軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

68 マヨネーズ作り

おそらく十人中十人が、「好き」か「割と好き」と言う調味料――それがマヨネーズ。

いつかは作らねばと温存していた、私のとっておきの武器だ。

マヨネーズを手作りするのは久しぶり。

小学校で初めて作ったときは、あの「乳化」ってやつに感動したなぁ。

大人になってもタルタルソースを作るときだけは、いつもマヨネーズから作っていたから、黄身一つに対する酢と塩の分量も覚えている。

油は味見しながら、ちょろちょろと入れていたから量はわかんないけど。

まあアルマのことだから、微調整に次ぐ微調整で完璧な黄金比を見つけられると思う。

――ということで、早速アルマと一緒にマヨネーズ作りを始めた。

「あ、アルマ、いったん止めて。これくらいで完成にしていいと思うのだけれど。小分けにしてそれぞれに油を足して違いをみてみる?」

「はい。マルティーヌ様。それにしても卵の黄身がこんな風になるとは! 味見をしてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ。味の調整はあなたに任せるわ」

そう言いつつ、私もバージョンゼロのマヨネーズをスプーンですくって舐めてみる。

懐かしい!

ゆで卵にマヨネーズをかけただけで、この世界の住人たちは驚愕するんじゃないかな?

もう、タルタルソースを出した日には卒倒しかねない。

そうだな、タルタルは次に取っておこう。今日はマヨだけデビューだ。

マヨネーズがあれば、マヨネーズあえとかマヨネーズ炒めとかができるし、ケチャップと混ぜてオーロラソースにして、それを使って炒めても、ドレッシング代わりに生野菜にかけてもいい。

ちぇっ、万能かよマヨネーズ!

ケチャップ好きの私としては、前世でもマヨラーに負けっぱなしで寂しい思いをしていたんだよね。

「どう? 私が何を作ろうとしているのかわかった?」

「――はい。わかったと思います。これはすごいです! マルティーヌ様。これは――これは本当にすごいです」

アルマが語彙を無くしている。

それでも目を輝かせているから、多分、あとは彼女に任せて大丈夫だと思う。

さぁメインディッシュは何がいいかな。マヨネーズに合うものといえばフライ料理だけど、まだこの世界では作ったことがなかった。

まぁこれも次回に温存しておくか。公爵は絶対にまたウチに来るだろうから。

今日はマヨネーズとケチャップとオーロラソースの三種類をココット皿に入れて出すことにしよう。

シンプルに生野菜サラダにかけて食べ比べてもらおうと提案したら、ケイトとアルマに反対された。

どうも野菜をスライスしただけのものは夕食にふさわしくないらしい。

それでも、マヨネーズの味をしっかりと脳に刻んでもらうには、下味は極力つけない方がいいのだと言い張る私との折衷案で、色とりどりの蒸し野菜を出すことになった。

メインディッシュは、鶏肉とブロッコリーのマヨ炒めだ。

――と言っても、ケイトが頭の中で独創的な味付けを組み立ててくれたみたいで、バジルをはじめとした香草類と塩コショウの味付けに、マヨネーズをonする形で料理してくれることになった。

料理自体はものすごく庶民的なものになっちゃったけど、今日は味をわかってもらう方が大切だからね。

そんな風に盛り上がってきたところで、ローラに「ここまでです」と言われ、私は厨房から連れ出されてしまった。名残惜しいというか気になるけど仕方がない。

匂いを取るために湯浴みをしてからドレスに着替えて、公爵たちをもてなさなければならない。

きちんとホステス役をこなさなければ、せっかくの挽回チャンスが台無しになるもんね。

夕食の席に着いて料理が運ばれてくると、何の心配もないことがわかった。

蒸し野菜とマヨ炒めの他に、何かのパイ包みと、ミニジャガイモグラタン、手の込んだオニオンスープ、変わり種パンが三種と、ちゃんと見栄えも品数も恥ずかしくない程度に用意されていた。

それに、私が何気なく呟いていた「ゆで卵&マヨ」もケイトはしっかり聞いていたらしく、輪切りにしたゆで卵にNを重ねて書くようにマヨネーズをかけたものが出てきた。

後から聞いた話だけど、料理は温かいのが基本ということで、ケイトはその輪切りのゆで卵&マヨを、温めたオーブンの中に入れて仕上げたらしい。

プロの料理人て、本当に手間を惜しまないよね。素敵!

ケイトとアルマのおかげで、公爵をマヨネーズの虜にする作戦――じゃなくて、私のイメージアップ大作戦は成功したようだ。

公爵の目が三つのココット皿に釘付けになっている。

「この左端はケチャップだな。他の二つは見慣れないものだが何なのだ?」

「はい。真ん中の白いものはマヨネーズという調味料です。ケチャップと同様に、色々な料理に使うことで味を引き立たせてくれます。右端のものは、そのマヨネーズとケチャップを混ぜ合わせたものになります。オーロラソースと名付けました」

「君は本当に不思議な名前を付けるな。その耳慣れない言葉はどのように思い付くのだ?」

え? ネーミングセンスが問題ですか?

「ええと。新しい物には独創的な名前がよいかと思いまして。それよりも、どうぞお召し上がりください。三種類とも、このように野菜にかけて食べていただければ、それぞれの味の違いがよくわかると思います」

私が早速蒸し野菜にマヨネーズをかけて口に運べば、公爵と夫人も真似をした。

「まあ! 何とも形容し難い不思議な味がするわ。でも美味しい」

いつもながら夫人は素直に感想を伝えてくれる。

公爵は――。

公爵は一心不乱に食べている姿が答えですね。

「それで、マルティーヌ様? そろそろ種明かしをしてくださらない?」

ふっふーん。私の自慢タイムだ。

「このマヨネーズという調味料は、卵の黄身に塩と酢と油を混ぜ合わせたものになります」

「え? それだけですの? でもどれとも違うお味だわ」

「はい。簡単な材料で作れるのですが、混ぜ合わさることによって、とても味わい深いものに変わるのです」

夫人は、「まあ!」と喜んでくれたが、公爵は納得がいかないらしい。

「モンテンセン伯爵領では、白い黄身の卵があるのか?」

ちっちっちっ!

それこそが乳化っていうやつだから。

「いえ。どこにでもある普通の卵の黄身です。黄色い黄身が、油と混ぜ合わさることによって、このように白く変わるのです」

あ――。またしても表情の制御を忘れて、ドヤ顔でニタついてしまったみたい。

公爵がピキッと表情を固めた。

まぁでも。もう、いいか。いちいち機嫌を取るのも面倒臭い。

夫人は満面の笑みで食べ進めてくれているし。

公爵も、私が得意げに回答する様が気に入らなかったようだけど、その割にはフォークを置くことなく口に運んでいる。

二人とも、もうすっかりマヨネーズの虜だね!