軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5 手近な問題を片付けておこう

弔問客を見送った私は、昼食もそこそこにフランクール公爵への手紙をしたためることにした。

「ねえレイモン。まずはフランクール公爵に面会を依頼して、公爵が応じてくださるかどうかの返事をもらうのよね? でも、その返事で公爵から面会の日にちを指定されたら、もうその日で決まりってことよね?」

「当家となんの縁もない公爵閣下のご予定をいただくだけでも恐れ多いのに、日にちの変更など考えられません」

レイモンは、駄目なことは駄目だって、ちゃんと教えてくれるのね。うんうん。出来る部下は主人が皆まで言わなくても真意を理解するもの。

「そうよね。でも私、肝心の領地のことを何も知らないのよね……。公爵に、後見人になってもいいと思ってもらえるような人間じゃないと、きっと引き受けてもらえないと思うの」

領地経営のことなど何もわからない、一人では何も出来ない未成年の女児の後見人なんて、それこそ親族でもなきゃ引き受けないよね。普通は。

――ならば。

最低限、私は真剣に領地のことを考えていて、真面目に取り組む意思があるのだということを、公爵にわかってもらう必要がある。

「公爵家には王家の血が流れておりますゆえ、支援が足りぬばかりにどこかの領地が傾くようなことがあれば、それをよしとはされないでしょう。おそらく国内の貴族の動向には目を光らせていらっしゃるのではないでしょうか。ですから、マルティーヌ様のご依頼を受けられる可能性は、決して低くはないと存じます」

え? ……どうかな。本当にそう思う? 楽観的過ぎない?

だって、その公爵、若いけど切れ者なんでしょう?

「ねえ、レイモン。私が領地に行って、一通り話を聞きながら見て回るには、何日くらいかかるかしら?」

「領地の視察をなさると? さようでございますね……。話を聞きながらですと――広くない領地とはいえ、一日では難しいでしょうね。二日はかかるかと」

ということは、往復するのに四、五日かかるから、視察だけで一週間はかかるのか。うーん。でも一度も領地に行ったことがないなんて、言える訳ないよねー。

「じゃあ、公爵にお会いする前に領地を視察することにするわ。葬儀も終わったばかりだし、公爵には、お許しいただけるなら面会は二週間後以降でお願いしたい旨を書いても失礼には当たらないわよね?」

「はい。その程度でしたら問題ないと存じます。先方にとっても当家は面識のない相手ですから、さすがに返事をするにあたり当家のことを少し時間をかけて調査すると思われます。それに当主の代替わりには時間がかかるものですから、ご承知おきくださるでしょう。ですが、今のマルティーヌ様のお体の状態では、領地の視察は相当なご負担がかかるかと――」

レイモン。心配してくれるのはありがたいけれど。そうも言っていられないと思うのよね。

引く様子のない私を見て、レイモンはなおも続けた。

「マルティーヌ様。王都から領地までは、休憩を減らしてどんなに急いだとしても二日はかかります。旅慣れないマルティーヌ様にはお辛い道中となるでしょうし、到着後もお疲れが取れるまで数日かかるかもしれません。二週間後に公爵閣下との面会となりますと、領地の視察は現実的ではないと存じます」

うぐぐぐ。反論できないわ。とりあえず先に手紙を出そう。

「と、とにかく、まずは手紙を書かなくてはね」

さすがにマルティーヌの記憶はあてにならないので、文章はレイモンに教えてもらいながら、私なりの言葉で真摯に後見人を引き受けていただきたい旨をしたためて、ドニに早馬を手配してもらった。

「あとは公爵からの返事待ちね。はぁ。一息つきましょうか」

「はい」と返事をして、レイモンが指示した。

「ドニ。マルティーヌ様にお茶のご用意を。ローラにも手伝ってもらいなさい」

レイモン! やっぱり、この家の使用人の入れるお茶って美味しくないんだよね? だからドニに命じたんでしょう?

ということは、さっきのただただ野菜を煮ただけの昼食についても、私と同意見かな?

「ねえ、全員で一緒に休憩しましょう。ドニ、四人分お願いね」

「マルティーヌ様。それはなりません。お優しい気持ちは嬉しいのですが、これからは当主としての振る舞いを覚えていただかなくてはなりません」

「わかっているわ。でも、今日くらいはいいでしょう? 今日だけはみんなと一緒がいいの。ね? お願い?」

頑張って瞳をうるうるさせて上目遣いにレイモンを見た。

「……。かしこまりました」

やった!

本当は主人と使用人が一緒に休憩するものではないと言いたかったのだろうけど、レイモンは諸々察してくれたようで、苦笑するだけに留めてくれた。

レイモンとドニとローラには、有無を言わさずダイニングルームに入ってもらい、私と同じテーブルに座ってもらった。

四人で紅茶を静かに口に運び、少しの間まったりとした時間が流れた。

レイモンはポーカーフェイスのまま、ローラは心配そうに、ドニは微笑みを浮かべてお茶を飲んでいる。

一息ついたところで、気になる問題から片付けるとしますか。

「ねえ、レイモン。この屋敷の使用人をどう思う? 率直な意見を聞かせて」

「私は年に一度しかこちらを訪れる機会はございませんでしたが――」

そういえばそうだった。レイモンって滅多に王都に来なかったし、来てもすぐに帰っていた。

おそらく会社の決算報告にあたる領地経営の報告をするために来ていたんだよね。

「ここ数年でほとんど入れ替わってしまったようですね。見事に私の知らない人間ばかりになってしまいました。率直に申し上げて、使用人としての資質を疑う者ばかりです」

「そうなのよ。この四年ほどの間に、使用人はほとんど入れ替わってしまったの。新しく来た人は怠けてばかりで……。どうしたものかしら?」

レイモンは顔色を変えずに言い切った。

「でしたら早急に片付ける必要がございますね」

「片付ける?」

「当家の、モンテンセン伯爵家にふさわしくない者には出ていっていただかなくてはなりません」

お! いきなりの人員整理ですか!

「いいの? 雇ったばかりの人もいると思うけれど。そんなに簡単に解雇していいものなの?」

「気分次第で解雇というのは主人としてあるまじき行為ですが、雇用契約に基づいて給金を支払っている以上、相応の働きを求めるのは当たり前のことです。給金に見合うだけの労働が供されなければ、契約に違反したことになります。その職が、よりふさわしい者に与えられるだけです」

「な、なるほどね。それじゃあ、片付けちゃいましょう」

ふむふむ。あれですね。「役務の提供」ってやつですね。