軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

64 ケチャップの売り方

翌日、厨房に大きな寸胴を四つほど差し入れた。もちろん煮沸消毒用のカゴも一緒に持ち込み、使い方を教えた。

「使い勝手が悪ければ、いくらでも改善するので正直な感想を聞きたい」――と伝える前に。

一言だけ、念を押しておかなければならない。

「あのね、アルマ。お願いだから、夕食後の片付けが終わったら仕事をやめてね? 夜の鐘が鳴る頃には就寝の準備をしてほしいの。勤務時間が長引かないように気をつけてちょうだい」

「マルティーヌ様。お気遣いありがとうございます。レイモンさんやケイトさんからも同じようなことを言われました。皆さんにご心配をかけないよう、ちゃんと気をつけていますから」

「そう? トマトが傷み始めるまでまだ数日はあるはずだから、一日二、三箱で大丈夫じゃない?」

そう。トマトの木箱は十箱だった。初日にアルマが張り切って二箱をちまちまと調理してくれたので、残りは寸胴で「えいやぁっ」と、まとめて調理出来ると思うんだけど。

「マルティーヌ様。この大きな鍋でしたら、きっともっとたくさん作れます! ご心配には及びません。ここにあるトマトは一つ残らずちゃんとケチャップにしてみせます!」

お、おう。すごい気合いだね。

「じゃあ、よろしくね」

「はい!」

アルマは二日で残り八箱のトマトを調理し終えた。やるな、アルマ!

そして瓶の方もカゴを使って火傷することなく煮沸消毒できたらしい。

公爵がサンプルと言いながらも大量にくれた瓶は全て使い、入り切らなかった分は、自家製のピクルス用の瓶を成形魔法でこっそり増やして入れた。

アルマはレイモンに相談して、臨時雇いの男性を二人厨房に入れていた。

慢性的な人手不足に陥っている我が領地だけど、こんな風に迅速に人の手配が出来たのには訳がある。

人的資源が壊滅的に不足しているところに、私が正義の味方ぶって36協定よろしく長時間労働を認めていないので、レイモンには精神的に相当な負荷をかけてしまっていた。

本当に申し訳なく思って、これでも悩んでいたのだ。

その結果、ネックとなっている人手不足を解消するには外部委託しかないと思い、密かに公爵に依頼した。

それはもう丁寧に控えめに、あくまで力不足な領主として現状を憂い、後見人に助けを求めたのだ。

まずは優秀な人材を当てる必要がある、例の貯水槽設置案件に従事してもらう担当が欲しい。

レイモンは、「最低でも五、六名は必要だと思います」と言っていた。

『文官経験のある方や、土木事業を経験された方などに応援に来ていただけると、本当に助かるのですが――』

と、ほんの少しばかりの要望も忘れずに付け加えて。

私のささやかな願いは何とか公爵に届いたようで、「前向きに検討する」と約束してくれた通り、レイモンの補佐をしてくれる人間を二人派遣してくれたのだ!

これにはレイモンも驚いていたけど、

「よい機会ですので、見込みのある者をそれぞれ同行させて、彼らの仕事ぶりを学ばせようと思います」

と嬉しそうにしていた。

ただ手伝ってもらうだけでなく、学びの機会にしようという訳ね。オン・ザ・ジョブ・トレーニング――OJT!

レイモンも後進の育成を考えていたんだ……。

選抜された使用人は二十代と三十代だったので、その次の世代代表として、ジェレミーをねじ込むことに成功した。

レイモンは「さすがにそれは――。次の機会でよいのではないでしょうか?」と言っていたけど、思い立ったが吉日、次のチャンスなんていつになるか、そもそも来るかどうかさえわかんないもんね。

いつだって「今がその時」って思った方がいい。

あの子は要領がいいので、うまくやれると思う。

――ということがあり、本来ならば貯水槽絡みの調査班に入る予定だった男性を、一時的に厨房へ回してもらったのだ。

私は彼らに厨房での作業を一日延長してもらい、例のロゴデザインを少しだけ雑にカラーコピーした紙を瓶に貼り付けてもらった。

なんの変哲もない地味な瓶が、一気にとーっても素敵な瓶に様変わりした!

作ってよかったよロゴ! パトリックにも感謝だね。

出来上がったケチャップは、半分は公爵への貢ぎ物にして、残り半分を販売に回すことにした。

普通に食料品店で売っても買い手がつかないだろうから、まずは中心街の食堂にお試し価格で卸して料理に使ってもらうことにした。もちろん小瓶の委託販売も忘れずに。

まずは、そこからのクチコミに期待したい。

私が直接売り歩くことが出来ないので、主だった店の店主に宛てて、領主からの手紙とわかるよう封蝋した手紙を書いた。

文面はレイモンがしたためて、私は最後にサインしただけだけど。

数日して第一報が入ってきた。

「領主様が特産品として開発されたありがたい物なので、心していただくように」

と、それぞれの店主たちが頑張って、何とか客に食べさせることに成功したらしい。

食べてもらえば美味しさは伝わると思うので、損はさせないと思うんだけど。

これぞ 上意下達(じょういかたつ) 。簡単に言えば「押し売り」。

客の評判や売り上げへの貢献度等については、続報を待つしかない……。

商品を手に取ってもらう最初の一歩が課題だなぁ。

この世界じゃ、何故か赤い食べ物って嫌われているんだよね。青色は食欲を減退させるって聞いたことがあるけど、赤色が忌避される理由って何だろう?

この世界の赤い食べ物って、前世と違って毒を含んでいることが多いのかなぁ……?

あー。求む、マーケティング担当。誰かアイデアをください。