあってもそのまま下流へ流れていきますから。マルティーヌ様の土魔法でここを繋げて流路を直線にすることができれば、被害を最小限にすることができると思います。また可能であれば全体的に川幅を広げ、同時に川底も掘削出来れば、なおよろしいかと」

直線で繋ぐとなると、今ある畑をつぶす必要がある。畑の真ん中を川が突っ切る形になるのだ。

今ある畑を、川を挟んで向こう岸の場所と交換してくれと言われたらキツいだろうな。埋め立てたといっても元川だし。それにいちいち川を渡っていては作業効率がガタ落ちだ。

私の心中を察したように、キーファーがすかさずフォローしてくれた。

「マルティーヌ様。領民の皆さんは、『川の流れを変えて氾濫を防げるのなら、どんな協力も惜しまない』とおっしゃっていました。助け合って生活している仲間が亡くなるというのは、本当にやりきれませんからね」

「……そうなのね。あなたが提案してくれたことは全部、おそらく私の魔法で出来ると思うわ。そうなると、川を通す予定の畑について、どのような補償が適当か検討する必要があるわね。畑の管理者の希望も聞いておきたいわ」

「かしこまりました」

キーファーがそう答えると、「では私が」と、スコットが引き継いだ。

「周辺の領民の皆さんには、川の流れが変わる可能性があるとしかお伝えしておりませんので、早急に意向を確認して参ります。畑をつぶすにあたり、その代わりとなる物をどうするのかも、希望があるようでしたら聞いて参ります」

「では、よろしく頼むわ」

「はい」

スコットはそう言うなり深々と頭を下げると部屋を出て行った。

「本当にすぐに行くのね……」

「まあせっかちな性分でもあるのですが、やはり懸案事項は早めに潰しておくに限りますから」

すごっ! 何て頼もしいんだろう。

私の称賛の眼差しに笑顔で応えたキーファーは、本題に戻った。

「畑を管理されている方も、おそらく工事に反対はされないと思いますので、マルティーヌ様には、あらかじめ手順をご確認いただきたいと思います」

「そうね。では当日の工事の流れを教えてちょうだい」

「はい。その前に、今回の工事に関しては、最終的な完成の日を決めておりません」

あまりにもキッパリと言われたので、危うく反射的に同意してしまいそうになった。

「完成の日を決めていない? それはどういうことかしら。詳細な作業日程を決めていけば、おのずと完成予定日は決まるのではなくて?」

「はい。その通りでございます。本来であれば、水量や川底の土壌の状態等を調査した上で、工事内容を精査し必要な人員を割り当てるのですが、今回は工事のほとんどをマルティーヌ様が担われます。ですので、まずはマルティーヌ様にかかる負荷を確認する必要がございます。最初は下流の川幅の拡張をお願いし、その進み具合などを見た上で、大まかな日程を考えたいと考えております」

「それって――」

「はい。レイモンさんから言いつかりました」

キーファーは苦笑しているけど、必要なことだと認識しているみたい。まぁ私って、見た目は子どもだもんね。仕方がないか。

レイモンの心配性はもう諦めよう。

「わかったわ。川幅をどれくらい拡張するかは、当日現地であなたの意見を聞かせてちょうだい」

「かしこまりました。下流域の浸水被害も過去にはあったようですので、工事の順番としても、マルティーヌ様にどの程度のお力をお出しいただくのか図るにしても、一番良いと思います」

結局、まずは下流から着手ということで、川幅拡張をして、川底の掘削工事をした後、問題の蛇行箇所に着手する流れに決まった。

「新たな直線部分の掘削工事が一番大変だと思いますので、ここに関しては時間など気にせず、マルティーヌ様のお疲れ具合で進捗を決めたいと思います。直線部分の掘削範囲は、目安となる川幅がわかるように、補助作業員たちがあらかじめ等間隔に小さな穴を掘っておきますのでご心配なく」

キーファーはそう言って、「おおよそこれくらいです」と、地図に直線を書き込んでくれた。

「わかったわ。じゃあ、ここからここまでを掘るのね」

「はい。なお、現状の川と合流させるのは最後にしますので、川上も川下も合流地点の少し手前までで止めていただければと思います」

ふむふむ。あらかた川を作っておいて、最後に川下、川上という順に貫通させる訳ね。その後で元の蛇行部分を埋めちゃえばいいのか。

先に貯水槽を作っておいてよかった。私は今ではもう感覚的に、必要な工事が「出来る」とわかる。

今回は巨大な大地に手を当てて魔法を使うので、材料は無限だ。もうやりたい放題だから何の問題もない。

……忘れてた! 護(・) 岸(・) だよ、護岸。そうそう簡単には越水を許さないように手当しておかないとね。

コンクリートの正確な作り方を知っていたらよかったんだけど、ふわっとした記憶しかない。

通学路の途中にセメントだかコンクリートだかの工場があって、大きなタンクや砂山があったのは覚えているんだけど、何をどれくらいの配合で混ぜればいいのかは知らない。

なんとなくセメントに砂や砂利を混ぜると聞いたことがあるくらい。

成形魔法で、増やす材料を変えながら完成形を思い浮かべて作ったら、どれか成功するかなぁ……?